夏の夜のすごし方



(……寝れねー…。)
銀河はあてがわれたベットの中でごろんと転がった。
部屋の中は暗く、非常灯だけがぼんやりと光っている。
枕元に置かれた時計に目をやるとAM1:45という表示が読めた。
もうそろそろ良い子の皆さんは寝ている時間だ。
現に同室にいる北斗とスバルはもう寝息をたてて眠っている。
とは言っても銀河も普段はこんなに遅くまで起きているわけでは無く大抵この時間は寝ている。
なのに起きているにはやっぱり理由があった、別に今悪い子であるからと言う筈も無いが。
原因である隣で寝ている背中をじーっとにらんでみる。
が、当たり前ではあるが視線を受けても起きる気配は無い。
(ちくしょー…。)
がばっと置きあがると、掛け布団代わりのタオルケットから抜け出し静かに音をさせない様にそーっと顔を覗きこんだ。
タオルに包まりぐっすりと眠っている北斗が居る。
その寝顔を見ていたら何か少しムカッときたので、にやりと笑うとひょこっと鼻をつまんでやる。
しばらくすると息苦しくなったようで口で息をし始めた。
銀河はくっくっと笑ってその様子を見ている。
そしてそのまま鼻をつまんでいると、ぺしと手を払われた。
(もう一回やってやろうか、コイツ……)
そう思ったがそれを実行には移さない。
明日起きたら違う事で何か仕返ししてやろう、そう考えると自分の使っているベッドに戻った。
もう一度寝転んでみるが睡魔はなかなか訪れてくれない。
暗闇の中で目をあけて非常灯のわずかな明りで靴をはく。
そして同室の二人を起こさないように部屋からそっと滑り出た。

事の起こりは数時間ほど前。
その日は翌日休みの為に北斗と銀河はスバルのところへ泊まりに来ていた。
「いいっ、かいだんー!?」
パジャマに着替えた銀河は北斗の言葉に枕を抱えたまま後ろにひっくり返りそうになる。
同じくパジャマ姿でベットの上で座りこんでいる北斗はにこにこと笑いながら一つの提案をしていた。
どうやら夏名物怪談話をしようということらしい。
「そっ、折角夏だしスバルにも教えてあげようと思ってさ。いくつか仕入れて来たんだよねぇ。」
「かいだんって何だ?」
こちらもすっかり寝る支度を整えたスバルがベットに腰掛け聞いてくる。
「かいだんってのは例えば建物の一階から二階ヘ行く時にその間を繋いでる段差のある…」
「それは『階段』。いや話すと一緒だけどさ、僕が言っているのは幽霊話とか怖い話のほうの『怪談』だよ。」
銀河の説明にツッコミをいれておいてから側にあったメモ帳に実際に字を書いてスバルに説明する。 「でも何で夏だからなんだ?」
「良く知らないけど、怖い話を聞いて涼しくなろうって事だと思うよ。」
「ふーん、おもしろそうだな。」
(んなの、おもしろくねーーーっ)
銀河は心の中で絶叫した、が隣では北斗とスバルがすでに話をする態勢に入っている。 ちらりとスバルのほうを覗くと北斗の話にどんな話をするのかと期待している表情が見える。
そしてすっかり話す気満々の北斗。
逃げよっかなーと思って少し動いた時北斗がそっと耳打ちした。
(そんなに怖く無い話ばっかだから大丈夫だよ。)
ねっ、と北斗は笑いかける。銀河は逃げるのを諦めてその場で枕を抱えこみなおした。

