六花降る カーテンを少しめくると室内との温度差で窓ガラスは雲っていた。 硝子を透かしたその向こうには暗闇の中低く垂れ込めた雲が見える。 (う〜寒っ。雪降るかなー…) 昼間ほんの1、2時間程だったが物凄く雪が降っていた。 積もる事は無かったのだが、窓の外で雪片が渦を巻き舞い踊っているかのようだった。 今の所降るのは一段落している、だがそれ以来冷え込みがまた一段と増しているような気もする。 じんわりと染み込むような寒さの中きゅ、と曇った窓に指で線を引いてみて覗きこむ。 真っ暗で白の欠片も見えない風景を見て銀河はその場を離れた。 (明日になれば判るよな。) そう考え明りを消してベットに潜りこんで、掛け布団を首まで引っ張り上げた。 暖かい布団の中、目を閉じていると銀河は何時の間にか穏やかな寝息をたてていた。 銀河が眠りについたその数時間後、北斗は自室のパソコンの前に座っていた。 ずっと同じ姿勢でディスプレイに向かっていたので体が少々痛い。 大きく伸びをしてくるりと椅子ごと半回転すると、イスから降りて少し身体を動かしてみる。 体の節がぺきぺきと音を立てているのが聞こえた。 ふと、気になってくるくると肩を回しながらふらりと窓辺に歩み寄るとカーテンを摘む。 少し前に見た時はうっすらと雪が積もっていたのだが―――。 (どのくらい積もったかなぁ。) そんなことを考えながらカーテンをあけたら窓の外は真っ白だった。 (……うわあ。) 街燈の明りに照らされる一面の白銀世界。視界の中で灯りが届く場所は白く、離れる毎に紺に染まる。 ちょっと見ない間にしっかり雪が積もっていた。 向かいの屋根の上の積もり具合がおよそ10cmくらい、そして今もなお雪は降っているのだ。 半透明のエイリアス体のユニコーンも傍に来て一緒になって窓を覗きこんでいる。 「明日遊べるね…スバルたちも誘って皆で遊ぼう。」 遊ぶと言う言葉で喜ぶユニコーンがはねまわっているのを横目に北斗はパソコンの電源を落とす。 部屋の明かりも消し、冷えてしまわないうちにと梯子を上りベットに潜りこむ。 ユニコーンは周りを回っていたが寝る態勢の北斗を見てギアコマンダーへと戻っていった。 少し冷えかけていた布団に身震いしたが、ほんの僅かな我慢とじっとしていると次第に体温で温まってくる。 そのうちにうとうとと眠気はやってくる、明日は晴れると良いなと思ったのが最後で後は何も考えられなくなっていった。 外に出なくとも吐く息が白い。外気温との差で曇った窓の外にはどっさりと雪が積もっていた。 ほんとうにどっさりと。庭の飛び石など埋もれて見えず、樹木は白い方の面積が多いほどだ。 前の夜の期待感から何時もより少し早起きした銀河は少し早い朝ご飯を食べて、しっかり暖かい格好をして外へ出る。 少し呆れたように、それでも理由が理由なので笑いながら母親は銀河を見送ってくれた。 何も跡の付いていないまっさらな地面に足跡をつけて歩き回る。 外からはざりざりと家の前の雪を退けているらしい音がする。遠くで大雪に喜んでいる子供の声もした。 ぎゅっぎゅっと雪を踏みしめながら道路へでると、同じように暖かい格好をして外へ出てきた北斗に会った。 「おはよー、北斗」 「おはよう、銀河」 何も言わなくても考えている事が判ったのか、二人は並んで歩き出した。 何時もよりゆっくりと歩く、時折きらきらと反射する日差しがまぶしい。 車の通った跡や雪かきされた歩道を選んで歩いていく。日陰ではちょっと注意して歩いた。 でも時折わざわざ積もりたての所も歩いてみたりもしていた。 なだらかに積もった中を行けばベこべこと後ろに足跡が残る。 二人は思いきり雪の日を満喫していた。 何時もよりも時間をかけてゆっくりと向かった場所は真っ白に埋まった星見アミューズメントパーク。 本来ならばそれなりの人出があろう時間帯であるのに、この大雪の所為で見事に閑散としていた。 公共交通機関が動いていたのは幸いだったのだろう。 こっそりと―――人目は無いが足跡が途中まで残ってしまうので気持ちだけこっそりと――― 屋外にある基地への直通エレベータに乗って二人は無事に本部内へ到着。 出入り口付近以外は適温に保たれた本部内を目的を持って移動する。 時折すれ違う人達と挨拶を交わし情報を集めながら、プライベートに近い目的で使われているエリアの一室へとやってきた。 「まだ居るかな〜」 「居るんじゃねえか?」 北斗の身長より少し高い位置のドア脇の小さなモニターで中に人が居ることを確認すると来客を告げた。 中で開けてもらうと中には目当ての人物が二人とも揃っている。 奥のデスクにはアルテアがノートパソコンを前に紙の束を持って座っていて、 手前においてあるソファーセットにはスバルが座って本を広げていた。 前にあるローテーブルには手伝っていたのだろうか閉じたノートパソコンが置いてあった。 