夏日〜優しい眠り〜



駅からの道を一人の女の子が長い髪をなびかせ元気良く歩く。
かぶった帽子で足元に濃い影を作り時々道路に張り出した影の中を歩き、 本日の目的地である一件の家の前に立つと大きく声を上げた。

「こんにちはー清麿、遊びに来たよー。」

大きな白い帽子をかぶったピンクの長い髪の女の子は、呼び声に答えて開いたドアから元気に声をかけた。
あまりの元気の良さにドアノブを握ったままきょとんとしていた清麿と呼ばれた少年は相手を確認すると直ぐに笑顔になった。

「ああ、ティオいらっしゃい。今ガッシュはいないんだけど……。」
「え、そうなの?」

ティオと呼ばれた女の子は大きな目をぱちくりと開くと残念そうな表情になる。
が、続く言葉でとたんに笑顔になった。

「もう直ぐ戻って来るだろうから、上がって待ってるか?」
「うん!」

戻っていく清麿の後についていくように、綺麗に靴をそろえてティオは玄関から上がった。

「お邪魔しまーす。」
「先に部屋行っててくれるか、何か持っていくよ。」
「判ったわ、何時もありがとーv…あ、でも手を洗わせてくれる?」

ああ、こっちと台所へと消える清麿に続いて入っていき手を洗わせてもらう。
背後で飲み物とかを用意している姿に自分も手伝おうとしたのだが。
「ありがとな、でも大丈夫だから部屋行っててくれるか?クーラーきいてて涼しいぞ。」
そう言われたので廊下に出て階段を上ると、何度か入った事のある清麿の部屋へとやってきた。
今までずっと室内にいたのだろう、言っていたとおり冷房が効いていて室内はひんやりしていた。
外から来たばかりのティオにはもう少し涼しくても良いくらいだったのだが。
帽子を脱いできょろきょろと部屋の中を見まわすと、 窓際に位置している勉強机には赤い本とノートと参考書が散らばっていた。
読んでいたのか栞の挟んだ分厚い洋書なども乗っている。
ベッドの上に帽子を乗せると、窓の方を向いて床にちょこんと正座した。
くるりと室内を見まわすと住人がいない部屋は少し広く感じてしまう。
あまりの静けさに早く帰ってこないかな、と何時も清麿と一緒にいる金色の髪の子供を思い出した。
昔は、弱虫で泣き虫で落ちこぼれの少年………ガッシュ・ベル。
ティオもガッシュも実は人間ではなく、人間界に100人来ている、魔物の子の一人。
それぞれが様々な色をした『本』を持ち、『本』を『読める人』が唱える呪文で魔法を使う事ができる。
千年に一度、魔界の王様を決める為に。この人間界で人間をパートナーにして戦うのだ。
誰も彼もが本を読めるわけではなく、その人に出会うまでの時間を一人でさ迷う事もある。
そして戦いに負けた者は本を燃やされて魔界へ強制送還されてしまう。
周り全てが敵と信じざるをえない状況で、初めて仲間だと思える相手がこの二人だった。


「お待たせ、悪いなお客さんなのに放って置いて。」
飲み物とお菓子の入った器が乗ったトレイを持って清麿が戻ってきた。

「そんな事ないわ、私のほうこそゴメンね。清麿の勉強の邪魔しちゃったみたいで……」
「ああ、学校の宿題とかは全部終わってるから気にしないで良いよ。」

本読んでただけだしな、と清麿は勉強机の上を綺麗に片付けてトレイを一旦置いた。
ティオの前に畳んであったテーブルを出して飲み物とお菓子を置くと、自分の分のグラスを持って向かい合う位置に座りこんだ。
この二人の間で魔物の子供関連の話を除くと一番話題に出易そうなのはやっぱり。

「こないだテレビで見たぜ、恵さん。」
「見てくれたの!どう?やっぱり恵は素敵でしょ。」

ティオの本の持ち主は人気アイドルの大海恵で、自分の本の持ち主を褒め称えるティオはとても誇らしげだ。
清麿の方も前は全く興味が無かったが、最近はガッシュにつきあって時折一緒に番組を見ている事がある。

「ああ。それで今度新曲出るんだな、その話してた。」
「今日はそれのジャケット撮影もあるのよー。」

もっぱら話しているのはティオで清麿は相槌を打ちつつ聞いていたり、聞かれたことを話したりしていた。
しばらく辺り障りの無い話しなどで盛りあがっているとふと話の途切れた瞬間が訪れた。
特に気まずくもならない穏やかな沈黙。
二人とも手の中のグラスは空で、それに気がついた清麿が飲み物のお代わりを持って来ようかと口を開こうとした時、 こちらを見ていたらしいティオと目が合った。
両手をぎゅっと握り締めてティオはおもむろに口を開く。

「あのね、清麿……お願いがあるんだけど……。」
「ん?何だ?」

なんだろう、とティオが続きを言うのを待ってみると。

「……一度抱っこして欲しいの。」
「……はぁ?」

言われたことは全然予想もしていない事で、思いっきり間抜けな声を出してしまった。

「別にオレじゃなくとも恵さんにしてもらえば……」
「恵にはもうしてもらったわ!だから次は清麿が良いの、ちょっとの間で良いからー。」

だからの意味が良く判らなかったが、余りの迫力にちょっと清麿は引いてしまった。
ガッシュと違いティオに見上げてお願いされてはちょっと強いことが言えない。
視線をさ迷わせて考えていたが、軽く息を吐いて表情を和ませると足を伸ばして座りなおした。

「…ま、良いけど。」
片手でティオをちょいちょいと招くとぽん、と軽く太腿を叩いて見せた。
発言と一連の行動にしてもらえると理解したティオは満面の笑顔を浮かべて近寄った。
「ありがとう清麿。」
ベッドに背を預けた清麿の腿に横座りしてその身体に腕を回してぎゅ、とくっついてみる。
清麿の身体は中学生とはいえティオにとってはやっぱり大きくて完全には手が回らないのでしがみ付く格好となる。
ゆっくりと頭を撫でてくれる手が気持ち良くて静かに目を閉じた。
あの時、初めて出会った時、一人で恵を護ろうとしていた自分を『良く頑張った』と言ってくれて頭を撫でてくれた。
戦いの最中だったから視線は敵を見据えたままだったけど、言ってくれた言葉は今でも覚えてる。
その時の言葉も、戦いが終わってから彼等が言ってくれた言葉も。
しんとした部屋の中軽く回してくれた腕はまだひんやりと気持ち良く、顔を押しつけた身体から心音だけがはっきりと響いていて。
耳を傾けていると次第に眠くなってきて、そのまま力を抜いて凭れかかった。
(――本当に、良い人に会えて良かったよね。)
自分も、ガッシュも。そう思ったのを最後にティオは安らかな眠りに落ちていった。


静かだなぁ、と思いながらも清麿は黙ったままでいると腕の中の重みが増した。
「あ?」
視線を下げてみれば案の定、小さな寝息をたてているティオの姿。
どうしよう、と一瞬思ったけれどガッシュが帰ってくるまでは寝かせておこうとそのままにしておく。
腕を伸ばし近くにおいてあった本を取り、清麿は器用にも片手で読み始めた。






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