海岸で



「何処かへ出かけるのか、ヒカル殿?」
ロクショウさんは玄関先で靴をはいているヒカルさんを見かけて声をかけました。
「ちょっと海を見に行こうと思って、良かったら一緒に行くかい?」
「海?それはまた変わった時期に行くのだな・・・」
それもそのはず、最近暖かくなったとはいえまだ泳ぐには早い時期でした。
ロクショウさんはちょっと首を傾げると言いました。
「ヒカル殿の邪魔でないのなら行かせていただこう・・・メタビー殿は?」
ヒカルさんは笑いました。
「あいつは寝てるよ、起こしたけど起きないんだ。」
ロクショウさんは納得したように頷きました。
「そうか、では準備してくるので少し待っていてくれないだろうか。」
ロクショウさんはそう言うとヒカルさんの答えを聞くより早く、家の中に入って行きました。
ヒカルさんはそれを見送るように手をひらひらと振って答えました。 しばらくするとロクショウさんは背中にバックパックを背負って戻ってきました。
「お待たせした。」
「ぜんぜん待ってないよ。じゃ、行こうか。」
ヒカルさんは家の前に自転車を引き出してきて乗りました。
「しっかり捕まってろよ。」
その言葉どおりにロクショウさんはヒカルさんにぎゅっとしがみつきました。
後ろからしがみつかれるとヒカルさんの動きがちょっと止まりましたが、後ろに捕まっているのを確認すると海へ向かって走り出しました。
少し強くなってきた日差しの中、ヒカルさんはロクショウさんを後ろに乗せて自転車を軽快に漕いで行きました。
時々走りぬける風はからっと乾いていて、時折後ろのロクショウさんと言葉を交わしながら行くと目の前に海が広がってきました。
海は大きな波もなく穏やかに凪いでいます。
堤防沿いの車の来ないところに自転車を止めると二人は砂浜へと歩いていきました。
波打ち際まで来ると波の届かないところへ腰をおろしました。
ヒカルさんは海から吹いてくる風を気持ちよさそうに受け目を閉じています。
「あー・・・気持ち良い。」
「・・・そうだな。しかしどうして今頃海に?」
ロクショウさんはヒカルさんを見上げながら考えていた質問を口にしました。
「この時期の海はほとんど人がいないだろうからね、広くて良いだろ?」
「なるほど。」
ロクショウさんは納得してしまいました。
なるほど、今頃の海は泳ぐには早いのでまだ水泳客はいません。
この時期に居る可能性のある人は潮干狩り客でしょうがそれも居ません。
後は釣り客くらいでしょうが、それはもっと岩場の方とかにいるようなので砂浜は広々とあいているのでした。
「これだけ広い空間、独り占めだよ。・・・今は二人だけど。」
にこっとロクショウさんに笑いかけました。それを聞いてロクショウさんも笑い返しました。

「さて、そろそろお昼だね。なんか食べに行こうか・・・」
ヒカルさんはそう言いながら立ち上がろうとしました。 するとロクショウさんは側に下ろしていたバックパックから一つの包みを取り出してヒカルさんに差し出しました。
「何?お昼持ってきていたのか・・・」 「運が良かったな、ヒカル殿。今日たまたま作る機会があったので色々教えていただいたのだ。」
その場に座りなおし、包みをロクショウさんから受け取ったヒカルさんは驚いて聞き返しました。
「え?ロクショウが作ってくれたのか?」
ロクショウさんは頷いて答えました。
「ああ、おかずの幾つかは俺が作った。」
「・・・嬉しいな。」
にこにこしながら包みを開けるヒカルさんを見て、ロクショウさんはさらに言葉を続けました。
「ちゃんと残さず食べてくれ。」
「はぁい。」 包みを広げ、お弁当箱のふたを開けると中にはいろとりどりのおかずとおにぎりが入っていました。 たこさんウインナー、ミニハンバーグ、ポテトサラダにプチトマトなどいろいろ入っていてちょっと豪華です。
「いっただっきまーす♪・・・・・んー、おいし♪」
「そうか、それは良かった。味は濃くないだろうか」
もぐもぐと口の中のものを飲みこんでからヒカルさんは言いました。
「これくらいがちょうど良いな。」
ヒカルさんがお弁当に集中していた為、無言の時間が続きました。
しばらく海を見ていたロクショウさんはぽつりとつぶやきました。
「・・・そうか、これがデートと言うものか。」

むぐ。

ヒカルさんはロクショウさんの発言に食べていたものをのどに詰まらせかけました。
「ヒカル殿、大丈夫か?」
ロクショウさんの差し出したお茶を飲み一息ついてから、少ししどろもどろになりつつもヒカルさんは答えました。 「・・・大丈夫。でもそんな言葉何処で覚えたんだよ・・・と、言うより意味が違うよ・・・」
少し首をかしげながらロクショウさんは言いました。
「こういうのをデートと言うのではないのか?」
手作りのお弁当を持って二人っきりで海に来る・・・確かに現状だけ見ていればとてもデートらしい状況なのでした。 ロクショウさんの質問にヒカルさんは困ってしまいました。 ヒカルさんが返答に困っているのを見てロクショウさんは質問を撤回することにしました。
「ふむ、この問題はやめておこう・・・」
ロクショウさんの言葉を聞いてヒカルさんはほっとしたようにまたお弁当の続きにとりかかりました。 「この現状だけで十分だ。」

ころん。

ロクショウさんの言葉にウインナーを食べようとしていたヒカルさんはお弁当の中にウインナーを落としてしまいました。 「・・・どうしてそう言うことをさらっと言うかな君は・・・・・・」
「ヒカル殿と今一緒にいるからだろうな。」

ころん。

ヒカルさんは再びお弁当の中にウインナーを落としてしまいました。
「・・・・・・強気だね。」
「おかげさまでな」
そしてまたしばらくは波の音しかしませんでした。
ヒカルさんは途中何度かロクショウさんの言葉に箸を止めてしまいながらもお弁当を食べ終えました。
「ごちそうさまでした。」
お弁当のふたを閉めてロクショウのほうに向くとぺこりと頭を下げました。
「おそまつさまでした。」
それを見てロクショウさんもヒカルさんにぺこりと頭を下げました。
からのお弁当箱を包みなおし、水筒と一緒にリュックにしまいなおすと砂を払って立ちあがりました。
「お弁当も食べたし、海も見たからそろそろ帰ろうか。」
「ヒカル殿・・・目的は海を見に来る事だったのだろう?逆だぞ」
そう笑って、ロクショウさんも砂を払いながら立ちあがりリュックを背負って歩き出しました。 家に帰っていく間、次の時に持ってくるお弁当のおかずの話をしながら二人は来たときのように自転車に乗って帰っていきました。

家では置いてきぼりにされたメタビーさんがすねながら二人の帰りを待っていました。
その日、ヒカルさん家ではサブマシンガンの掃射音が響き渡っていたそうです。






Works