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林檎 大きく開けた窓から少し強めの風と日の光が入ってくる。 廊下に面したドアを開け放している為、風は服の裾をはためかせ微かに薫る甘い匂いをのせながら過ぎて行く。 日差しの当たる背中はとても温かい。 くるりと見渡した範囲内には持ち運べそうな小さなテーブルとソファー、他の調度品が少しあるくらいだ。 日当たりの良いそう狭くは無い部屋の窓を背にしたソファーの上に銀河は座っている。 しゃりっ 手に持った真っ赤に色付いた実にゆっくりと歯を立てる。 つやつやと光るその皮の下には真っ白な果肉を覗かせている。 かじりとった欠片をよく噛んで飲みこむと、 持つ手に零れ落ちそうになった果汁に気づいて慌てて舌でなめとった。 そのままでも良い香りを放っていただけはあって、とても甘い。 また大きく口を開けてかぶりついた。また少量の果汁がこぼれるが今度は気にせずにそのままにしておく。 片手では持ちにくい大きさの赤い実……実は、その場に持っているのは一つだけではないのだが。 (一個で結構腹いっぱいだな、これは…) どーすっかなー、としょりしょり果肉を噛みながら考えた。 噛むごとに甘い汁が口内にこぼれる。 折角貰ったものであるのだし、傷まないうちに食べてしまいたかったのだ。 真っ赤に熟れた、大きな甘い林檎。 今食べないと痛んでしまうぞとでも言いたげな香りを放っている。 また一口齧ろうとした時、目の前の廊下を通りすぎようとするアルテアの姿を見つけその手を止めた。 「アルテア。」 ひらひらと林檎を持っていないほうの手を振る。 「ああ、銀河か…」 アルテアは抱えていたファイルを持ちなおして銀河の前で足を止める。 「こんな所でなにをしているのだ?」 アルテアの言葉に見たまんまじゃん、と銀河は笑っている。 「林檎、貰い物なんだけどさー。傷まないうちに早く食べた方が良いと思って…」 そしたら一個で腹いっぱいになっちまいそうでさー、と銀河は笑って言った。 座っている膝の上にハンカチが敷いてあり、 その上にもう一つ今持っているのと同じ位の大きさの林檎が転がしてある。 「ほう、良い色だな…」 外に見える紅葉よりも濃い赤をしている林檎。 アルテアはその艶を確かめるようにちょん、と膝の上の林檎を指でつついて見ている。 「良かったら食べねーか?これ」 そう言って銀河は林檎を差し出した。 「…良いのか?」 「さっきこれ一個で一杯だって言ったじゃん。」 にぱっと笑顔を見せてからそうそう、と一つの提案をする。 「今食べるんなら、ちょっと待っててくれたらオレが切るけど…。」 銀河の申し出にアルテアはゆっくりと首を横に振る。 「もう洗ってあるのだろう?なら、このままでかまわぬ。」 銀河から林檎を受け取ってそのまま隣りに腰掛ける。 口元にそれを持っていくと、そのままかぶりついた。 しゃくん、と汁気たっぷりな音をさせて一口ほおばると 口の中の林檎を完全に飲み下してから口を開いた。 「折角の申し出は次回にとっておく事としよう。」 楽しそうにアルテアは笑う、……それはつまり 「オレに他にも何かさせようとしてるか……?」 口約束とは言えアルテアはこう言う約束はしっかり覚えているだろう。 その時になってみないと判らないが、林檎だけ剥くという事も無いだろうし。 しかもアルテア一人だけとは限らないわけで…… (……何でこう言う手を使うのが好きなんだコイツは。) 別に強制では無いのでやる必要は無いように思われるが、 日頃お世話になっているのでこんな時くらいは素直にしてやるべきなのだろうか… そんな銀河の心中を察したかのようにアルテアは微笑ったまま言った。 「楽しみにしているぞ。」 (あ、やっぱり。) 確信犯的な発言に林檎にかぶりついたまま首をかくんと前に倒し、銀河は苦笑した。 仕方ねえなあと気を取りなおして口の中のものを噛み砕いた。 しばらくは室内に林檎を食べる音だけが響く。 時折食べるのを止めて一言二言交わしてみたりもするが、殆ど無言のままだった。 銀河の持つ林檎の最後の一口がすっかり消える頃には、アルテアの林檎もほぼ同じ状態となっていた。 「しかし綺麗な色だったな。」 食べ終わった林檎の芯を眺めながらアルテアが口を開いた。 指についた果汁を舐めていた銀河も頷く。 「綺麗な赤だよなー、色薄い所なんか全然無かったもんな。」 「……この間遅れてきた銀河を思い出したぞ。」 思いっきり怪訝な顔をする銀河を見て口元に微笑を浮かべた。 「走ってきて頬が真っ赤だったろう?それを思い出したのだ。」 可愛かったぞ?とアルテアは笑っている。 その言葉にちょっとむっとする。可愛いと言われてもあまり嬉しくない。 きっと誉めているつもりなのだろう、なのだろうけどこれは絶対…銀河の返す反応を面白がってもいる。 (……むか。) |