T H U N D E R B I R D
 海人界はその名の通り、海の多い国だ。
 今日も昼下がりの太陽を受けて、海は眠そうなうねりを見せている。
 海辺のいつもの場所に着地すると、バードは蝶ネクタイをまっすぐに直したり、髪をなでつけたりして身なりをチェックした。いつの間にか、タキシードなんか着ちゃっている。そして手にはもちろんプレゼントの箱。
 耳を澄ませば、潮風に乗って歌声が聞こえてくる。それは甘美な、胸に直接響くようなメロディだった。
 誘われるように岩場を越えていくと、歌っている人魚の横顔が見えてくる。
 金の髪は豊かにウエーブがかっていて、なだらかな白い肩を覆っていた。小作りな顔には海と同じ色の瞳と、鼻筋も高く通っている。そして小さな口から流れ出る旋律。輝く波のしぶきを受け、その姿はこの世のものとは思えないほどの美しさだった。
「マーメイちゃん・・・」
 歌を中断させるのはとても心苦しかったが、それでも自分の存在に気付いて欲しくて、バードはそっと声をかける。金の髪が揺れて、彼女は振り向いた。
「バード!」
 笑顔になる。バードはほっと胸をなで下ろした。今一番怖いことは、彼女の機嫌を損ねることだけだ。
 マーメイの隣に腰掛ける。すぐ足元に波が寄せ返す岩場で、時々軽くはじける波しぶきが肌に心地よかった。
「ねえ、今日は何を持ってきてくれたの」
 早速、贈り物を欲しがる。バードはそれでも上機嫌で、リボンのかかった小さな箱を差し出した。
「今日はボクの誕生日だからねー。特別に奮発しちゃったよ」
「まあ、おめでとう」
 バードの顔も見ないで受け取り、目を輝かせて包みをほどく。普通、誕生日を迎えた人がプレゼントをもらうものだが・・・。
 でもバードはマーメイの喜ぶ顔が何より嬉しいから、微笑んで横顔を見守っていた。
「わあ、スタールビーのネックレス!」
 箱から現れた大きな宝石に、歓声が上がる。中に星のような光の入っている赤い石を取り出し、マーメイは光にかざしてはしゃいだ。
「これ、欲しかったの。ありがとうバード!」
「いやいや、何てことはないさ。それよりマーメイちゃん」
 さりげなく接近して、小声になる。
「今日、うちの姉さんが来て、彼女がいないなら見合いをさせるって言うんだよ」
 いったん言葉を切って反応を伺う。マーメイはきょとんとしてバードを見返していた。
「・・・それで、うちの親に会ってくれないかな」
「・・・え・・・」
 戸惑いの表情になって、マーメイは目をそらした。少しの間を置き、もう一度見上げる。
「あ、でもあの、私はまだそういうことは・・・」
「いや、そこを何とか・・・」
 頭を下げてお願いする鳥と、困惑顔の人魚。
 そんな二人の様子を、近くで見ている者がいる。岩の上にちょこんと止まった、手のひらに乗るくらいの小鳥だった。

「ふう・・・やっと帰った」
 ネックレスを指先でぶらぶらさせて、マーメイは呆れ声とため息をこぼした。
「まったく、何が親に会ってくれ、よ。こんなのでももらわなきゃ、やってられないっての」
 魚の下半身をぴちぴちさせて、スタールビーは大事に持ったまま、海に飛び込む。
 同時に小鳥も身を震わせて水滴を払うと、小さな羽を空へと広げた。

 

つづく
 

 第3話・さえずる小鳥少年

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