T H U N D E R B I R D
「あーあ、やってるよ・・・」
 呆れたつぶやきをこぼすヒヨ。もう夕闇迫る時刻となっていたが、ヒヨは一軒の大きな家のすぐそばに張り出した木の枝に止まっていた。その部屋からは意味不明のわめき声やら、歌声やらが聞こえてくる。
「こんなとき、すぐ酒に走るんだから・・・男ってのは」
 窓越しに、真っ赤な顔してバカみたいに騒いでいるバードと、もう一人、黒髪に眼帯の大男の姿が見える。
 そう、ここは、竜人界のリュウの家だった。
「オラァ、もっと飲めバード。おりゃあ脱ぐぞー」
 リュウさん、すっかり出来上がっちゃって。早速たくましい肉体を惜しげもなくさらしていた。
「チクショー、女なんてえー!」
 ろれつが回ってない。バードはまた杯をあおった。
 ショックに耐えきれなくて、お酒に溺れたい気分になったバードは、酒飲みのリュウのところへ直行したのだった。あまりに単純すぎるが、これが彼の今考えついた最善の行動だったらしい。
「マーメイちゃーん!」
 泣いている。
「うぉぅ、マーメイー」
 でたらめに節をつけて歌っている。リュウはいつものノリで、彼なりに楽しそう。
 床に転がった酒瓶といろいろ混じったアルコールのにおい、脱ぎ散らかした服。会話は怒鳴り声かべらべら聞き取れない言葉によってのみ交わされ、意志の疎通など望むべくもない。酔っぱらい二人で、もうメチャクチャな状況の室内だった。
「あ・・・雨だ」
 ぽつぽつ、羽を打つ。ヒヨは葉の陰に小さな体を隠した。
「なんか、雷がきそう」
 そんなことも、あの二人は気づきはしないんだろうけど。
 あっと言う間に強くなった雨を枝葉だけではしのぎ切れず、小鳥の全身は濡れ始める。それでも、ヒヨはその場を去る気にはなれなかった。心が壊れるくらいに傷つき、アルコールで紛らわそうとしている可哀相なバードが気になって仕方がないから。
「・・オレ、そろそろ帰るかな」
 大粒の雨の音と雷が、少しだけバードの酔いを醒ましたようだった。それでも十分に回らない舌で、どうにか発音すると、バードは立ち上がる。ふらっとよろけて、転びかけた。
「おー、バード、いいから泊まってけー。一晩中飲み明かそうぜー」
 オッサンが新しい瓶を開けながら誘いかける。それでもバードは壁に手を付いてよろよろと窓の方へ歩いた。
「邪魔したなー」
「雷なってんぞー」
「・・・いいんだ」
 手間取りながら窓を開け、雨の中に飛び立つ。
「気を付けろよー」
 放たれた窓から雨風が入り込むが、閉めるのも面倒なのでそのままに、リュウは一人で酒を流し込む。飲めれば楽しい彼は、別にバードがいてもいなくても構わないようだった。

 強い風と冷たい雨粒、そして激しい雷が、酔いの心地よさをどんどん奪い去ってゆく。
 後に残るのは、胸から上がってくるようなむかむか感と痛む心だけだった。
 自分は何をしているんだろう。麻痺した脳の一部が、ぼんやりと考え始めた。一体何をしているんだろう。
(もういいんだ・・・)
 雨に濡れて風邪をひいたって、風に吹かれてどこか流されていったって、雷に打たれて黒コゲになっちゃっても、いいんだ。
 こんな自分、どうなったって。
「う・・・」
 強烈な吐き気に襲われ、思わず羽ばたきをゆるめた。空がぐるぐる回る。雨の音が近くなったり遠くなったり、これもまた回ったりしている。
(やば・・・)
 体がしびれて動かない。世界が全部揺れている。揺れすぎて、回転までし始めている。重力を一瞬忘れた。
 あとは吸い込まれてゆく。暗黒のトンネルの奥へと。

 

 

つづく
 
 
 第5話・THUNDERBIRD

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