星に願いを【後編】



(こっちの世界の星空は綺麗だよなぁ・・・)
メイは研究院の自分の部屋の窓から夜空を見上げていた。
昨日ディアーナに訊ねられて答えられなかった時、自分はこんなことも分かっていなかったと少しばかり落ち込んだ。
日常生活の中で重要なことではないから覚えていなくて当然といえば当然のことだったが、 それでも少しは分かっているとつもりだった。
何のことに関しても。
(・・・・・・)
メイは星を見ながら自分がだんだんと沈んでいくのを感じ、首を振る。
(こんなんじゃ駄目駄目!!明日はシルフィスと楽しくお出かけなんだからさ。楽しんでこなきゃ!)
メイは窓を閉めてベッドに入る。
目を閉じればそこには日本で見た少しぼやけた天の川が見えるはずだった。


「メイ、用意は出来ていますか?」
シルフィスは午前中の内に迎えにきた。
「おはよ、早いねシルフィス。ちょっと待っててくれる?すぐ出るから」
一度顔を見せて、再び部屋に戻ると、メイは仕度を終えて戻って来る。
「さて!どこに連れてってくれるの、騎士様?」
少し気取ったようにメイが言うと、シルフィスもまたクスクスと笑いながら、 メイの片手を取り、恭しく一礼する。
「こちらへどうぞ、姫君」
その言葉にメイも笑い出し、2人は研究院を後にした。

「え?シルフィス、ここって王宮じゃない、もしかしてディアーナにでも呼ばれてるワケ?」
メイの探るような目線を受け乾いたシルフィスは笑いをする。
「はい、姫もいらっしゃいますよ。まぁとりあえずは行きましょうよ、メイ」
背中を押されるようにして進んでいく2人。
ディアーナは窓からその様子を眺めてクスクスと笑っていた。

しばらくして、ディアーナの部屋の扉が叩かれる。
「姫、参りました」
シルフィスの声がノックと共に聞こえてくる。
ディアーナは椅子から立ち上がり、部屋のドアを開けに行く。
「待っていましたわ!ごきげんようシルフィス、メイ!!さぁ、早く参りましょう?」
ディアーナは部屋を出て2人に告げる。
まだ要領を得ていメイだけが顔にクエスチョンマークを浮かばせていた。
「メイ、こちらですわ」
対するディアーナはニコニコと満面の笑みで2人を誘導していく。
勝手知ったる王宮内をすいすいと泳ぎ、2人がもう1人では帰れなさそうなところまで来ると、 1つの扉を軽く叩き、その扉を開いた。

扉の向こうは2人がまだ見たことのない、小さなサンルームのような場所だった。
「ここはね、王族の者だけが憩いの場所として使っているプチガーデンですの。
天上を御覧になって?ガラスがはめ込んであるから、外から何か進入してくることもありませんし、 雨に日にここに来ても違った楽しみがありますのよ?
ふふふ、今日は特別ですわ。お兄様にもお許しをいただきましたもの」
ディアーナは嬉しそうに2人を振り返り、メイへと手を差し出す。
「さぁ、メイ」
メイとシルフィスはその庭の美しさに見惚れていた。
決して広くはないが、手いれの行き届いた植物達、頭上から降り注ぐ木漏れ日の陰が、 花達に様々な陰影を落としていた。
急に呼びかけられたメイは何も考えずに自分の手をそこに乗せる。
ディアーナは嬉しそうにガーデンテーブルへと走っていきそこにある椅子へと座らせる。
シルフィスも後ろからついてきて、空いた椅子へと座った。
「メイ、今日はここでたくさんお話して、夜にはここで星空を眺めましょう?
ここから見る星空は格別ですのよ?」
ディアーナの言葉に今日の七夕のことを思い出す。
「実はね、シオンに頼んで・・・」
ディアーナが言いかけたとき、絶妙のタイミングで、その空間を仕切る扉が開いた。
「姫さ〜ん、これでいいか?・・・ってなんだよ、もう3人ともいたのか」
入ってきたのはシオンとセイリオスだった。
「どうかしらメイ?出来るだけメイが言っていた特徴を伝えて探してもらったんだけど・・・」
シオンが持ってきたのは小さな飾りをつけるにはちょうどいい笹の葉だった。
・・・笹の葉に似た違う植物かもしれなかったが、メイにとってそれは笹の葉以外の何者でもなかった。
「シオン・・・これ探してくれたの?」
メイは信じられない気持ちでいっぱいになりながら、シオンとシオンの持つ笹の葉を交互に見つめる。
「おお。他ならぬ嬢ちゃんのためと聞いちゃなぁ、頑張って探さんわけにもいかんだろ」
言ったシオンはぱちりとウインクをする。
メイはとなりにいるセイリオスへと目線を移す。
「どうだい?ここは。中々いい場所だろう?私はあまり長くいられないが、 楽しいひと時を共に過ごさせてもらいたいね」
その瞳に浮かんだいつもよりもさらに優しげな光がメイを不覚にも涙ぐませる。
「皆ありがとう!!すごく嬉しいよ!!」
メイが心から喜んでいるのを見た面々はそれぞれに暖かい気持ちが育つのを感じていた。



「で?メイはなんて短冊に書きましたの?」
お茶の後に5人で短冊を書き、時は既に星空の時間へと移っていた。
今ここには3人しかいない。
「ん?ないしょー」
メイは日本語で短冊を書いたために、メイ以外の誰にも読むことが出来ない。
「気になりますわ!ね、シルフィス」
ディアーナはシルフィスへと同意を求めると、シルフィスも頷きを返す。
「そうですね。少し気になります。ではメイ、その願いが叶ったら教えてくれますか?」
シルフィスの妥協案にディアーナが「名案ですわ!」と賛同する。
そんな親友二人に苦笑を浮かべて、メイは答える。
「もちろん!!かなえて見せるよ!そしたら教えてあげる」

『この世界と私のいた世界を自由に行き来できるようになりたい』
(それが私の願いだよ)


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