遺跡夜騒曲


「えーと、本日は葉佩観光ツーリストによる天香学園墓地地下遺跡探索ツアーをご利用いた……」

すぱーん。

天香学園地下遺跡内の大広間と呼ばれる場所で、葉佩九龍は全てを言い終える前に皆守甲太郎の手により強制終了を受けていた。
因みに今回の皆守の獲物は葉佩の所持するハリセンだ。
「……くだらねぇ前口上は良いからとっとと終わらせるぞ。」
眠いんだよ俺は。いつものようにラベンダーをくゆらせながら皆守は言った。
「何だよ、場を和ませようと思ったのに。」
葉佩ははたかれた頭を抱えながら口を尖らせる。
「そんなモンじゃ和まねぇだろうが。見ろ、呆れてるぞ。」
顎をしゃくって示す方向には、今の二人のやり取りに入っていけなかった取手鎌治が立っていた。
「え、うわ取手御免。……面白くなかったか?呆れた?」
覗き込むように言われて取手は慌てて首を振る、その勢いに長めの髪が広がった。
「ううん呆れてなんか無いけど……仲良いんだね、二人とも。」
どこを見たらそう見えるんだ、と皆守がパイプをかみ締めている。
寧ろ一方的にこちらが迷惑をこうむっているようにしか思えないのだが。
……まぁそれも今では慣れて来てしまったような、それはかなり不味いような。
だが二人には当たり前だが皆守の内心の呟きは聞こえなかったらしい。
ちょっぴり雰囲気の違う世界を形成中だった。
「わぁ、嬉しい。そー見える?」
でも取手も友達なんだからねっ、と何故だか葉佩は女の子口調で答え今度は取手も表情を緩ませる。
ほんわか和みムードを漂わせている二人を眺めて溜息を飲みこみつつ皆守は本題に戻した。
「で、今日は何するんだ?九ちゃん。」
途端にほにゃんとした態度を切り替えて葉佩は言った。
「今日は今まで通ったエリアでクエストするんだ。討伐系を多めに受けたので御理解の程を。」
優雅に一礼し、二人を見渡して――皆守の左手に少しとどまった後――言った。
危険な場所に付いてきてもらう以上は最低限以上の説明を、と考えている葉佩は守秘義務に触れるぎりぎりの所までは聞かれたら答えている。
が、聞かれてもいないのにたまに良いのかそんな事まで教えて、と聞いた方が言いたくなる様な事もばらしていることもあった。
教えてもらって更に説明されても判らないというか知らない方が良いというか何と言うか的な事もまま有ったりもしたが。
考えてみると一定の葉佩内ルールのほうが優先度は高いようだ。信頼されているのか何も考えていないのか、一体どうなのだろう。
機会が有れば問い質してやったほうが良いのだろうか。だがしかし理由が後者だったらどうしたものだろう。
つらつらと考えこみそうになり、知らずに握り込んだ手の中の感触に皆守は今だ手にハリセンを持ったままなのを思い出して、持ち主に返そうとした。
すると葉佩の呟きが耳に入った。
「……今度そのハリセンにカレーの王子様専用とでも書いてやる。」
またはカレーアロマでも可だよな。
「すんな。」
一体どんなモノなんだそれは。
その言葉にもう一発、それはそれは素晴らしい音を立てたヤツを食らわせてしまった皆守だった。


