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ほんのひととき アルテアは1人で岩場にいた。 (結構、釣れたな。) 今日はいい天気だったから昼過ぎから海岸縁に出て釣りをしていたのだ。 日差しは少し強かったが彼のいる場所は岩が張り出していて丁度いい日陰を作っていた。 海から吹く風は少し強いが気持ちが良い。 水平線をくるりと眺めていると館へと向かう小道を誰かが走ってくるのが見えた。 「おーい、アルテアー!」 軽快な足取りで身も軽く走ってきた少年が手を振っている。 連休を利用して一緒に西園寺邸に来ている出雲銀河だった。 ここには草薙北斗、織絵、スバル達と一緒に来ている。 もともとアルテアと織絵とスバルに『久しぶりの兄弟水入らず』をやってもらおうとしていたところ、 スバルが北斗と銀河と一緒に来たがって現在に至るという訳だ。 「…どうした?銀河。」 「おばさんが、そろそろお茶の時間だから、迎えに行って欲しいって…」 軽く息を弾ませながら隣に走りこんできて話す銀河にアルテアは少し表情を緩めた。 「…だから迎えに来た。」 ふーっと息を吐いて呼吸を整えアルテアを見上げる。 「……客に出迎えをさせるとは…」 つり竿を片付ける手を休めて思わず苦笑して呟く。 「別に今更そんな客扱いしなくてもいいじゃん。それにこれはオレが自分で引きうけたんだし。」 にぱっと笑いかけアルテアの足元に置いてあるボックスを覗きこむ。 「おー、いっぱい釣れたんだなー。」 覗きこんでいる銀河を見ているアルテアの口元に悪戯っぽい笑みが浮かんだ。 「そうだな……」 片手で銀河の襟首を掴みそのまま肩の上に担ぎ上げる。 「ふえっ?」 突然のアルテアの行動に銀河は素っ頓狂な声を出した。 「こんな大物も釣れたしな。」 「ちょっと待てーっ、オレは魚じゃねーぞ!!っつーかその前に釣ってねー!」 肩の上で暴れる銀河をものともせずに反対側の肩にボックスを引っ掛ける。 空いている方の手につり竿を持つとそのままアルテアは館へ向かって歩き出した。 大きな木の下で植物辞典を開いていた北斗とスバルは聞き覚えのある喚き声が近づいてきたので顔を上げた。 しかし視界に入ってきた人物はその声とは違う人物だった。 顔を見合わせた二人は辞典を閉じて持つと歩いてくる人影の方へと駆けて行った。 「アルテアさんっ」 「兄上ー」 駆けて来る二人にアルテアは足を止める。 「何やってるの銀河?」 「遊んでるように見えるのか?これが」 「うん。」 ふてくされたような銀河の問いに二人を見ていた北斗は即答していた。 北斗の答えに声を押さえて笑っていたアルテアは言った。 「いや…今まで釣りをしていたのだ。どうだ?大物が釣れたろう?」 「なー、助けてくれよー北斗ー」 アルテアの悪戯っぽい笑みに気がついた北斗は話を合わせるように答えた。 「ホントだぁ、大きなお魚さんだねっ。」 「北斗ぉぉぉ…」 一旦アルテアの背中に突っ伏した銀河だったが、すぐにまた顔を上げて隣に並んでいたスバルに向かって懇願する。 「スバルぅぅー…」 凄く楽しそうなアルテアと北斗に挟まれてスバルは自分のとるべき行動を悟った。 (すまない、銀河……) 「兄上、釣り竿お持ちします。」 「そうか?有難う、スバル。」 そう言いながらアルテアは手に持っていた釣り竿をスバルに渡した。 「薄情者ぉぉ―――!」 そう恨みがましく言ってくる銀河に向かいスバルはとてもすまなさそうな顔を見せる。 「ベガがお茶の準備をして待っている、二人とも行くだろう?」 「はいっ。」 「はい、兄上。」 北斗は持っていた植物辞典を、スバルはアルテアの持っていた釣り竿を手にアルテアについて館へ歩いて行った。 「ねぇ、アルテアさん。