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広がる幸せ。 良く晴れ渡った青空が支配しているある日。 一つの教会はにぎわっていた。 教会の入り口に立った1組のカップル。今を持ってして夫婦となった二人は 緩やかな風と共に花と紙ふぶきの舞い散る中、陽の光を浴びて幸せそうに笑いあう。 入り口階段下の参列者達の間からも拍手と歓声が沸き起こる。 喜びを祝う声と、そして、声には出さないが更なる幸せを願う思いと。 さまざまなものが青い空へと吸い込まれ、辺りに広がっていく。 綺麗に着飾った女性陣や、女性陣には負けるがそれなりな格好をしている男性陣。 その中には正装した北斗と着なれない服装を気にしている銀河の姿もある。 二人とも手に下げた籠から花や紙吹雪を撒き散らしていた。 本日の皆の祝福を受けている対象は吉良国進と浅野愛子の二人―――二人の結婚式なのだ。 白いウエディングドレスに身を包んだ花嫁の手からブーケが青い空へと飛んで行った。 飾りのリボンをなびかせてブーケが緩やかな放物線を描いて落ちてくる。 参列者の大半の女性の視線を集めつつ、それは周りで見ていた参列客の一人の手の中にすっぽりと収まってしまった。 そう、銀河の手の中に。 「……オレぇ!?」 受けとってしまったブーケを手に銀河は素っ頓狂な声をあげる。 周りでは受け取りそこねた女性陣が騒いでいた。欲しかったのにー、という声も上がっている。 「ズルイ、銀河。」 薄いオレンジのドレスで着飾ったエリスも隣でうらやましそうに見ている。 「そっかぁ、次の花嫁さんは銀河なんだね。」 腕を組んでうんうんと頷く北斗に向かい、んなわきゃねーだろ、と銀河は言い返す。 「なんで銀河が花嫁なんだ?」 そう質問をしてくるスバルに北斗はブーケにまつわる言い伝えを説明した。 「……言っとくけど今回をその例に当てはめるなよ?」 にらんでくる銀河にスバルはこくこくと頷いた。 よし、とスバルの返事に満足したのか銀河は笑顔になる。 さっき受け取ったブーケをひょいと掲げると言った。 「欲しいんだろ?やるよ、エリス。」 「え!いいの?ありがとう、銀河。」 「あ、ちょっと待って。」 何か思いついたのか銀河がエリスに受け取ったブーケを渡そうとするのを止めて、北斗は階段下まできていた二人に向かって声を掛けた。 「愛子さーん!ヴェール貸して下さいっ。」 「良いわよー。」 愛子に投げてもらおうとしたが、ここまで届かないだろうと思いなおし急いで取りに行く。 受け取るとそのまま戻り、その勢いでまだブーケを持っている銀河にヴェールをかぶせた。 「…え?」 「はい、花嫁さんの出来あがりー。」 周りにいて一部始終を聞いていた人達が一斉に吹き出した。 北斗はそのまま頬がくっ付き合うぐらいに近づくと、織絵に向かって言った。 「母さん、撮ってv」 「ふふ、笑ってね。」 北斗はにっこりと笑っている。シャッターの切られる音がした。 ヴェールをかぶせられた当人はぽかんとしていたが、理解してくると軽くうつむいてこぶしを握り締めた。 うつむいていた顔を上げる。 「北斗。」 銀河はにっこりと笑うとすっ、と軽く重心をずらした。 その動きを見た北斗の笑顔が固まる。 次の瞬間、飛んできた銀河の蹴りをなんとかかわし距離をとる。 離れた北斗を追って次々と攻撃が飛んできた。慌ててもっと距離をとって、逃げの態勢をとる。 「あっ、危ないよ銀河!」 「うるせぇ!大人しく殴られろっ!」 「殴ってないじゃないかぁっ。」 全力で持って銀河の攻撃をかわしながら逃げ回る北斗とそれを追いかける銀河。 周りの大人達ももう慣れた事なのか止めようとしないで笑って見守っている。 「ちょっとは場所柄わきまえて、止めなさいよ、あんたたち!」 エリスは制止の声をあげたが、本気で追いかけっこに入ってしまっている二人が聞くはずも無い。 何時もならば北斗が逃げ切る事は助けが入らない限り余り無いのだが、本日は正装しているために銀河の少し動きが鈍くなんとか逃げていた。 すぐ側を掠める銀河の拳や蹴りをかわして北斗は謝りながら必死で逃げる。 「ごめんてばーっ。」 「やかましい、今日はぜってー殴る!」 ヴェールをかぶりブーケを持ったままの姿の銀河は流石に少林寺拳法は使っていないが攻撃の手は甘くない。 教会の周りを走っているうちに、何時の間にか二人は参列者達の近くにまで戻ってきていた。 参列者の一団の側を北斗は走りぬけた。 その後に続き走りぬけようとした銀河の身体が軽い衝撃と共に止められる。 えっ、と銀河が驚くと同時にふわりと浮いた、誰かが横から銀河を掬い上げたのだ。 見上げると、緑の髪と整った顔が近くにあった。 「ア、アルテア……。」 呼ばれた当人はふっ、と微笑むと一旦銀河を地面に下ろし崩れていた服装を直してやる。 「折角着飾っているのだ。あまり、この服装で走り回らぬ方が良いな。」 「あ、ああ…。でも北斗のヤツが!」 そう言いながらもすばやく周りに視線を走らせ北斗の姿を探す銀河。 逃げられてしまったようで近くには姿が見当たらない。 