HAPPY DAYS?



今日も今日とて葉佩九龍は深夜の遺跡探索をしていた。
先日通過するだけにしたところを皆守甲太郎と椎名リカをバディに連れて改めて巡って行く。
トラップは通った際に全て外してあるので、鍵の必要な特殊な扉を開けたり、隠し部屋が無いかどうかを調べたりしていた。
一通り回ったところで遺跡内の魂の井戸という名の一室で化人からのドロップ品を回収する。
魂の集う場というだけあって部屋の中心の壷からは部屋の中を満たすほどの光が零れている。
こんな地下に何処からかと思う程の皓い光が上から差し込み、照らされた壷からは光の球が立ち昇る。不思議な光景だ。
そんな事をいったらここで――この遺跡――見られるものは全てにおいて割と不思議な光景なのだが。
そして何故か化人の持つアイテムはここに集められるものらしい。
獲得したアイテムを見て何か思い付いたのか背後で待っている二人の方を振り向いた。

「皆守、椎名、遺跡から出るのもう少し先で良いか?」
「どこか調べ忘れか?」

葉佩の背後でラベンダーを一息吸い込んで皆守は言った。

「いや、危険物の作成ここでやってしまおうかと……」
「……危険物?」

疑問詞付きで見返すと葉佩はにっこりと笑っていた。ゴーグルを頭の上に上げているので楽しそうに笑む顔がよく見える。
「そ、爆弾を作ってみようかと思って。」
いつもなら寮の自室とかで作るけどさ、初挑戦物だしちょっと威力が大きいヤツになる予定だからな。

「……寮で作っていたのかよ……。」
「他に作れるところ無いだろ?」

確かにこの学園で他にそういった作業ができそうな場所は屋外を除けばほぼ無いが。
学園内の色々な施設の鍵を持つ彼なら他にも探せそうな感じではあるのだが。
少々物騒な話のような気がすると思ったのは皆守の気のせいでは無いだろう。
「あ、でも帰るなら送ってくけど。」
この場所から外との出入り口が開いている大きな部屋まではほぼ一本道。
間に出る化人も倒し、遺跡の仕掛けも解いてある状態なのに相手が誰であろうと毎回葉佩はこう言っていた。

「うーん、どれだけ時間かかるか判らないもんな。やっぱ二人を先送って……」
「リカもお手伝いしますわ。」

葉佩が言い終わる前に椎名は手伝いを申し出た。

「爆弾作りならリカ得意ですもの。九サマ、お手伝いしますの。」
人形のような容貌に無邪気な笑みを浮かべ、やる気は十分だ。
そう言われてふわりと葉佩の表情が緩む。
「……Thank you、椎名。皆守はどうする?」
聞かれた皆守はふぁ、と欠伸を一つして言った。

「俺だけ送ってもらっても時間の無駄だろ……仕方ねぇな、待っててやるよ。」
「Thanks、眠くなったら言ってくれ。送ってくから。あと少し離れていてくれるか、一応火気厳禁だから。」

どうやってなのか寮の自室へと繋がる門となる壷の上に浮かぶ石から必要な道具や器具を取り出し、葉佩と椎名は部屋の隅っこを陣取る。
床の上に座り込みノクトビジョンとグローブを外し、器材を広げた。その向かいになるよう、スカートに気をつけながら椎名も座る。
言われた皆守は反対側へ移動し出来るだけ距離をとって座り込んだ。
壁に背を預け寛ぐ体制を取る、だが目を閉じようとして寝てはまずいと再び目を開けた。
仕方が無いので作業中の光景を眺めていると葉佩の側に置かれたノートが気になった。
常時携帯している小型情報端末であるH.A.N.Tが有るのに何故か普通のノート。こんな所で宿題でもあるまいし。
作業を開始している二人の邪魔する事にならなければ良いがと思いながらも葉佩に問い掛ける。
「九ちゃん、それは?」
聞かれた当人は部屋の光量だけでは足りないと思ったのかハンドライトまで出して点けていた。
薬品の分量を量り椎名の意見を参考にしながら慎重に混ぜている。視線は手元に落としたままで葉佩は答えた。
「今まで調合で作ってきたものと作る予定のメモ。」
簡潔な答えに興味を引かれた皆守は言った。
「見て良いか?」
葉佩からは肯定の返事の代わりにノートが飛んできた。
片手で受け止めて萌葱色の淡い輝きが立ち上ぼる壺へ向き、それを光源に最初からぱらぱらとページを捲ってみる。
丁寧に書き込まれた材料と手順、所々余白に描かれた簡略図。
どうやら大まかな種類別に分けて書かれてはいるようなのだが途中からそれが怪しくなってきていた。
別のノートにそれぞれ書けば良いと思うのだが。メモだから纏めて書いてあるのだろうか。
「……爆弾の作成法と食事系のレシピ一緒にしとくのもどうかと思うぜ……?」
あ、ここんとこ薬品の調合が混じってやがる。ページを捲りながら皆守は呟く。
「一応分けてはあるぞ?」
作業は続けたままで葉佩は言った。器具と器具が触合いかちん、と軽い音を立てる。

