T H U N D E R B I R D
 激しい雨は降り続き、時折鳴る雷と絡み合ってすさまじい反響を作り上げている。
 気を失ったバードを近くの小屋に運び込んで、ヒヨは額の汗をぬぐった。重かった・・・。木こりの小屋、といったところだろうか、丸太で出来た小さな建物は、それでも雨風をしのぐには十分すぎるものだった。
 バードは無意識に変身したのか、人の姿になっていて、濡れて汚れた翼をうち乱して横になっている。意識はまだなく、不規則に胸が上下するさまが痛ましかった。
「どうしよう・・・」
 床にひざをついて、ヒヨは右手を出した。バードの頬を軽く叩いてみる。
「バード、大丈夫!? 目を開けてよ」
 全く反応はない。紫っぽく変色した唇から、荒い息が洩れただけだった。
 ヒヨは、頬のあまりの冷たさにぞっとした。おそるおそる首筋に触れると、そこもひやりとしている。体全体がひどく冷えていた。
「まずい・・・」
 ぐっしょりと濡れた服に手をかける。ボタンを外し、シャツを脱がせた。たっぷりしみ込んだ雨水が体温を奪い去ったのだ。ちょっとためらってから、ズボンも脱がせてしまった。かなりの重労働に、ヒヨもくたくたになる。
「バード!」
 叫びながら、何か体を拭いてやるものはないかと辺りを捜す。今は使われていない小屋なのか、殺風景なくらい何もなかった。諦めてもとの場所に戻ると、自分の服もかなり重くなっていることに今さら気付いた。帽子を取ると、長い黄色の髪がふわりと肩に流れる。くせっ毛なのか、少し波打っていた。ヒヨはバードが目覚めないか気にしながら上着も脱いだ。ゆったりとした服を畳んで床に置くと、背の翼を震わせ、水滴を払った。タンクトップ姿になったヒヨの体の線は細くて丸みを帯びており、その胸元は柔らかい膨らみを描いている。
「バカなまねするんだから。飲み過ぎなのよ」
 パンツ一丁で気絶しているバカのそばに再び座り込む。相変わらず肌は冷たく、息はますます荒くなっていた。
「・・・・」
 しばし考えて、思い切ったように顔を上げると、ヒヨはもっとバードに近付き、寄り添うように横になった。
(温めるには、体温が一番だって言うもんね・・・)
 そんな場合ではないけれど、ドキドキしてしまう。温めるためにもっと触れなくては、と思い、とうとうバードの体の上にのっかってしまった。最初は重いかな、と気を使って両手で体重を支え、おそるおそる乗ったのだが、バードは相変わらずちっとも反応を示さないので、ゆっくりと自分の体を預けた。羽が、バードのそれと床の上で重なる。熱が伝わることを強く願った。
 息づかいを耳の側で感じる。心臓の鼓動もダイレクトに響いてくる。
 異常に高い湿度と雷雨の音とが、時間と空間の感覚を麻痺させた。しつこいくらいにまとわりつく、粘りけを帯びた空気。その不快感すら、初めて覚える陶酔にすり替わってしまう。不謹慎にもずっとこのままでいたいと思ってしまうほどに高まって、ヒヨの胸を圧迫した。
 重なり合う白い翼が、お互いの体温を分け合っていた。

「・・・う・・・」
 やがて、苦しそうにうめき、バードは意識を取り戻しかけた。ヒヨは我に返り、急いで小鳥の姿に変身する。
「うう・・」
 バードは目を開けた。
「気が付いたか? ったく、何やってんだよ」
 恥ずかしさが、口調を乱暴なものにしてしまった。
「・・気持ちわるい・・・」
 寝たまま胸を押さえて、バードはうげっ、なんて本当に具合が悪そう。どうやら体温は戻ったが、アルコールはすぐには抜けそうもない。
「今、助けを呼んでくるから、そのまま待ってて。戻って来るまで、死ぬなよ!」
「・・・ヒヨ、おまえ・・・」
「ん?」
「い、いや・・・何でもない・・・」
 夢だったのだろうか。小さくて柔らかな女の子が、すぐそばにいたこと。
 まだぐるぐる回る天井に耐えきれず、再びバードは目を閉じた。闇まで回っているようだ。むかつく胸と湿気に耐えながら、やはり体中に残っている温かな感触を不思議に思った。
 

 
 

 

 

つづく
 

 第6話・風の吹くまま

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