「おはよー、スバル、アルテア。」 「おはようスバル、アルテアさん。」 今日は早いんだな二人共、とアルテアが言えば銀河と北斗は満面の笑みで答えた。 「だってすっごく雪積もってるんだぜ!」 「この時期にこんなに積もるのは珍しいんですよ。」 「そうなのか?」 今現在の外の状況は知っているのか僅かに首を捻ったスバルに銀河はいう。 「もっと寒くならないとな。今までもこの時期に降る事はあったけど、積もらなかったんだよ。」 幸いにも本日学校は無く、この大雪で上にあるアミューズメントパークも休業だ。 この大雪の中わざわざ遠出する人もあまりいないとは思われるのだが。通常より遥かに人がいないのは事実だろう。 「だからさ、一緒に外いかねぇ?遊ぼうぜ!」 「あ、でもお仕事とかあるなら後でも良いんですけど……」 銀河が用件と理由を簡潔に告げ、北斗がフォローをいれている。まったく良いコンビだ。 「僕は大丈夫だけど……。」 そう言ったスバルはアルテアをの方へ向いた。上目遣いに――身長差から云えば当然だが――無言の訴え。 後ろにいた二人も無言でじっとこちらを見ている。銀河はかなりの期待感をこめて、北斗はそれよりかは控えめに。 「………。」 雪の日だろうと何だろうと本部にいる以上雑事も含めてやる事はある。 だがこんな期待感溢れた子供達の眼差しを曇らせる事など出来ようか、いや出来ないだろう。 それに一日中遊ぶわけではないだろうし、数時間ぐらいならば午後にでも遅れは取り戻せる。 あと、保護者監督は必要だろう、と最後にとってつけたような理由を考えた。が、とどのつまり自分も少し楽しみなのだろう。 表情は余り変わらず、でも声音は僅かに優しくアルテアは子供達に賛同する意思を告げた。 銀河はその場で飛び跳ね、北斗は嬉しそうに笑い、スバルは思わず立ちあがる。 十分に暖かな格好をして、四人は揃って外へ出た。 広い駐車場には車が止まっておらず、足跡もついていないちょっとした雪原は雲間から差しこんだ日の照り返しできらきらと輝く。 所々に植わっている植込みも低い物は雪の小山となっていた。 「……良く積もったものだな。」 物珍しげに眺めていたスバルは足跡をつけるように歩き出した。さくさく、ずぼずぼと音を立てて雪の深い所を歩く。 ちょっとおっかなびっくりに足を踏み出した瞬間、ついた足が滑る。 「わっ。」 尻餅をついてしまったスバルに銀河と北斗は手を貸して立ちあがらせ、ついた雪を払ってやった。 「下滑り易くなってるから気をつけてね。」 北斗の言葉にスバルは素直に頷く。アルテアの方は何時もと変わらぬ足取りで歩いていた。 暫く歩き回った後、皆で一所に集まると取り合えずとばかりに銀河が提案した。 「雪だるま作ってみっか、アルテアもいるから大きいの出来そうだな。」 「じゃあ、僕はスバルと頭の方作るね。銀河はアルテアさんとお願い。」 二人で役割を決めるとそれぞれを引っ張って少し離れる。 ぎゅっと両手に一杯の雪を掬い、丸く固めるとそれを下へと落とし転がす。 転がるたびに雪をくっ付け次第に大きくなっていく。 だが一方向へ転がしているうちに円筒形に近くなってしまったので、両側へと雪をくっ付けて球体に近づける。 銀河の指示を受けてアルテアが手伝い、所々修正したりしながら、違う方向からころころと転がして地面に轍を作っていく。 そして銀河が少し屈んだくらいで押していける程には大きくした。 「北斗〜、どのくらいの大きさにした?」 「これくらいだけど。」 同じようにスバルと二人で作っていた雪だまを示して見比べる。 「……もうちょっとこっち大きい方が良いか?」 「そのようだな。」 黙々と手伝っていたアルテアも見比べて頷くと雪だまをまた二人で転がし始めた。 十数分ほど転がして更に大きくなった雪玉を北斗達の所まで転がしていき、場所を決めた。 人や車通りの邪魔にならない日陰に置いて、体の部分にする雪玉の上部を少し平らにする。 その上へ北斗達が作っていた頭の部分を乗せた。大きさに比例してそれなりに重いので主に乗せたのはアルテアだ。 転がり落ちないようちょっと雪で補強したらほぼ完成。北斗よりも大きな雪だるまとなっていた。 おちていた木の枝を探し拾って来て左右に差す、腕の代わり。 水溜りに張っていた氷を割ったり、引っ張り出して滑らせたり。真っ平らな雪の上はつるつるの氷を良く滑らせた。 高い所の氷柱はアルテアが手を伸ばして取ってやったり―― 危ない遊びはしないようにと注意はしておいて――して、冬ならではの現象を満喫する。 周囲に他人がいないと知るや、データウェポン達はエイリアス体で飛びだし積もった雪へと飛びこんだりしていた。 はしゃぎ過ぎてすっ転ぶ事を覗けば、遊んでいるうちに移動のコツを覚えたのか、 スバルは外に出た時よりもはるかに安定した足取りで歩いていた。 |