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ポストカード 本日の清麿は一人で買い物をしに外に出ていた。 ちょっとした本や文房具等を買いに何時もの商店街ではなく、何となく駅前のデパートまで足を伸ばす。 大した量ではなかったので、買い物自体は直に済み、ぶらぶらと店内を見て歩いた。 商品の陳列棚に絵葉書やメッセージカードなどが並ぶ中、ふと一枚の葉書が目に付いた。 とても綺麗な写真の、ポストカード。 一目見た瞬間、綺麗だなという感想以外に、頭の中を掠めた思考があったけれど それが完全に形を結ばないまま消えてしまった。 形にならなかったものは仕方ないと、特に気にせずポストカードをじっと眺めていた。 映る蒼が印象に残ったからつい手にとってまじまじと眺める。次の瞬間にはそのままレジへと持って行ってしまった。 レジでお金を支払って、小さな紙袋に入れてもらってからふと気づく。 ……一体自分は誰にこのポストカードを出すつもりなのか。 部屋に飾るというのも一つの手だが、今まで全く飾りっ気の無い部屋にそんなもの飾るのも気恥ずかしい。 (本当に衝動買いだな……) 出す当ても無く、飾るつもりも無い。予定に無い本当に典型的な衝動買いだ。 考えてみれば時期的に暑中見舞いか残暑見舞いが有効だが……これは帰ってから調べれば良いだろう。 出せる相手が思いつかなければガッシュにやっても良いか、と考えひとまず帰路についた。 さて、家に帰りつき部屋に戻って机に座ってひとしきり出せそうな相手について考えてみた。 水野を筆頭に学校の友人系……物凄く今更だ、木山つくし……住所を知らない。いや植物園気付で出せば良いのか。 父親とか…………本当に今更だ、しかもこの間会ったばかりだし。 (後は……駄目だ、思いつかない。) どう考えてもいきなり過ぎたり今更だと思える人しか思いつかなかった。 これはやっぱりガッシュにあげるべきかと結論が出ようとした時、ある人物に思い当たった。 (……ああ、あの人達ならどうだろう。) 最近知り合いになった元気な女の子とその保護者……もとい、魔物の子供とその本の持ち主、ティオと大海恵だ。 と、いうかそれなら先の出かけ先からそこのポストカードと切手で送った方が土産にもなったのに。 (今更そんな事に気付くなよ、俺……) 思わず自分にツッコミをいれてしまった。 関係の無いことを考えるに至り、慌てて思考を切りかえる。思いつきを実行に移す為に行動を開始した。 買ったばかりのポストカードと引出しから万年筆を取り出し、机の前に座った。 まっさらな紙面を前に書く内容を考える。 真っ先に思いついたのは典型的な、残暑見舞いの文。手紙の書き方の例題に有るような文なのでとりあえず止めておく。 くるくると万年筆を指先でもてあそび、熟考する事数十分…… 『残暑見舞い申し上げます』……これはとりあえず書いておく方が良いだろう、多分。 次の文を……どうするか更に考える。近況報告とか、それくらいだろうか。 あまり手紙とか書いた事が無いから、良くはわからないが。 (下書きとかしたほうが良いよな、これは。) 引出しからメモ帳を取りだし、ページを1枚引き千切った。残りは仕舞いなおして、ついでにシャープペンシルも引っ張り出す。 さらさらと思いつくままに書いてみるとやっぱり書き方の本にでも載っているような内容で。 書いたメモをくしゃくしゃに丸めてゴミ箱へシュートした。飛んでいったそれは綺麗な放物線を描き、きちんと着地したのか軽い音がした。 「――何をしておるのだ?清麿。」 扉の開閉音の後すっかり聞きなれた声がする。 文章が思いつかなくて、頭を悩ましている清麿の横からガッシュが覗きこんできた。 「ん?ああ、葉書を出そうと思ってさ……」 ちろりと視線だけそちらへ流して、また机上のポストカードへと戻す。 「ふうん、見ても良いかの?」 「ああ、そっちはまだ何も書いてないから……」 言い終わる前にガッシュは葉書を手にとった、裏表しげしげと眺めて一言呟く。 「写真は綺麗だが……反対側は白いのう。」 「―――人の話はちゃんと聞け。」 ごん、とガッシュの頭の上で良い音が響いた。 涙目で頭を押さえて唸っているガッシュからポストカードをとり返し、再び机の上に乗せた。 もう一度机に手をついて脇から覗きこむとガッシュは清麿に問いかけた。 「本当に綺麗な写真だったのう、誰に出すのだ?」 「……恵さん達に出してみようかと。」 慣れていない事なので、声が小さくなる。 それでも直ぐ傍にいたガッシュにはちゃんと聞こえたらしい。 「そうか、恵も喜ぶのではないか。」 「……喜んでくれるだろうか……」 季節行事や御礼状以外で他人へ葉書出すというのは殆ど初めてに近い事で自信が無い。 しかも相手は毎日大量のファンレターなどを受け取っている立場の人だ。 用も無いのに出したら迷惑がられるんじゃないだろうかという考えが、ちらちらとちらつく。 「きっと喜ぶと思うぞ!」 自信を持って断言するガッシュの言葉が何か頼もしい。 