chocolate



「ねえねえ恵っ、チョコレートの作り方教えてっ!」
「―――はい?」
帰宅後、ドアを開け真っ先に出迎えた台詞にしばしその場で固まってしまった。
ソレはやっぱり原料となるカカオ豆から説明すべきかしらなどとの考えが頭をよぎったが、それは違うだろうと思いなおし。
とりあえず荷物を置いて楽な格好をしてお茶の用意をした後改めて恵はティオに話を聞いてみた。

「いきなりどうしたのよ、ティオ。」
「あのね、もう直ぐバレンタインデーでしょ?えーと、お世話になった人にチョコとかあげてお礼する日。」

ちらりと壁を眺めれば、月が変わって新しいページとなったカレンダーが見える。
有る意味間違ってはいないような気もするがえらく偏った意味を教わったものだ。
表情と言いよどんだ様子から察するに日本での一般的に使用される意味も教わっているようだったが あえてそれは追求せずにおいた。
「清麿とその……ガッシュにあげても良いかな、って思ったのよ。」
顔を赤くしてごにょごにょ言っている姿が可愛らしくて、恵は微笑んだ。
日頃お世話になっている関係者やスタッフ達には手ごろなチョコを買って渡す気でいたが あの二人には特別に送っても良い様な気がするのでティオのお願いに乗ることにした。
「判ったわ、何か簡単なの教えてあげる。」
「有難う、恵!」
両手を握り締めて喜ぶティオを見て、カレンダーと自分のスケジュールを確認すると恵は言った。
「よーし、じゃあ早速作る物を決めて次のオフは材料を買いに行きましょう。その後作るわよ。」



二人揃ってやってきたのは、大型デパートのバレンタイン特設会場。
バレンタイン間近という事も有って女性達でその場は賑わっていた。

「凄い人だね〜。」
「そうね……。」

想像以上の規模の大きさと賑わいに少々驚きつつも目的の物が置いてある区画を探す。
ピンクと赤系統で纏められた売り場の一角では楽しそうな笑い声も響く。

「それでティオは結局どんなのにするの?」
「あのね、これ。」

お菓子の本から作る物の名前と材料だけ書き出したメモを恵に見せる。
恵は自分で作る予定の材料メモと見比べて、幾つか新たにそれに書きつけた。
出来るだけ小声で話しながら二人は色々な味や形をしたものが並ぶ売り場を抜け、 手作り用の材料やラッピングが並ぶコーナーへとやってきた。
作る物のレシピから計算してそれよりも少し多目になるよう量と種類を確認したチョコレートを手に下げた籠へ入れていく。
他にもメモを片手にオレンジピール、ドライフルーツやナッツなども探して次々と籠に入れる。
次に可愛いアルミカップのパックを幾つか放りこんで、同じ棚でラッピングの素材を時間を掛けて選んだ。
量が少し足らなかった粉類や見つからなかったリキュール等は後で食品売り場で買う事に決め、 一路レジへと足を向けようとして賑やかな一角に視線が向いた。

「恵〜。ちょっと覗いていかない?」
「良いわよ。」

二人はそのまま今度はチョコレートが大量においてある区画へ足を運んだ。
有名なメーカーのものや有名ホテルで売っているもの。
チョコの形自体が変わっているもの等さまざま。ミルク、ホワイト、ビター、ナッツ類やドライフルーツ入りなど。
硝子ケースの中にディスプレイされた物を見ていると次第に食べたくなってくるから困ってしまう。

「あ、あの生チョコ美味しそう……。わぁ、こっちのは可愛い!」
「あれ面白い形〜、ワニだって。こっちのは薬袋みたいなのに入ってる〜」
「……コレ、干物?」

周囲には気づかれない程度にひとしきり騒いだ後、幾つか味見と称してレジに持って行く際籠に追加されていたのだった。






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