昔語り 1
コンコン。控えめなノックと共に彼は現れた。
「やぁ、フリック・・・・・ちょっといいかな」
幼いその肩に課せられた重い宿命をゆっくりと受け止めながら進む、俺達解放軍のリーダーは、しなやかな強さを見せる笑みを浮かべて佇んでいた。
「何か急用な用なのか? リーダー」
「・・・・・・急用・・・・・・とは違うかもね・・・・・。急用じゃなきゃ・・・・ダメかな?」
首を小さく傾げ、子供くさい仕草で彼は問う。何気ない仕草の一つが、彼が年相応の少年だと物語る。
「・・・・・いいや、こんな風に静かな夜は話し相手が欲しいとちょうど思ったとこさ」
「ん、ありがとう。フリック」
「まぁ、適当な所に座ってくれ」
「うん」
素直にうなづいて、ベットの端に座った彼を見つめ、以前グレミオが独り言のように呟いていた言葉を思い出す。
『素直すぎるというのは坊ちゃんの良い所なんですが、苦しいとか哀しいとかそういった感情だけは誰よりも隠すのが上手くて困るんですよね。こんな風に寝ているときだけが私たちが知っている坊ちゃんの姿なんですけどね』
と寂しげに笑った青年の言葉が蘇る。
俺達が知っているのは、解放軍のリーダーとしてずっと前線で戦い続ける姿と、哀しみを全て隠す笑顔のみ。大切な人間の死を乗り越えて傷ついた体を楯に戦う彼しかしらない。
そう、彼はあの時から泣く事ができなくなった。
「で? 俺と話したい事ってなんだ?」
言いにくそうにさっきから、俺を見詰める彼の仕草を気付かぬふりで、リーダーが少しでも言いやすい環境を整える。
「・・・・ん・・・・・・・あのね、テッドの・・・・・・あの僕の親友で・・・・大切な友人が言った言葉をね、思い出したらフリックに聞きたい事があって・・・・・・・・・・・あの・・・・・・・・その・・・・・・無理ならいんだ。だから僕は解放軍のリーダーとして今フリックに聞きたいんじゃなくて・・・・・・・・あの・・・・・・・・・」
「判った・・・・・・落ち着けリー・・・じゃなかったオスカー」
止め処もなくパニックへ陥っているオスカーの背中に手を置く事で落ち着かせる。自分の慌て振りに気がついたんだろうオスカーは膝に置いた手をぎゅっとつかみ深呼吸を一度した後に、再び口を開いた。
「・・・あっ・・・・・・・ごめんね・・・・・・・・フリックはさ、テッドの言葉を覚えてるかい??」
突拍子もない彼の言葉に、テッドという名を思いつく限り記憶の中から思い出す。
「・・・・・・・・・・・確か、今日の・・・・彼の事か?」
コックンとうなづいた彼の姿は痛々しくて、真新しい記憶の中にある少年の顔を思い出す。まだ大人になりきっていない巣が姿のまま300年間もの長い間、あの魔女からソウルイーターを守りつづけた少年の言葉は、どれも重すぎて、彼が何の言葉を指しているのか判らないままだった。
「ソウルイーターは・・・・・・・呪いの紋章で、その所有者の近しい魂を吸い取る・・・・・ていう言葉・・・・を・・・・・・・・・だから・・・・・・・・あのね・・・・・・・・・フリック・・・・・・・・僕は知りたいんだ!! こんな事頼むなんて図々しいと思うんだけど・・・・・・・・ずっと忘れたくないから、ずっとずっと覚えていたいから・・・・・・・お願い、オデッサさんの話しを聞かせて!! 僕はずっと覚えてるから、例え君達が僕を置いてこの世を去っても・・・・・・・・忘れたくないから・・・・・・・あっ・・・・・・・・・・ごめん・・・・・・・・・・・無理にとは言わない・・・・・・・フリック」
真摯な目で俺を見詰めて言い募り、多分予想だにしていなかった彼の言葉に知らない内に顔を強張らせたであろう俺の表情を見た彼の言葉は次第に力を失っていく。
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・ごめん、やっぱりいい。忘れて・・・・」
随分と長い間黙り込んだ俺を見て、それを拒絶と感じたのかオスカーはぎゅっと握り締めた手を軽く開き、トッサとベットから立ちあがると、そう小さく呟いた。
「・・・・・・・待てよ。俺のでいいのか??・・・・・」
まだ幾分白い頭を軽く振って、出て行こうとする彼を呼びとめる。
「・・・・・・・・うん・・・・・・・・僕が聞きたいのは解放軍のオデッサさんじゃないよ。フリックの知ってる普通のオデッサさんが知りたいんだ・・・・・・だから・・・・聞かせて、フリック・・・・・・・・・」
オスカーの声と一緒に聞こえる懐かしい声。
『私が知りたいのは解放軍のフリックじゃなくて、普通のフリックの事よ。だから、教えて・・・』
あぁ、すっかり忘れていたよ。こんな風にオデッサ・・・・君は近くにいた事を・・・・・・・。
「長い話だぞ? いいのか」
「うん!」
念を押す俺の言葉に即答し、うれしそうに笑う。そういえば彼がこんな風に笑う少年だったのを忘れていた。花のように笑うオデッサ、あれはいつの記憶だろう・・・・そして今だけは帝国との戦いは遠い・・・・・・・ 昔語りをするにはちょうど良い風の凪いだ日の出来事だった。
To be continued