そんな行動をとるのを見てアルテアはぽんと銀河の頭に手を置いた。 「……今日は喜ばしい日なのだろう?少しぐらいは我慢してやったらどうだ。」 でもよー、と口を尖らせる。頭に置いた手でヴェールも直してやるとそのまま抱き上げた。 「お、おいっ」 急な事に慌てた銀河は思わずアルテアの首にしがみつく。アルテアはそのまま後ろへと振り向いた。 「ベガ。」 「はい、兄上。」 振り向いた先には織絵がカメラを準備して待っていた。続けてシャッターが切られる。 銀河の目が点になった。 「アルテア…お前…。」 銀河は今は視線がほぼ同じ高さにあるアルテアの顔をにらんでいる。 にらまれた当人は微笑をたたえてその視線を受け流す。 「似合っているのだから良いではないか。」 「……そんな事言われても嬉しくねーよ……。」 もはや何か諦めたのか銀河は溜息を一つついて言った。 つーかむしろ北斗のが似合うと思う、などと呟いてみたがアルテアは何処吹く風だ。 ふと、自分の言った事に何か気がついたのか、銀河はじっとアルテアの顔を見つめる。 「…何だ?」 視線に気がついたのかアルテアが問いかける。 銀河はブーケを壊さないようにそっと片手で抱えこむと、 黙ったまま自分のかぶっていたヴェールをアルテアの頭にかぶせた。 「やっぱお前のが似合うじゃん。」 銀河は手を叩きながら笑っている。 前にアルテアの小さい頃に北斗は似ているという話を聞いていたので、北斗のほうが似合うのなら きっとアルテアも似合うだろうと思ったのだ。 緑の髪に薄いヴェールがかかって、うっすらとした霧の中立ち並ぶ木々を思わせる。 銀河はこの分じゃスバルも似合そうだな、などと言いながら笑っていた。 どう反応を返せば良いのかわからず、アルテアは空いた手でヴェールを軽く引っ張ってみる。 そこへ何処まで逃げていたのか北斗が戻ってきた。 「銀河、そろそろ愛子さんにヴェール返さなくちゃ……」 抱き上げられたままの銀河とヴェールをかぶっているアルテアを見て言葉をとぎらせてしまった。 「そっか、そろそろ…」 それを聞いた銀河はアルテアに下ろして欲しいと言おうとして北斗の発言に言葉を失った。 「アルテアさんずっるーい、僕もソレしてみたいなぁ。」 どうやらアルテアのように銀河を抱き上げてみたいらしい。 ちなみに銀河はそれを聞いて固まったままである。 「北斗、やるのは良いが支えきれるのか?」 しかも抱き上げられている本人の意向は気にせずにアルテアはやらせてみる気らしく、結構乗り気だっだ。 「大丈夫v」 大分鍛えられたもんねっ!銀河を支えるくらい大丈夫、とやる気満々の北斗。 「そうか。」 そんな北斗を見てアルテアはそれならと銀河を渡そうとしたその時。 「ふっふっふっ…」 低く銀河が笑う。何事かと思い北斗とアルテアは覗きこんだ。 「んな事したら暴れてやるぜ。」 銀河は二人を見ると、きっぱり言いきった。 暴れられると支えきれないかも…と考えこんでしまった北斗に向かってアルテアは言った。 「今回は仕方ないな…またの機会にでもするとしよう。」 それに急ぐのだろう?続けて言いながらかぶっていたヴェールを脱いで北斗に渡す。 その言葉にそうだった!と北斗は急いでアルテアからヴェールを受け取り、返してくるねっと吉良国たちが待つほうへと走っていった。 走って行く北斗を見送っていると腕の中の人物が自由を獲得するために行動を開始した。 「いいかげんに降ろせってば!」 声と同時にぐいっと髪を引っ張られた。バランスを崩しそうになりながらもなんとか持ちこたえる。 「…っ、危ないではないか。」 「お前がさっさと降ろさないからだろ。」 にらみつけてくる銀河を見ると、微苦笑してそっとしたに降ろす。 ったくもう、お前らは…などとぶつぶつ言いながら抱えたブーケを持ちなおす。 「銀河ーっ!吉良国さん達移動しちゃうよーっ!」 「判ったーっ!今すぐ行くーっ!」 北斗の呼び声に負けないくらいの音量で答えておいて、ぐいっとアルテアの腕をとった。 「お前も来るのっ。」 そう言って先に立って走り出した。ついてくることを疑わないらしく結構なスピードで走っている。 引っ張られるままにスピードを合わせて走っていく先には、 車に乗りこもうとする二人の姿が見えた。 「おーい、おっさーん。」 銀河の声に愛子の後に続いて車に乗ろうとしていた吉良国が振り向く。 おっさんじゃなーい!という何時もの答えに銀河は笑って言いなおした。 「はは、吉良国さーん!愛子さんの尻にしかれてんなよーっ!」 その言いぐさに思わず吉良国はずっこけ、周りは笑い出した。 そんな事言ってるんじゃないっと、北斗とエリスが同時に銀河にツッコミを入れている。 エリスの顔を見て手に持っていたブーケの存在を思い出したのか、遅くなったけどやるよこれ、とブーケを手渡す。 受け取り、にっこりと笑い礼をいうエリス。 銀河も似合っていたのに…などと思わず呟いて銀河に叩かれた北斗。 スバルはずっと笑いっぱなしだ。 そんな光景を見ながら笑っている人達のなかに自分が居て、 共に笑っていることで優しい気持ちになったのをアルテアは嬉しく思ったのだった。 |