気を取り直して最初のエリアから周っていくことにする。時間に余裕が無い時以外は葉佩は大抵こうしている。
ぴょこぴょこと大きな手のひらの上を跳んで移動し、蛇の杖の前でくるりと一回転して依頼を一つ達成。
辺りが金色の光に満たされると同時にH.A.N.Tから合成音が聞こえた。ちなみにそうなる原理は不明である。
通過するだけの部屋や通路のさくさくと化人を倒し、何故か盗っても――もとい毎回回収しても次には補充されている宝箱の中身を回収していく。
時折H.A.N.Tで依頼を確認しながらそれに合った『場所』で行動をとっていくのだ。
例えば特定の敵を指定された方法で倒さなくてはいけないもの。普段使いやすいように下げている武器では無い場合、直前の部屋で装備を変えて突入する。
『炎と化』さなくてはいけなかったり『拳撃を求め』なくてはいけなかったり。
それが終わるとまた通常装備に戻す――これは銃と刀剣類、そして途中で手に入れた鞭だ。
こまめに魂の井戸に立ち寄りベストの中身を入れかえながら先へと進む。
取手は一番多く同行している――当人曰く強制的に、だ――皆守に葉佩の行動を説明してもらいながらその後を付いて行った。
「二つほどちょっと面倒なのがあるんだよな〜。」
のほんと言いながら手に持ったアサルトライフルから火箭をはきだす。
リズミカルに響く発射音が石造りの室内で反射する。弾を受けた化人の叫びが合間に響く。
埃と土の匂いが充満する部屋で火薬の匂いが広がっていく。
口調はのんびりとしているが半ばゴーグルに隠された表情と行動は真剣そのものだ。
弾に撃ちぬかれた複数の蚊欲が、甲高い絶命の声を上げ地に落ちる。
銃撃や化人の悲鳴で喧しい筈なのに呟きを聞きとめたらしい、下がった位置で葉佩の戦いっぷりを観戦していた皆守が聞き返した。
「面倒?」
「どっちむいてるかなって話。で、次の部屋クエスト対象だから。」
あっという間に部屋の中にいた化人は退治されていた。敵影が消滅した事をH.A.N.Tがデジタル音声で告げる。
それを聞いた同じように下がった位置で見ていた取手が軽く息をついた。
「凄いや、九龍君。」
「有難う。そうだ、取手疲れてないか?ちょっと続けて来たもんな。」
ゴーグルを上にずらして顔を見せた葉佩は取手のほうを見上げた。
「ほとんど何もしてないし……大丈夫だよ。」
ジッと見つめた後、無理は言っていないと判断したのか、 そしてゴーグルを付けなおした葉佩はじゃあ次行こうか、と次の部屋に続く重そうな扉を開けた。
「おぉ、らっきぃ。」
覗き込んで化人の影を確認した途端、葉佩は声を上げた。部屋の一番奥に目標の化人を見つけたようだ。
「”右手を失わん”っと。」
飛び込んで駆け抜けざまに銃を速射する。近距離で弱点に銃弾を受け壌が低音を響かせた。
対象に近付くと獲物を持ち替え一刀に切りつけ、薙払う。
悲鳴が響いてナビが敵影の消滅と依頼の達成を告げ終わる頃には部屋に残っていた残敵も切り払っていた。
室内の敵影が無くなった事を確認してから葉佩はようやく武器を収める。
「何だ、もう終わっちまったのかよ。」
「終わったよ、いやあついてた。回り込んだりしなくて良かったからさ。」
化人の間を抜けなくちゃいけないと手間掛かるしな、とゴーグルお頭の上にずらした。
「九龍くん、怪我は?」
「大丈夫、無いよ。」
心配そうに近寄る取手に安心させるよう葉佩は笑顔を返しておく。
実際に怪我一つしなかったのだからそれはもう満面笑顔だ。
「そう、良かった……。」
「取手達は大丈夫?疲れてない?ちょっと休憩しようか。」
俺は眠いぞと呟いた皆守の言葉をあっさりと流した葉佩はアサルトベストをごそごぞと漁って言った。
「僕は大丈夫だよ、見てるだけだったし。」
「じゃあ頑張っている取手に此れをあげよう。ついでに甲太郎も。」
にこ、と笑って見せる取手に手を差し出した。つられて差し出してきた取手の手の上にぽとりと小さな包みを落とす。
小袋に印刷されている文字を読めばキャラメルと書いてある。
「糖分補給〜、甲太郎にはカレーのが良いかもしれないが。」
礼を言って貰ったそれを口に入れつつ、カレーで糖分は取れないんじゃないだろうかと思ったがとりあえずキャラメルを舌の上で転がす。
ほんのりした甘さが美味しい。
ほわ、とちょっと優しい気分を感じていると、葉佩も自分の口に放りこんだ。 ついで少し離れた所でアロマを吹かしていた皆守にも同じ物を放り投げる。
器用に片手で受けとめていた皆守はそれを少し掲げるようにして見せ、礼を言っていた。





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