満開の花を空に捧げ、その枝葉の広がりから連なったように見える並木。
薄曇の空を隠すように頭上の殆どを埋め尽くす桜。
満開の花々からひらひらと薄い桃色の欠片となって零れ落ちてくる。
北斗は桜の木の下で降り落ちてくる花びらを見ていた。
その下に立っていると、その色を分け与えるように頭や肩へと降り積もろうとしている。
先程からその場に居る為にすでにいくらかの欠片を頂いていた。
手のひらをそっと前へ出すと静かに落ちてくる花びらを受けとめる。

ひらり、ひらり……

風が止まっているために重力に従い花びらは落ちていく。
手のひらに溜まったそれをふわりとまた空へと投げ上げてみる。
何処かへ流れる事も無く、それはまたその場に戻ってくる。

ひらり、ひらり……

静かに降る桜を眺めていて、ふと思いついたように樹から離れる。
自分についた花びらを落とすようにくるりとその場で回ってみると、 身体の動きに合わせて少しの花びらが流れた。
それを見て大きく手を広げ、くるりとまた身体を翻す。
ゆるりと落ちるだけの桜の花が、にわかに起こる風に乗って舞い踊る。
(弱くていいから風が吹けば良いのになぁ…)
強い風では花を散らしてしまうかもしれない。
弱い風ならばきっと舞い散る様に変化が出るだろう。
ただ落ちるばかりではなくて、空へと舞いあがり行くのもきっと綺麗だろうと。
そう思いながらくるくると木の下で動いていた身体を止めた。
ゆっくり動いていたとはいえ少し回り過ぎてくらくらしている。
その場で目を閉じて収まるのを待つ。
目が回るのが収まった後も閉じたままでいると、空気が動くのを感じた。
静かに目を開け、そのまま前を見る。

さぁぁぁっ…

風に乗ってほのかに色づいた花びらが舞いあがっていく。
隙間から見える空に広がる雲へと溶け込む様に……消えていった。
顔を上げると、薄く広がった雲の間からわずかに光が差し込んだ。
飛んでいったそれを目を細めて見送る。
「北斗ー!」
名を呼ぶ声に見上げていた顔を元に戻し、風が吹いてきた方を向く。
元気良く手を振りながら駆けて来る姿に手を振り返し、両腕を組む。
「遅いよ、銀河!」
一応怒っているポーズをとってみるが、顔を真っ赤にして走ってきた銀河を見ると長続きしない。
更に珍しく今回は遅れるとの事前連絡をくれていたのだ。
「だ…から…、先に…連絡……いれた…じゃねーか」
膝に手を当てて荒い息をしている。
顔に流れる汗を袖でぬぐって呼吸を何とか整え、最後に大きく深呼吸をした。
姿勢を戻した拍子に降ってくる花びらが顔に張りついている。
「よし、行こうぜ!」
「そうだね。」
先へと歩き出す銀河の後を追ってその隣へと足を進める。
北斗は顔、動かさないでと言って腕を伸ばすと、先程くっついた花びらをとった。
取った花びらを見せると銀河はありがと、と笑いながら北斗の頭を払う。
「お前にもいっぱいついてるぜ。」
北斗は頭に手をやって目をぱちくりさせると笑って礼を言った。
「ありがとう」
「どーいたしまして」

そして笑いながら桜舞い散るなかを並んで歩いていったのだった。







別室においてあった『桜の下にて踊る北斗さん』です。


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