「でね、また電話がじりりーんて鳴ってね…受話器を取ると『もしもし…あたしリカちゃん…』ってやっぱり声がするんだ。 しかも前にかかってきた時より声が近くに聞こえるんだよ…」
部屋の照明を落として、皆で一緒に寝るために一つにくっ付けておいたベットの上に集まる。
真ん中に部屋に置いてあったライトを置くとそれなりな雰囲気は出る。
「……。」
無言で頷くスバル。その隣で銀河は静かに枕を抱きしめている。
「その人は嫌な予感がしたんだって、そしたら…『今ね……貴方の後ろにいるの!』」
それまでのささやくような声とは違いいきなりの大音量にスバルはびくっとした。
銀河の方は声すら出ていない、抱きしめた枕に顔を埋めている。
「後ろには水浸しの青白い女の子の顔があったそうだよ…どう?怖かった?」
何時もの調子の笑顔で聞いてくる北斗、スバルは良くわからないと答えた。
「あ、でも話してる時の北斗は何となく怖かった。」
あのねぇ…と苦笑すると何時もならもっと騒がしいであろうもう一人の顔を覗きこんだ。
「銀河は?」
とたんに枕が飛んできた、避ける間も無く顔にぶつかる。
「痛たた……」
「オレに聞くなよっ…オレはそういう話嫌いなんだっ!」
これまでの北斗の話ですっかり涙目になっている。
あ、そうかと北斗はぶつかった枕を銀河に返しながら言った。
「ごめんごめん、そこまで苦手だったとは知らなかったよ。」
「銀河、苦手なのに一緒に話聞いててくれたのか。」
寝転んで話を聞いていたスバルが起きあがる。
じっと見つめてくるスバルから顔を隠すように投げた枕を抱えなおす。
「別にお前は気にしなくていーんだよ。」
覗く首筋がほんのり赤く見えるのはけして気のせいではないだろう。
ぽりぽりと頬を軽く引っかきながらそれを見ていた北斗はぱちんと両手を合わせて言った。
「えーと、もう遅いし。そろそろ寝ようか。」
そう言うと3人は前もって決めていた場所にそれぞれ寝転んで電気を消した。
そして今の銀河の状況に至るというわけである。

廊下に出て窓から外を覗く。
非常灯のかすかな明りで外が見づらかったので手で影を作って覗きこむ。
空にはほのかに星が輝き町には外灯の明りがちらほらと燈る。
殆どの家の明りは消えているがついている建物もいくつか見える。視線をずらして空と陸の境界を見る。
山の輪郭線と夜空が溶け合うように見えるが、星が見えなくなっているので溶け合ってはいないと判る。
(……静かだなー。)
こつんと窓ガラスに額をくっ付けて壁にもたれかかった。
もちろんGEAR基地内にも夜勤の人はいるだろう、だが少なくとも銀河の周りには今の時点では誰もいなかった。
そう、今の時点では。

コツコツ…

静かな廊下に音が響く。
普段なら気にも留めないような音だが、あんな話を聞かされた後では何でも関連付けて考えてしまいそうだ。

コツコツ…コツコツ…

(だんだん近づいてくるじゃねーか…)
ちょっと怖くなってもたれていた壁から身を起こし、部屋へ戻ろうと向きを変えた瞬間ぽんと肩を叩かれた。
悲鳴を上げそうになったのを堪えたが、堪え切れずに小さな声が漏れる。
「ひゃっ…!!」
ついで後ろから声がかかった。
「……すまん、驚かせたか。」
両肩に手を置き上から見下ろすようにして覗きこむ。
薄暗くて今は良くわからないが、陽の下では新緑の木々を思わせる瞳が見つめている。
「アルテアかよー…」
得体の知れない物ではなかったという安堵にその場にへたり込みそうになる体を支えて、後ろに立つアルテアにもたれかかる。
「そんなに驚くような事だったか?」
「いや、ちょっと、な…」
歯切れ悪く言葉を濁す銀河の様子にアルテアはあまり言いたくないのだろうと見当を付け、その事にはこれ以上触れない。
「まあいいが…それよりも、とうに寝てる時間ではないのか。」
「しょうがねえだろ、眠くねーんだからよ。」
ぷいと横を向きかけて、先程からずっともたれかかったままだと気づくとすまねー、と言って身体を起こした。
「ふむ、しかし体は休めておいた方が良いぞ。」
そんな様子に思わず微笑んで頭を撫でてやる。大人しく頭をなでられていた銀河はわかってるよっと拗ねて横を向いてしまった。
「…そうだな、眠くないのなら先程驚かせた詫びに部屋で飲み物でもご馳走するとしようか。」 来るか?とアルテアが問う。
「ホントか?行く行くっ。」
飲み物を奢ってくれるという事に銀河の目が輝いた。
少し大きくなってしまった声に慌てて銀河は口を押さえ、同時にアルテアは口の前に人差し指を立てて声が大きいぞ、と苦笑交じりに言った。
「それを飲んだら寝るのだぞ?」
ま、眠くなくともベットに横になっているといい、と言うアルテアの言葉に銀河は口を手で押さえたままこくこくと頷いた。






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