ト・ラ・ブ・ル・メ・ー・カ・ー 予告編
桜の花吹雪が舞う中、風に舞う青い髪をふわりと押さえつけ青年が少女に向かって
「君が好きなんだ」
と告げる。
と同時に「ジャジャジャジャ〜ン」とクラッシク音楽を聞き覚えのある人間でなくとメロディがどこからともなく流れて来た。
「僕の気持ちは、伝えなくとも君に届いてるはずだと判っていても、でも伝えたかった」
「・・・あのぉぉぉ」
「もちろん、君の答えも判ってるつもりだよ」
「・・・あのぉぉぉ」
青年が言葉を伝える度に激しくなるメロディに、少女の頬を赤く染めていく。その姿を見て青年の微笑みは華やかさを増す。
が、しかし・・・・・・・・・・
「すいません! あのぉ私、貴方のこと知らないの。本当にごめんなさいぃぃ」
顔を真っ赤に染めたまま少女はオーケストラと桜の木をバックに背負った青年の前を脱兎の如く逃げ出した。
残された青年の気持ちを代弁するようなタイミングでベートーベンの「運命」のさびの部分「ジャジャジャジャ〜ン」というメロディが流れた。
「・・・・・僕が振られた・・・・いいやそんな事はない。きっと気のせいだ。スイートマイハニーアンジェリークの照・れ・屋・さ・ん」
青年の未練たらしい言葉だけが空しくその場に木霊する。そしてやっぱりベートベンの「運命」のさびの部分「ジャジャジャジャ〜ン」というメロディはエコーのようにエリューシオン・シティ1の資産家であり、名の売れた芸術家という一風変わった履歴を持つセイラン青年の言葉に付随した。
アンジェリークはとても困っていた。知らない青年に突然呼び出され、顔も知らなかったのに好きだと言われてしまった事に。通常であれば喜んでもいいぐらい青年は美形だった。
でも、その顔と差し引いても余るぐらい、状況を考えてくれない困った性格だったようだ。
告白は雰囲気が重要だと友達から聞かされている。そのくらいアンジェリークだって理解しているが、何も本物のオーケストラを用意する事はないと思う。
恥ずかしくて、頬から火が出そうだった。だから走って逃げ出したのだ。さすがに運動と言っても友人の趣味であるテニスに付き合う程度しか動かさない体は大して走っていないのに、既に息がゼーゼーと荒くなってしまう。
いい加減走り疲れたアンジェリークは、
「もう・・・・・駄目ぇぇ!!」
と一言付け加えると、その場に座り込んでしまう。
ゼーゼーと荒い息を整えてるアンジェリークに
「くぅ〜ん」と可愛らしい声で甘え近寄る子犬が目の前に現れた。
「はぁ・・・・・慰めてくれるの?? ありがとう」
その子犬は賢そうな瞳を持ち、小さなしっぽを千切れんばかりに振っている。首には少し薄汚れたリボンが掛けられているが、周りには飼い主らしき人物は見あたらない。
「・・・・もしかして、あなたも迷子なのかしら」
めちゃくちゃに走ったお陰で、場所の把握ができていないアンジェリークは人懐こい子犬を抱きしめ、荒んだ息を整え立ち上がった。
「君の飼い主を一緒に捜してあげるから、もうしばらく一緒にいてね」
と囁いて、歩き出した。
しかし、彼女はここで立ち止まらなくてはいけなかった。それは彼女が極度の方向音痴だという事実を自覚しているのなら・・・・・。
極度の方向音痴であるアンジェリークが、その場所で迷い初めて2,3時間を過ぎた頃。彼はいつもの日課のジョギングをしていた。ついこないだまで軍人だった彼の頬には大きな傷がついてる。しかも彼の体はごっついのだ。軍で鍛え抜かれた肉体は肉体美としてはそこそこにバランスの良い体とも言える。しかし、ごっつい体に頬に傷跡という風体は周囲の人間を怖がらせるには十分だ。そのため彼なりに考えて人通りの少ない時間帯を選んだのだから・・・・。
しかし、その日はいつもと、いや大分周りの雰囲気が違っていた。
楽器をケースにしまい込んだ団体が100人近くもぞろぞろと彼ヴィクトールの前を通り過ぎていった。
訝しげにその団体をやり過ごし、ヴィクトールはいつものコースを走る。
しばらくの間無心で走っていると、少女の泣き声と犬の遠吠えが聞こえ、走る速度を少しだけ緩めてみた。
すると、今度ははっきりと泣きじゃくる少女の声が遠くから聞こえる。
周りを見渡しても、その少女の声に気づくような人通りが多い場所ではなく、仕方なくヴィクトールは声のする方へと足を向けた。
「ひ・・・くぅ・・・・うっうっ・・・・」
「くぅ〜ん、きゅぅ〜ん」
「・・・ご・・ごめ・・・ね・・・・迷ちゃったよぉぉぉ」
子犬をぎゅっと抱きしめ泣きじゃくる少女がそこにいた。
To be continued