そらを飛ぶ



「ギライローム!」

痩身の呪紋使いが魔方陣から現れた敵に向かい範囲魔法攻撃スキルを放つ。
種類の違うモンスターが入り混じった一団の中で魔法耐性を持つものだけが残っている。

「蘭舞!」

小柄な紅い双剣士が相克属性の攻撃スキルで次々と残りを倒していく。
倒しきれずに逃れた敵に翼持つ剣士がさくさくと止めを刺して今回の戦闘は終了。
今回はあっさり決着がついた事に少々安堵してコントローラーを持つ手から力を抜いた。
このパーティーのリーダーらしい紅い双剣士の少年は戦闘終了後に回復の指示を仲間に出す。

「これでフィールドの魔方陣は全部オープンしたかな。」
先程の戦闘中に『ALL OPEN』の表示をちゃんと見てはいたが念の為に、と フィールドのマップを確認する。
このエリアに入った時に『妖精のオーブ』を使って表示させた魔方陣を示す金色の点はもう無い。

「カイト、ダンジョンへ入る前に少々休憩しようか。」

紅い双剣士――PC名:カイト――は呪紋使い――PC名:ワイズマン――の言葉に頷いた。
このエリアはフィールドの魔法陣の数が多く、場所によっては隣接と言っても良いくらいの近さで複数あったりもした。
こまめなHP(ヒットポイント)の回復と連戦に継ぐ連戦。
エレメンタルヒット狙いの攻撃スキルと回復魔法スキル等の連発でSP(スキルポイント)が大分少なくなってしまっている。
本日の予定は急を要するわけではなくレベル上げの為のダンジョン探索だから、 この種類のエリアでは殆ど起こらないだろうが魔方陣以外のモンスターにも直ぐ対処できるように、見晴らしの良い丘で休憩を取ることにした。


天候も変わる事の無い場所で穏やかな日差しが降り注ぎ。
感じることは出来ないが風が吹いているらしく、晴れ渡った空を雲が流れていく。
地面に生える草も揺れ、離れた所に見える建物の風車もゆっくりと回っている。
―――その根元で不自然に揺れているプチグソのえさは後で取りに行くとして。
視点を一人称から三人称にかえ、周りが直ぐに見渡せるようにしてコントローラーから手を離した。
握ったり開いたりして少々こわばった手をほぐす。
FMD(フェイスマウントディスプレイ)はかぶったままで目の前に表示されるワイズマンともう一人のパーティーメンバーの会話を眺めている。
普通にはエディットできない外見を持つPCで名前はバルムンク。
ここ『The World』内では『フィアナの末裔』の『蒼天のバルムンク』と呼ばれるほどに有名だ。
ゲームを始めてこの世界に関わった頃は、出会ったときの状況が状況なだけにとても嫌われていたと思う。
カイト自身ではなくカイトが得た『力』の所為なのだが。
彼の相棒でカイトの友人の『蒼海のオルカ』を意識不明に追いやったモノと同種の力となればそれも無理は無い。
紆余曲折を経て今は共に力を貸してくれる事となった。
相棒と呼ばれているオルカ以外パーティーメンバーはおらず、大体をソロプレイでこなしていたと言うだけあってとても強い。
再びコントローラーを手に持ち、ボタンを押してカメラ操作を切りかえる。くるくると回して空を見上げてみた。
ゲーム世界の事なので風を感じたりする事は出来ないが、それにあわせて雲が流れ近くに見える潅木がざわめく。
SPを示すゲージに目をやると自分の方は全快しているがワイズマンの方が後少しと言った所。
またくるくるとカメラを動かしているとバルムンクの姿が視界に入った。

(僕の仲間ってPCの外見こだわった人が多いよなー…)

すらりとした身体を鋼色のプレートメイルで包み、手や脚を覆う部分は紫紺。綺麗に整った顔を縁取るその髪は白銀。
兜はデータ上は装備しているが外見上は反映されていない。まあ、外見のグラフィックに反映されるのは武器だけだが。
待機状態のキャラクターの動きに合わせてその背中から生える翼が揺れている。
あの翼は飾りだけかと思いきやきちんと飛ぶ事もできるらしい。
前に一度だけその姿が飛ぶのを見た事がある。
その時は緊急事態の真っ最中だった為にじっくり見ているわけにはいかなかったが、視界の端で捕らえたその白い翼を広げている様はとても綺麗だった…と思う。


「……カイト、どうかしたのか?」

「え?」

「いや、さっきから俺のほうを見ていたようだったから……」

くるくると視点をかえているうちにターゲットカーソルがバルムンクのほうをずっと差していたようだ。

「ううん、なんでも無いよ。周り見ながらボーっとしていただけ。」

再び放していたコントローラーを手にとって画面に映るキャラクターを動かした。
待機状態だった『The World』の中のカイトはまた動き出す。
何時の間にかぼんやりしているうちにそれなりに時間がたっていたらしい。
ワイズマンのSPゲージが全快してしまっている。
そろそろダンジョンに向けて移動しようかとカイトが提案するより先に、二人の会話を聞いていたワイズマンが笑い出した。
FMDで拾われた笑い声がチャットウインドウで即座に表示される。

「バルムンク、カイトは君の翼を見ていたんだよ。」

そう言いながらバルムンクの翼を杖で指し示した。
うわ、なんで知ってるの!?
ワイズマンの発言に驚いたようなカイトの声。
言われて背後を見返してバルムンクは納得したような声を出した。

「ああ…なるほど。」

大抵カイトが先頭に立って進む為に後ろからついて来るバルムンクの背中を間近で見ることはあまりない。
三人称視点の時は見ることができるがそれは少々遠くからなのだ。
近くで見ると照らし出す光源に応じてうっすらとその色に染まって見えたりもした。
大体は白色だが夜のエリアでは紺色に、密林のエリアでは薄緑、そして夕暮れの街では朱色に。

「まぁ、珍しい物だからな。」

ばさ、と翼を広げて見せしげしげと眺めた後、元に戻してあっさりとそう言ってしまった。
一時攻略不可能とまで言われたイベントのクリア時に貰える限定アイテムなのだが。
イベントのあったエリアはクリアしたとたんに普通のエリアになってしまったと聞いた。
この後から『フィアナの末裔』の名を称されそして一気に広まったのだ。
一緒にクリアした彼の相棒の名と共に。





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