「……そうか……。」 ひょっとしたら迷惑がられるかもしれないけれど。それに向こうにとっては何でもない事かも知れないけれど。 もしも受けとって喜んでくれるなら、それで良い。 こっちとしては難しく考える事も無いのかもしれない。 ふと、万年筆ではなくサインペンを取り出して軸の方をガッシュのほうに差し出した。 「お前も何か書くか?」 「良いのか?まだ清麿は書いていないではないか。」 「ああ、勿論俺も書く。だから場所は空けといてくれよな。」 と、いうか先に練習でもしとくか?と引出しからルーズリーフを出して、ページを抜き取りガッシュに渡す。 ついでとばかりにテーブルも出してきてやると、ガッシュは床の上に直に座ってテーブルの前についた。 「そうだ、好きに書いて良いぞ。」 と付け加えると、大きく一つ頷き真面目な顔をしてルーズリーフに書き出した。 何回か練習した後に綺麗に書けたのか、清麿に見せに来た。 此れなら大丈夫、と太鼓判を押して返してやるとそれを隣に並べてサインペンを握った。 物凄く丁寧にゆっくりと見ながら一生懸命書く様は、何故か微笑を誘う。 微笑っているのがばれない様にしながら見守っていると、出来たのだ、の声と共にポストカードを高々と差し上げた。 ポストカード見せに来るガッシュをかわして先にサインペンのキャップを閉めてやり、その後でそれを受け取った。 メッセージを書くスペースの半分程にどうにか収まっている元気の良い字。 「ふうん、何時もよりかは綺麗に書けたじゃないか。」 「頑張ったのだ!」 誉められて、満面の笑みを浮かべるガッシュの頭を撫でてやった後。受け取ったポストカードを持って机に戻る。 先ほどまで考えていた文面は破棄して、簡単な御挨拶とポストカードを送る理由を丁寧な字で書いた。 前にティオが遊びに来た時に教えてもらった連絡先の住所を書きこんで、その隣に宛名を書く。 恵とティオの連名にして、最後に差出し人として自分とガッシュの名前を書いた。 住所と宛名をもう一度確認して、切手を貼って完成。 まだ生乾きの文字を擦らないように、細心の注意を払って机の上に戻す。 ガッシュの書いた文字色は青、清麿の書いた文字色は藍、裏の写真も蒼。 明度・彩度の違いは有れど一つの名称で表してしまえる色彩の群は、目に涼しげだった。 インクが乾いてからポストに投函してくるつもりで机から離れようとすると、脇にまたも覗きこんでいるガッシュの姿が。 「……見るなよ。」 「良いではないか、減るものではないし。」 「………でも見るな。」 そう言うと清麿はガッシュを机から引き剥がした。 「ウヌゥ、清麿は私のを見たではないか〜。」 ばたばたと暴れているのを無視してそのまま小脇に抱える。そのまま清麿は部屋のドアを開けた。 「何か食った後ポストへ出しに行くけど。ガッシュも一緒に来るか?」 廊下へ出ながら腕の中で暴れる存在に声をかけると、とたんにぴたっと大人しくなった。 「行くのだ。」 「そうか。じゃ下へ行くか。」 おー、と握った拳を突き上げて同意を示すガッシュを抱えたまま、階下へと降りていった。 数日後、一枚のポストカードが髪が長く可愛い女の子の元に届けられた。 良く来るダイレクトメールの類ではないそれを、何気なくひっくり返して差出し人の名前を確認すると目をぱちぱちと瞬かせた。 思わずカレンダーの日付を見て何の関係も無いことを確認すると、文面を読んで微笑を浮かべる。 メッセージ欄の元気の良い字とそれより小さくきちんと並んだ文字。 日の差し込む窓際まで移動すると、もう一度裏返して写真に視線を落とした。 周囲の濃い色から中心に向け薄い色を経て変わっていく色。一色で塗りつぶしたような感じではないのがまた綺麗だった。 もう一度メッセージに目を通し、後で今この場には居ないが連名にもなっている女の子にも見せなくてはと思う。 折角頂いたのだからと、仕舞いこまずにしばらくは飾っておこうと場所を探そうとして気付いた事が一つ。 写真の面を表にすると、メッセージの書いてある面が見る事が出来ない。そしてその逆もまた然り。 (週代わりとかで交互に飾るしかないかしら……?) 元気な声が自分を呼ぶまでしばらくその場で考えこんで居たのだった。 それからまた後日、清麿は遊びに来ていたピンクの長い髪の女の子からポストカードの礼を告げられた。 清麿作成の『バルンルン』でガッシュと一緒に遊びながら更に受けたまわった伝言を続ける。 「また今度恵もお礼するって言ってたわ。」 「……そんなに大した事じゃないから気にしないで良いよって伝えてくれないか。」 思わぬ反応に少々体を傾けながら、清麿は言った。 「そんなの無駄よ、恵凄く楽しそうだったもの。」 ま、見てのお楽しみって所よね!言ってる本人にも楽しそうに言い切られてしまい、脱力したのか更に体が傾いた。 そんな事を聞いた後では計画にティオ自信が参加しているのも想像に容易い。 一体何が来るのかとちょっと恐かったりもするけれど…… (それもまた楽しみ、か。) そう考えて、清麿は傾いた体を元に戻したのだった。 |