宵藍夜気



昼間は楽しく海で遊んでいたが、その後起きた出来事の為にその日は早々に寝てしまおうと言うことになり。
男性陣が割り当てられた大きな和室でそれぞれが寝る準備をしていると。
「飛鳥ちゃ〜ん!」
軽快な足音の後、すぱーんと勢い良く障子が開かれた。天真爛漫と云う単語が良く似合う高校一年生の真田琴音だ。
トレードマークの傘は流石に寝るときは持っていなかった。

「如何したの、琴ちゃん?」
「あのね、琴ね、きょうは飛鳥ちゃんといっしょにねる〜」
『はぁ?』

その部屋に居た男性陣から一斉に間の抜けた声が出た。



「琴音ちゃん、ほら私達と一緒に寝ましょう?」
「やだやだ、琴きょうは飛鳥ちゃんとねるの〜。」

がっちり伊波飛鳥に抱き着いて真田は離れようとしない。
あの後追いかけてきた紫上結奈と一之瀬伽月が代わる代わる説得しても戻ろうとせず、 抱きつかれた伊波も困惑したまま固まっている。
無理に引っぺがしたりしたら泣き出してしまいそうだ。
これが本当に小さな子供だったらお兄ちゃん――のような立場の人――に甘える妹の図なのだが。
実際の年齢差は一つ、実行に移すには微妙な年齢差だ。普段の言動から考えると特に違和感も何も無いが。
見かねた九条綾人が同室に居た筈の引率者について聞いた。

「山吹先生は何か言っていたのか?」
「あんまりおそくまでおきてちゃだめだって〜」

何か他に云う事は無いのですか執行部顧問教諭。信頼されているのか放任過ぎなのか何も考えていないのか。
一体どれなのだろうか。
皆が思わず考えこんでしまう中、九条が口を開いた。

「………そうか。」
「綾人様!?」
「ここで問答を繰り返していても睡眠時間が減るだけだと思わんか、結?どうせ寝るだけだ、何も起こらんよ。」

この人員で間違い何ぞ起こり様も無いような気がする。精々寝相が悪くて蹴飛ばされたり押しつぶされたりする程度だろう。 ―――それが洒落にならない人も中には居るのだが。

「それはそうなのですが……。」
「琴音が蹴飛ばされたりすると大変だから寝る場所を変えよう、飛鳥を廊下側にその隣に琴音。挟んで俺……か、誠あたりか。」

考えている途中で、飛鳥寝相はどうなんだ?と聞かれ伊波は思い返しながら応える。

「特に悪いと言われた事は有りませんが。」
「琴、となりはあーやがいいな〜。三人で川のじ〜、あーやがおとうさんで飛鳥ちゃんがおかーさん?」
「……せめて兄にしてくれるか、琴音。」

真田の発言で爆笑している御神に伊波は蕎麦殻入り枕をぶつけて沈黙させておいて。
脱力しながらも布団を敷きなおし、隣に真田の分も追加する。その後真田の指定により布団同士をくっ付けた。

「じゃあ、伊波君。琴音ちゃんを宜しくお願いしますね。」
「皆、おやすみ〜。」

戻ろうとしない真田に仕方が無いと考え、伊波に一晩預かってもらう事にする。
布団を敷くのを手伝うと紫上と一之瀬は自分達が寝る部屋へと戻って行った。


静かに障子が開けられた音に真田はぱちりと目を開けた、頭を少し起こして辺りを見まわす。
布団からはみ出し豪快にいびきを掻いている宝蔵院や、自分に与えられた布団の上に居ない御神。
大人しく眠っている若林が見えたが自分の隣に居た筈の伊波の姿が無い。
そして更に反対側の九条の姿も無かった。
居た筈の場所をぺたぺたと触ってみるが、少し空間が開いていた掛けていた上掛けがぺしゃんと潰れただけだった。
伊波のいた場所は冷え切っていて、かなり前からそこが空だった事が判った。
(……飛鳥ちゃんどこいったのかな?)
室内の光源は落としてあるが月も出ている、動くのに支障は無かった。
待っているのもつまらないので、真田はそっと探しに行くことにした。
まずは玄関の靴を見にいって残っているのを確認する。
鍵もかかったままだったので、次に庭に出られる廊下を調べた。
引き戸の一つが軽い音を立てて動く、そっと覗けば出ていた履き物の数が足らない。
迷わず残っていた一つを履いて、庭木戸をくぐり抜け小道へと出る。
きっとこっちだろうと言う奇妙な勘にしたがって薄暗い道を歩き出した。






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