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剣光群舞 弓弦が高く鳴り響き、空気を裂く音がして突き立った矢が羽を振るわせた。 そこへ自分の得物である歴道の霊宝を構え肉薄する。鋼色の残像を残し眼前の天魔を切り裂いた。 断末魔の悲鳴を残しその姿が霧散する。 それを確認し、呼吸を整える間もなく目標を切り替え直ぐ傍の天魔へと移動した。 羽ばたき、迫り来る鉤爪をかわし一太刀浴びせ、切り結ぶ。鉤爪と刃がぶつかり合い火花が散りそうなほどだ。 横から別の天魔が迫ってきたのを見て、間合いを計る。 小太刀の届く範囲に踏みこんできたのを技を用いて左右上下に切り払う。 止めを刺しきれなかったモノには背後から飛んできた『風』が止めを刺した。 「―――飛鳥!」 警告の声が飛んでくるもそれは間に合わず上方から天魔の放った電光が降り注ぐ。 直撃は食らわなかったが幾本かとっさに頭を庇った腕や体を掠めていった。跡がひりつくが耐えられない程では無い。 「しゅっ!」 ギャアアアアッ! 鋭い呼吸音と共に後方から放たれた矢が天魔を捕らえたのだろう、耳障りな悲鳴が響き渡った。 「大丈夫か!」 「あ、はい。」 軽快な足音がして九条は駆け寄りざまに寄ってきていた一体に切りつけ、そこへ脇から伊波が止めを刺した。 「あまり前へ出るな、まだ天魔の数が多い。囲まれて孤立したら一大事だ。」 そう言って未だ眼前に群れる天魔を九条は睨みつけた。 事の起こりは数時間前、伊波飛鳥が執行部室に入ろうとした時だった。 一声掛けて入ろうと手を掛けると同時に扉が開いた。 どんっ! 「わっ!?」 軽い衝撃と共に何かにぶつかられた。 予想もしていなかったことなので回避の仕様も無く、反射的に下がろうとして足元が引っかかった。 そのままバランスを崩し尻餅をついてしまう。 「悪い!大丈夫か、飛鳥。」 慌てた様子で詫びをいれてくれた上に、腕を掴み軽々と引き上げてくれた相手に伊波は大丈夫です、と返した。 何時も飄々とした態度を滅多な事では崩さないその相手、九条綾人は会話もそこそこに用件を切り出した。 「丁度良い、手は空いているな?討魔が入った。準備をして朱雀大門で待機していてくれ。」 俺は人員を集めてくるから、と急ぎその場を離れる九条を見送る。 伊波は鞄を執行部室に放り込むと小太刀と討魔に使いそうなものだけ持って扉を閉め集合場所へと向かった。 指定された場所へと到着し、待っていると連絡を受けた執行部員が集まってきた。 程無くして九条も到着し、詳細説明は道中行うと言われ一同は足早に朱雀大門を潜り抜けた。 「場所は郷の南西の森の中だ。邪気が感知されたらしい、それに複数の天魔が確認されている。」 連絡のついた者を連れて、九条は一路目的地へと急ぐ。何せ急な事の為、全員に歩きながら改めて事情説明がされる。 九条を先頭に紫上結奈、伊波、那須乃美沙紀、若林誠そして御神晃と続く。 「しかし、伽月が見つからなかったとはな……。」 「そう言や、カヅはんおらへんのやな。」 「多分……宝蔵院先輩と修行しているのではないかと。」 授業終了後に元気良く教室を飛び出していった級友の姿を見ていたのか、遠慮がちに口を挟んでくる若林の隣で伊波は頷いていた。 「一ノ瀬伽月なぞ居なくとも私だけで十分ですわ!」 本来なら他の奴等も必要無いと言わんばかりの態度に懸命にも若林も伊波も口を挟まない。 「何や、ないがしろにされとるやんなァ……。」 「何か仰いまして?」 ぼそりと呟いた御神の言葉が届いたのかきっ、と那須乃が振りかえる。 「なぁんも言うとりませ〜ん。」 視線を外し首を横に振る御神を更に追求しようとした所で九条の言葉が那須乃の口を閉じさせた。 「そろそろ目的地に近いぞ、気をつけろよ。」 郷から離れた森の中、木立ちと岩に囲まれたその場所に辿りついてみれば種類も豊富な天魔の一団が群れていた。 ざっと見たところ瘴気を吹き出して周りに影響を与えているモノも無く、中心的な天魔の姿も無いようだ。 「総て祓ってしまうしかないようだな……」 木陰から辺りをうかがい、真っ先に鎮めてしまわなくてはならないモノが無いと判断すると作戦の方向を切りかえた。 未だこちらには気づかれていないが長々としていればそれは時間の問題だろう。 既にそれぞれの得物や装備品を準備し終えている執行部員を見渡し、前を向いた。 「よし、行くぞっ!」 九条の掛け声と共に討魔が開始された。 接近戦の得意な九条と伊波を先頭に、それぞれが飛び出し陣形を取る。 混戦にならない様先手を取って動き、先ずは手近な天魔と切り結ぶ。 「きんかつ、きんしん……」 離れる前に背後から紫上の呪文を唱える声が聞こえ、先陣を切る九条と伊波に『加護』がかけられた。 自分を包む力を感じつつも後ろの紫上に声を掛ける。 「結は余り前へ出るな、晃、援護を頼む。」 「まかしときッ!」 脇をすり抜け迫り来る蛟が御神の焔威神錫で串刺しにされた。 止めを刺しきれなかったそれが離れる前に、再び穂先が吸い込まれる。 後衛から援護射撃に入っている那須乃の傍に天魔を近づけまいと、若林が菊一文字則宗を振るう。 構え、鋭い突きを連続して繰りだし、近づくモノを弾き飛ばしていた。 その背後で弦を奏でる那須乃は狙い過たず続けざまに矢を放ち、放った数だけ苦悶の悲鳴を上げさせている。 暫くはその状態が続いていたが次第にそれも崩れて、混戦の度合いを深めていく。 「くっ!」 「若林君!」 かいくぐり、突進をしかけてきた狗賓を受けきれずに傷を負う。僅かとはいえ血がこぼれた。 然程離れていなかった御神の援護と紫上の攻撃を受けて狗賓は塵となった。 「誠!大丈夫か!」 二体の猛鬼を相手取りながらもこちらの様子を気にしてくる九条に若林は叫び返した。 「平気です!」 「贖う命よ他が為に有れ……」 近寄った紫上は『回復の祝詞』で即座に傷を癒す。若林は礼もそこそこに戦線に復帰した。 踏み出し、刀を鞘走らせ飛びかかってきた蛟を両断し、返す刃で狗賓に切りつける。 「おお〜、ワカやるやんか。」 槍を小脇にぱちぱちと両手を叩いている御神を掠めるようにして飛来した矢がそれの眉間を捉えた。 絶命の声を上げ倒れるとその姿は消えていった。 「……美沙紀ちゃ〜ん」 「お喋りはそれくらいになさいな!まだ討魔は続いておりますのよ!」 冷や汗を浮かべ情けない声を上げる御神を放っておいて。 射扇の弓を構え、強い眼差しの先に見えるは複数の天魔を相手取り一歩も譲らない九条と伊波の姿。 ニヤ、と笑みを浮かべ御神は焔威神錫を構えなおした。 「せやったな、早う片付けて総代ハンら手伝うたらんとな!」 |