次の日も、前日より更に高価な宝石を手にして、バードは海人界へと向かった。昨日の少年のことは、もう頭にない。ナンバーワンたるもの、ファンにいちいち構ってはいられないのだ。
いつもの岩場に着地するが、今日は歌声が聞こえなかった。いないのだろうか?
そっと、波打ち際に顔を出す。ふわりと波打つ金の髪が見えた。
「マー・・」
名を呼ぶ声は、途中で立ち消えた。マーメイの隣に、もう一人の人がいるのに気付いたためだ。
まさか、の思いをやっとのことでねじ伏せて、もっとよく見えるように、静かに伸び上がる。隣にいるのは、男。しかもぴったりと寄り添って、楽しそうに会話をしているではないか。
波の音が邪魔をして、二人の囁くような話し声は聞き取れない。バードはよろけそうになる体を懸命に支えて、岩の陰に音を立てないようにしゃがみ込んだ。押さえ込んだ胸の痛みに、死にそうになる。
「それじゃあ、また明日来るからね、マーメイ」
「ええ。さよなら」
ようやく聞き取れたそんな声も、男が立ち去るらしい足音も、まるで遙か彼方から聞こえてくるようで、ただ自分の心臓の鼓動だけがクローズアップされて響くのだった。
(・・でも、もしかして誤解かも・・・。兄弟とか)
良い方に良い方にと考え、早速立ち上がる。恐るべきは、脳天気な能力だ。
気を取り直して、もう一度声をかけようとしたとき、波の立つ海面が乱れ、バシャリと水をはじきながらもう一人の人魚が姿を現した。マーメイとは違って明るい褐色のストレートヘアだが、この子もなかなか可愛い。彼女は水から上がると、マーメイのそばに腰掛けた。
「マーメイ、また何かもらったの?」
「ええ。見て見て」
どうやら二人は友達らしい。さっきの男からもらった物を手渡して見せ、マーメイは得意そうだった。
「男なんて、単純よね。ちょっと話し相手になってやれば、何でもくれるんだから」
「あんたも悪い子ねえ」
「いいじゃない、別に。・・今日はあの鳥人も来るはずだわ。昨日よりも高い物をくれるんでしょうね」
言葉は何よりも鋭利な刃となって、バードの心をえぐる。今度こそ本当に死にそうだ。ハートに入った亀裂がぴしぴしと広がって、ポロリと欠け落ちた。
「ホラ・・・だから言っただろ」
黄色い小鳥が止まっていた。言葉はバードの耳には入らない。顔面蒼白になってよろよろと歩き出した。思い出したように鳥に姿を変え、やはりよろよろと飛び始める。
「バード」
ヒヨも追うように飛んだ。
「気にするなよ。一文無しになる前に分かって良かったじゃないか。また次の出会いだって・・・」
「・・・マーメイちゃん・・・」
聞こえちゃいない。バードの頭の中は真っ白で、何も考えられる状況ではなかった。
「バード」
「マーメイちゃーん」
大きいのと小さいの、二羽の鳥がぱたぱたと海人界を横切っていった。
H11.7.11