「途中から怪しくなってんだよ。消毒薬の次がビフテキの作り方だぞ?」
「そうだっけ……?」

言われて首を捻る葉佩はああ、と呟いた。

「両方ともニンニクを使うからだな。」
「そんな理由かよ……。」

呆れた皆守はアロマパイプを口から離して溜め息を付いた。大雑把過ぎる理由だ。
「時々調合素材とかが判った時点で書いてるからなぁ。」
さもありなんと葉佩は頷く。
「九サマ、ちゃんと見ていないと淹れ過ぎますわ。」
一連の遣り取りを見ていた椎名に注意され、ご免ご免と呟いて葉佩は目の前の作業へ集中した。
再びノートに視線を戻し一定の速度でページを捲っていた皆守の指が止まる。
邪魔はするまいと思っていたのだが悲しいかなツッコミ気質、つい口を付いて言葉が出てしまった。

「……媚薬?」
「ん?ああ、こないだ作ってみたんだ。」

でも材料も何かそれっぽくて笑えるだろ、と言って聞きつけた葉佩は笑う。
材料は蛇の肝と蝙蝠の羽、確かに御伽噺に出てくる材料のようでそれっぽい。
少し笑った葉佩はまた手元に注意を戻す。平常では滅多に見られない真剣な顔つき。
それを眺めながらも皆守は会話を続けた。

「使ったのか?」
「使ってはいないな。作ってみただけ。」

反対に皆守いるか?と聞かれたがそれは即座に断っておいた。与えられた情報に少し考えこむと皆守は葉佩に向かい言う。

「なぁ、それ間違っても朱堂には渡すなよ。」
「何で?」
「誰に使うか判らねぇからだよ、事件起きてからじゃ遅いだろうが。」

パイプの端を噛みなおして言った。前にも襲われそうになっていたというのに覚えていないのだろうか。
ひょっとしたら葉佩の中では冗談とか過剰なスキンシップ位で済まされているのかもしれない。
実に危機管理のなっていない事だ。

「……そうなのか?」
「そうなんだよ。」

首を傾げる葉佩に少し語気を強めて言い、絶対に渡さないことを約束させた。後、所持している事を話さないようにも。
ねだられたら渡しかねないが所持している事がばれなければ大丈夫だろう。
最悪の事態は避けなければ、と皆守は心に決めた。そんな事を皆守が考えている間にも葉佩達の作業は終盤を迎えていた。
調合し終えた薬品を容器にいれ、炸薬と信管をセットする。
周りに何も零れていないかどうかチェックする。ピンと安全レバーがしっかりはまっている事を確認してそれらを固定した。

「出来た!椎名手伝ってくれてありがとう!今度何かお礼するよ。」
「うふふ、お役に立てて何よりですの。九サマ、今から試しにいかれますか?」
「今日は遅くなるからまた次回にな。椎名、皆守帰ろう。寮まで送るよ。」

そう言いながら作った爆弾をアサルトベストに全て納めた。
散らばった器具と薬品類を拾い、使用した器具は別にして纏める。
皆守もノートを閉じて立ち上がると、後片付けをしている葉佩達を手伝い。その後皆で遺跡を後にした。






WorksNext