月 と 甘 い 涙
「あの鳥・・・」
どうして?
「あの鳥がすきだったんだよォ〜〜、ルーザーおにいちゃん」
どうして、泣くの?
また新しい鳥を買ってあげるって、言っているのに。
「馬鹿だなぁ−・・・。鳥は鳥じゃないか!」
代わりのものなんて、たくさんあるのに。
どうして泣くの。
月が浮かんでいる。
響くのは波の音だけ。
海にぷかり漂う舟に、母と二人だけで乗っていた。
欠け始めた黄色い月が、暗い海の上に幻想的に映っている。波音は単調な子守歌、舟の揺れはまるでゆりかごのよう。
母の腕の中、眠たくなってくる。
「ルーザー」
リボンとフリルいっぱいのドレスを着て、ジュエルは8つになった次男を後ろから抱え込むように抱きしめていた。
「こんな夜はね・・・、ママ、シルバーのこと思い出しちゃってね・・・、切ないの」
銀に近い神秘的な光が、大好きだった人の面影をくっきり浮かび上げる。
切ないだけじゃなくて、優しく懐かしい。だからこそジュエルは、こんな月の夜に海へ出掛けずにはいられなかった。
息子の髪にそっと触れる。質感も光の宿し方も、よく似ていた。
二番目の子は、どんどんどんどん似て来ている・・・。まるで生き写しのように。
あふれる想いにもはやたまらず、強く強く抱きしめた。
「ねえルーザー、大きくなったら、ママをお嫁さんにしてね」
本気の願いを口にする。
「・・・・いいよ、ママ」
望むなら何でも。
安心したのか、腕の力が緩まる。ルーザーは母と向かい合うように体の位置を変えた。さらさらした金の髪と、穏やかな青い瞳が月の下美しく輝いていた。
「・・・シルバー」
完全に姿を重ねて、ジュエルは涙した。広がる海の心と、月と、甘い涙。
「ママ、どうして泣くの?」
「・・・ルーザー、お願い、遠くに行かないでね・・・」
どうして泣くの?
心の動きに同調することはかけらも叶わなかった。それでも、母の涙は綺麗だと思った。
夜の海に浮かぶ小舟の中、金の長い髪と青い瞳、白い頬を伝う涙は、この世のものとは思えないほど美しかった。
「ずっとずっと、そばにいるよ」
小さな心に、誓うから。だから泣かないで。
両腕をジュエルの肩に回して、力を込める。小柄な母を抱きしめることができるくらいには、成長していた。
腕の中のぬくもりに、今日の小鳥の感触を思い出す。小さく無抵抗な小鳥は、片手の中でたやすく動かなくなった。鳴くことも止め、それでようやく弟ハーレムも眠ってくれたものだった。
あの鳥のように、この手の中で動けなくしてあげようか・・・。
何の気もなしに頭をかすめた思想に、それでも恐怖は感じない。
もし望むなら、手にかけることも厭わないから。
それほど深く、母を想っているから。
「泣かないで」
甘い涙の伝う頬に、そっとキスを。
本当に愛することも知らなかった。
本当の哀しみも知らなかった。
そんな月の夜だった。
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H12.10.15