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この話の前にお読みになる事をお勧めします。 白撫子の栞 (うああぁぁ……どうしよう……) 水族館からの帰り道、レオは内心泣きながら歩いていた。 目の前を歩いている背中を見た後、その隣りを歩いている小さな人物を見やる。 これから後に起こる事を知っていて心配してくれているのだろうか、 ちょこちょことこちらを伺っていたようで目が合った。 これ以上心配かけたくないので、手を振ってにぱっと笑いかける。 銀河はほっとした様子で笑い返してまた前を向いた。 何時ものように並んで歩きたいなぁ、とレオは思う。 銀河の両隣は塞がってしまっているので、どちらかと変わってもらう必要が有るけれども。 だがつい騒いでしまった時その車道側に居る人が怖いので、大人しくついていくことにする。 ―――――どうせこの後たっぷり叱られるのだし。 怒られる理由も――自分だけが悪い訳ではないと思うのだが――わかる、でも。 (やっぱ怖えーよー。) このまま回れ右して何処かへ逃げたい、逃げたいがそんな事をすればもっと怒られる。 もうすぐ星見アミューズメントパークが見えてくる、スバル達の住んでいるGEARの施設までも遠くない。 施設に着いたら…お叱りの時間だろう。もちろん当事者のドラゴンも一緒に。 その怒られる予定のもう一人はと見れば何でも無いような表情で歩いている。 ……良く見るとちょっと顔色悪いみたいだが。 (へん、ザマぁみろ。) 自分も叱られると言うのにレオは少し気分が良かった。 今の状況は少し前に起こった出来事が原因となる――― ちょっとした言い合いがエスカレートして、売り言葉に買い言葉。 言い負かすにはちょっと難しい相手とちょっぴり手や足が出やすい自分。 ついでに言えば相手は人の神経を逆なでするのも上手だ。 ぶち切れて攻撃を仕掛けるも、さすがに人の多い水族館内で暴れる事は出来ずに外へ飛び出した。 ……出てきた館内も少し騒がしくなっているが、それはまあ置いておいて。 凄い勢いで飛び出してきた男性二人に驚く通行人達。 銀河達が追いかけて外へ出た時には既に戦闘――単なる兄弟喧嘩かもしれないが――が始まっていた。 「レオーっ!やめろってばーっ!」 「ドラゴン!ああっ、もう!」 それぞれの主人である銀河と北斗の声にも止まる様子を見せず、次々と蹴りや突きを繰り出すレオ。 一方のドラゴンは身軽にかわし、時には反撃などをしたりしている。 「どうしよう、僕達の声届いてないよ。」 「アレだけ集中しているとなー…」 ぼそぼそと相談している北斗と銀河、その隣りで何やら考えこんでしたスバルは顔を上げた。 周りのざわめきに負けないよう二人に聞こえる位の大きさの声を出す。 「……ボア達に連絡をとったらどうだろう?」 ばっ、と二人はスバルの方を振り向く。 「同じデータウェポン同士だから、きっと止めてくれると思う。」 「良い考えじゃん、スバル」 「そうだね、僕連絡してくる。」 ぽん、と手を叩いて賛同してくる銀河と早速携帯をだして連絡をとりだす北斗。 周りの音が邪魔にならないように、少し離れた所へ移動して話しだした。 直接連絡のとれるナンバーへと電話を掛ける。 何かあった時の為にと聞いておいたのが役に立つとは……。 大体何かあった時は必ずと言って良いほどデータウェポンの誰かが一緒にいるので 使わないだろうと思われていたのだ。 だから、この連絡先に出る相手が誰であろうとデータウェポンの誰かには違いないので、 繋がったと同時に北斗は話し出した。 「もしもしっ、ボアいる?」 『……どうされたのですか、北斗さん。』 2、3回のコール音の後出たのは、幸い当人だったらしく早速北斗は事情を話し出した。 銀河とスバルがはらはらしながら見守っていると、電話を終えた北斗が戻ってきた。 「ボア達直ぐ来てくれるって。」 携帯をポケットにしまいながら北斗は言った。 北斗が電話を掛けに行っている間にも状況はさほど変わらずにいた、最初はそれほどいなかった観客が増えているくらいだ。 幸い周りのものや人には被害は無いが、それも時間の問題かもしれない。 「俺さ、止めに行ってみようか?」 視線は二人を追ったままで銀河は言う。 「危ないからやめておいた方が良い。」 「そうだよ、いくら銀河でも……あの中に入っていくなんて無謀過ぎるよ!」 口々に止めに入るスバルと北斗。 三人の視線の先には次々と蹴りを繰り出すレオとそれを鮮やかにかわしているドラゴンの姿。 背が高く見目良い男性二人のやりあいに、人通りの多かった道路に見物客が人垣を作っている。 レオの攻撃が当たったり、ドラゴンが反撃したりする度に歓声が上がる。 「でも、このままじゃあ……」 周りの人や物に当たるかも知れない、と続けようとした銀河の言葉を遮る声。 「そんな事で銀河さん達がケガをしたら、私達が怒られますよ。」 その声に後ろを振り向くと待ち望んでいたその姿があった。 「お待たせいたしました。」 銀河の肩に手を置き優しい笑顔でボアは上から見下ろしていた。 珍しく帽子をかぶり何時もならばゆるい三つ編みにしてある髪を解いて、背中に流している。 その後ろにはブル達が付いて来ていた。 「さっき連絡したばかりなのに…早かったね。」 「ええ、出来るだけ急いで来ましたから。」 北斗の言葉に返事を返しておいて、それでは、とボアは歩き出す。 「銀河さんは危ないですから、ここで待っていて下さい。」 一緒に来ているブル達に銀河達を任せて、ボアはすっかり接近戦に入ってしまった二人に向かってずかずかと歩いていった。 「あ、ボア!」 いくらなんでも無造作に近づくのは危ないと思った銀河が声を上げる。 「大丈夫、大丈夫!直ぐに決着つくと思うから、見てよーよ。」 傍に立つユニコーンを見上げて北斗は怪訝な表情をしている。 北斗の隣りに立つスバルと銀河も同様な表情をしていた。 その様子がおかしかったのか、くすりと笑ってブルが少し説明を入れた。 「髪を解いたボアって『本気』な状態なんですよ。」 そうそう、とユニコーンは頷いている。 「あの状態のボアには逆らえないよねー。」 ねっ、と斜め後ろにいた人物に同意を求める。 その言葉につられて見た視線の先にあるのは長い黒髪の小柄な姿。 その姿に少々驚いて、お子様達の目が見開かれた。 「……バルも来てくれたのか。」 身体の調子は?と問いかけるスバルにバイパー…バルは優しい笑みを浮かべる。 「大丈夫だ。」 そう言いながらスバルの隣りへと歩みを進める。 「ま、見ていると良い。本来このような事は起きぬ方が良いのだが…めったには見れぬものだからな。」 そうこうしている間にもボアは現場へとたどり着いていた。 |