花見



雲一つ無い晴れ渡った日の事、ロクショウさんはヒカルさんのお迎えに行きました。
コンビニの外でヒカルさんが出てくるのを待っていたロクショウさんは、その姿を見つけると言いました。
「ご苦労様、ヒカル殿」
それを聞いたヒカルさんは笑いながらいいます。
「わざわざ迎えに来てくれたんだ、ありがとう。じゃあ・・・」
帰ろうかと言いかけたヒカルさんの言葉をさえぎってロクショウさんは言いました。
「ヒカル殿、この後何か用事はあるのか?」
「いや、別に何も無いけど・・・」
少し首を傾けてそれがどうかした?とでも言うように答えました。
「なら少し俺と一緒に来てもらえないだろうか、見せたいものがあるのだが・・・」
「いいよ。」
別に断る理由の無かったヒカルさんはあっさりと承諾しました。
「ありがとう、それでは少し待っていてくれ」
そう言うとロクショウさんはコンビニの中に入っていきました。
しばらくするとコンビニのビニール袋を一つ下げて出てきました。
「何か買って来たのかい?」
ヒカルさんの問いにロクショウさんは「秘密だ」と答えると先に立って歩き出しました。

街中を抜けて山の方へ二人は歩いていきました。
「結構歩いてきたかな・・・ロクショウ、目的地はまだなのかい?」
森の中を歩きながらヒカルさんは目の前を行くロクショウさんに声をかけました。
「もう、すぐそこだ。」
ここへ来るまでの道筋でヒカルさんは目的地について色々と訊ねてみたのですが、ロクショウさんは 「行けば判る」の一言で何も教えてくれなかったのです。
幸い、天気も良く散歩するにはもってこいの日和だったので歩くのは辛くなかったのですが。
「すぐそこって・・・」
「ここだ」
ロクショウさんの言葉と共に緑一色の森を切りとるようにして目の前に現れたものは、とても大きな桜の木でした。
枝という枝いっぱいに花が咲き誇っています。
まるで空を抱きしめてしまおうとばかりに枝を大きく広げて立っているのです。
花は殆ど満開で、舞い落ちる花びらは雪が降っているようです。
「凄い・・・」
視線を桜の木に固定にしたままヒカルさんは言いました。
「つぼみがつき始めた頃にこの木を見つけてな・・・花が咲く頃来てみようと思っていた。」
ヒカルさんの反応に満足しながらさんはロクショウさんは言いました。
「ヒカル殿、もっと近くへ行ってみよう。」
「あ、うん。」
まだちょっとぼぅっとしていたヒカルさんの腕をとり、ロクショウさんは桜の木の下へ歩いていきました。
間近で見ると花びらは白に近く、まるで雲が枝にからめとられているようにも見えます。
二人は木の下に並んで座り込みました。
座り込んで桜を見ているヒカルさんにロクショウさんはペットボトルのドリンクを差し出しました。
「ありがとう・・・って、コンビニでの寄り道はこれだったのか。」
「少し歩くからな、のどが乾くだろうと思ったからな。」
ドリンクを飲みながらもヒカルさんの目は桜を見ています。
そしてロクショウさんはそんなヒカルさんを見ていました。
「・・・あまり桜を見つめすぎると、桜に見入られてしまうぞ?」 「だって凄い綺麗なんだよ?誰だってこの桜見たら魅了されると思うね。」
(・・・確かに綺麗だな)
ロクショウさんもそう思いましたが、どうもロクショウさんはすでに違うものに魅了されているようです。

ざああっ・・・
少し強い風が吹いて視界一面が桜の花びらで覆われてしまいました。
「・・・びっくりしたぁ。」
「ヒカル殿、少しかがんでくれるか?」
ロクショウさんはヒカルさんを見ながら言いました。
「え、何?」
ヒカルさんは疑問を発しつつも言うとおりにしました。
「花びらがついてる・・・今とってやるからじっとしていろ。」
言うとおりおとなしくロクショウさんの手が花びらを取り終わるまでヒカルさんはじっとしていました。
「・・・もういいぞ。」
その言葉に顔を上げてお礼を言おうとしたヒカルさんは、 思ったよりロクショウさんの顔が近くにあるのに気がついてちょっとどきっとしました。
すっとのびたロクショウさんの指がヒカルさんの唇あたりにふれました。
「・・・まだついていた」
桜の花びらを一枚、目の前にかざして見せました。
「あっ・・・ありがとう」
ヒカルさんはちょっと赤くなりながらお礼を言いました。
「礼をいわれるほどの事でもない。」
ちょっとぶっきらぼうな返事が返ってきました。
すっ、と立ちあがったロクショウさんは振り向いてヒカルさんに手を差し出しました。
「そろそろ・・・帰ろう。これ以上いると遅くなる。」
それを聞いたヒカルさんはにっこりと笑ってロクショウさんの手を取りました。
「今度はみんなでお花見に来よう?イッキたちも誘ってさ」
「そうだな、みんなで来よう。」
ヒカルさんを引っ張り起しながらロクショウさんは答えました。
「何回でも来よう、ここで桜が咲くたびにさ」
「ああ、そうだな。」

(みんなで来るのもいいけど・・・)
(それはそれとして、また・・・)
そして二人は同じことを考えながら並んで家まで帰りました。






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