僕そのお魚欲しいんですけど。」 「ふむ、どうするか…私も気に入っているのでな…」 北斗とアルテアは並んで好き勝手な事を言っている。二人ともとても楽しそうだ。 しばらくはじたばたと暴れていた銀河だったが、全く下ろしてもらえそうにないので今はおとなしく乗っかっていた。 少し顔を上げると少し遅れて歩くスバルと目があった。 すまない、とばかりに少し小さくなって見せるスバル。 「貰えないんですか?…じゃあ専用の場所を用意して家でかうっていうのはどうでしょう?」 「それも良いかもしれんな。」 そしてまた勝手な事を話し合っている北斗とアルテア。 (くっそー、覚えてろ…) アルテアの肩の上で密かに報復手段を考えている銀河だった。 「今戻ったぞ、ベガ。」 「御帰りなさい、あにう…」 肩の上に担がれた銀河を見て少し目を丸くした織絵は思わず出迎えの言葉をとぎらせた。 後ろについて歩いてきていた北斗とスバルを見てまた視線をアルテアに戻す。 北斗がにこにこしてしている様子から怪我をしたのではないだろうと見当をつける。 「あの…兄上?」 「ああ、大物が釣れたろう?」 織絵の問いに微笑んだまま報告するアルテア。 魚の入ったクーラーボックスを受けとっていた織絵はその言葉を聞いてくすりと微笑む。 「判りました。兄上、今お茶をお持ちしますね。」 「ああ。」 そう言って織絵は部屋を出ていった。 すとんと銀河をソファに下ろしアルテア自身も その向かい側のソファに座ろうとしてふと釣具を持ってきてしまっていたことに気がつく。 そして釣具を片付けに部屋を出ていってしまった。 下ろされたとたん銀河は不機嫌そうに身体ごと横を向いてしまった。 その隣に並んで腰掛け北斗は話しかけた。 「ぎーんが、ゴメンってば」 「…………。」 「銀河ぁ。」 身体ごと横を向いたまま返事を返さない銀河に斜め向かいに座ったスバルも少し心配そうに見ている。 しばらく無言の時間が流れた。 「ねぇ、銀河。機嫌直してよぉ……」 ふてくされて顔をそむけたままだった銀河はいきなりくるりと北斗のほうを向いた。 顔を覗き込んできていた北斗は間近に迫った顔に驚いて身体を引いてしまい少しバランスを崩す、 その隙をついて銀河は北斗を床に引き倒しあっという間に馬乗りになった。 あっけにとられている北斗を見ていたずらっ子の顔で銀河がにやりと笑う。 「……くらえ北斗ー!」 次の瞬間その部屋には北斗の声が響き渡っていた。 「あははははははっ…くっ、ごめ…ッんて…!!」 「一緒になって遊びやがったお返しだっ!」 おもいっきり脇腹をくすぐり出したのだ。 必死に暴れて抵抗するが力の差は歴然、 しかも押さえこまれているため暴れるといってもたかが知れている。 くすぐるという行為はやられたほうは結構体力を消耗するもので、北斗はもはや息も絶え絶えな状態だっだ。 そんな二人を見ていたスバルは少し冷や汗を掻きながら扉の方へ少しずつ移動し始めた。 次やられるのは自分だと何かが告げている、北斗には悪いがやられる前に逃げなければ…… だが、そんな彼を見逃してくれるほど事態は甘くなかった。 「どーこへ行くのっかなー?スーバールーくーん?」 歌うような節をつけて後ろから声がかかる。 ギョッとして振り向くと結構距離があったはずなのに何時の間にか真後ろにまわられていたらしく 銀河が思ったより近くにいる。 どうやら間にあったソファなどは飛び越えてきたらしい。 そして先ほどまで響き渡っていた北斗の声がしなくなっていた。 「い、いやその……。」 にっこりと笑いかけられてスバルは反射的にぎこちなく笑い返す。 「お前も…同罪だっ!!」 足払い一閃、銀河に床に引き倒されると馬乗りにされて押さえこまれる。 少し遅れてスバルの笑い声も響き渡っていった。 |