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「とある地の風習」 帰ってきているのは知っていた。 しかしまさか待ち構えていようとは。 遊びに行って帰ってきたらいきなりリビングに連れて行かれた銀河。 眼の前にあるのは・・・・・ 「・・・何それ?」 「ちっちっちっ。とにかくこれをこの方向を向いて食べるのですっ!」 父親のそこはかとなく神戸的訛りな言葉に、銀河はうろんげな眼を向ける。 「・・・せめて切り分けようぜ・・・こんな大きくて太い巻き寿司なんて食べにくいぜ?」 皿に乗せて差し出された"そのまんまの"巻き寿司を差して言う。 確かに言葉は正論である。 細巻きやきちんと切ってあるならまだしも、この大きさ(直径2pか3p?)をそのまま食いきれと言うのは・・・・・ が。 「何を言ってるんですか銀河さーんっ?」 ずずいっ、と顔を近づけられて思わず銀河は後ずさる。 「切ったらご利益がなくなりますでしょうっ!?」 びたんっ。 (い・・・いつの間に壁際っ!?) 後ろに行けると思ってたのに行けない。 完全に追い詰められた銀河は冷や汗を出す。 「いやそのだからその"利益って"何ですかっ!?」 「んー?」 「俺ってば関西の人間じゃないから判らないんですけどっ!!」 切羽詰まった末の最後の反論。 口から出た言葉はぎりぎりで源一の足を止めた。 「・・・むー・・・」 少し考えこむと皿をテーブルに置いた。 「では説明してあげましょうっ」 ちょっと待ってて下さいね、と言うと源一は荷物を置いてある床の間に行った。 どうやらメモかモバイルを取りに行ったらしい。 (た・・・助かったぁぁ・・・・・) 銀河はリビングの床にへたり込む。 いくら吉事、いくら福を招く慣習とは言え・・・・・今買い物に行っている母親や妹の分まで太巻き寿司を食べきるのは無理である。 ええそりゃきっぱり無理である。 そんな事をしたら夕食が食べられなくなる。 今日は源一が帰って来る為に銀河の好きなメニューと判っているのだ。 だからこそおやつを控えて食べる気十分で待ってるのに・・・・・ 「父ちゃんが帰ってきて妙な風習に染まってんのは・・・いつもの事だし・・・けど!」 食べ物に関しての実害は真剣にこたえるっ! ぐぐっと心の中で握り拳を固める銀河。 ・・・以前にお土産を食べて腹痛に苦しんだだけあり、ここらへんの警戒は鋭い。 たとえそれが日本国内の風習であり単なる巻き寿司でも、だ。 「おーっ!ありましたよ銀河っ♪」 ぱたぱたぱた・・・と、畳からフローリングへの足音が近づく。 (くっ!) 「ではリクエストにお答えして解説しましょう!長いので椅子に座ってて下さいねー」 説明メモでも見つけたのだろう、喜色満面の声。 軽快なそれを聞きながらも頭をフル回転して逃れる道を探す銀河。 (・・・そうだ!) 「銀河さー・・・」 「父ちゃんっ!」 「・・・?」 間一髪。 話の主導権を握った銀河はそれはもうにこやかに提案した。 「せっかく良い風習なんだからさっ、母ちゃんと乙女が帰ってくるまで待とうぜ!」 反論を許さず一気に言い切る。 「な、な!?そうしようぜ!俺はそれがいいっ!」 「銀河さ・・・」 「あ、これちょっと一本くれな!北斗にも教えてやらなきゃっ!」 正に脱兎のごとく。 巻き寿司を二本掴み取り、タッパーに入れて、手早く風呂敷に包んで準備完了。 「じゃあ父ちゃん、俺北斗の所に行ってくるわ!巻き寿司作ってくれてサンキューなっ!」 ばたんっ。 「銀河さん・・・持って行くならもっとたくさんあったのに・・・」 家のリビングには源一を残すのみ。 無事銀河のおなかは守られた・・・・・ <終わり> |
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転載の許可も頂いたので載せてみましたv 私の地域ではこの風習あるみたいです。(因みに三重県) そうそう、某店食品売り場で見たもので『今年の恵方は〜』と 節分には太巻きを食べようみたいな事が書いてあったところがありました。 が、ふと見るとその下の太巻きは…しっかり輪切りになっていたのでした(笑) 丸かじりでないと意味ないのでは、と苦笑した記憶が…(笑) |
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