T H U N D E R B I R D
 数日後、バードは姉のミヤコに拉致同然に連れ去られ、無理矢理見合いに向かわされた。会場は、鳥人界でも超一流のコックが腕をふるうレストランだ。
「姉さん、オレやっぱり見合いなんてヤダよ」
 すでに個室の中では相手が待ちかまえているはず。ドアの前で、バードは最後の抵抗を試みた。
「おだまり」
 スーツの襟を少々乱暴な手つきで直してやりながら、ミヤコは断固とした調子で弟を見上げる。
「どうせ彼女も見つけられないクセに、ナマイキ言ってんじゃないのッ!」
 グサッと突き刺さった言葉に、バードは何も言い返せなかった。
 確かに彼女はいない・・・けど、気になっていることはあった。
 バードはヒヨに、もう一度会いたかった。会って、あのときのお礼を言うのと同時に、確かめたかったのだ。あのときのことは、夢だったのか、それとも・・・。
 しかし、少年はあれ以来姿を見せなかった。
 胸に何かがつかえているようで、すっきりしない気分。こんなときに、お見合いどころではないのに。
 それでもこの姉に逆らうことはできない。テキも必死なものだから。
「お見合いの相手は、チビドリ族の、家柄も申し分ない貴族のお嬢さんよ。失礼のないようにね」
 と小声で囁かれ、背中を軽く押された。仕方なくドアを開けて中に入る。
 清潔で明るい室内に、長方形のテーブルが置かれてあり、二人の鳥人が並んで椅子に座っていた。バードとミヤコが入って行くと、見合いの相手とおぼしき女性が顔を上げる。
「・・・あっ」
 バードは思わず声を上げてしまった。にこにこと、親しげな笑顔を浮かべて軽く手まで振っている女の子。その顔が、ここ数日頭から離れなかった面影と重なったから。
「ヒヨ・・!?」

「びっくりした。見合いの相手って、ヒヨだったのか」
 一通りの挨拶を終えると“あとは若い人だけで”などと古典的なセリフを残しつつ、ヒヨに付き添ってきた兄とミヤコとは早々に退出してしまったので、バードとヒヨは二人だけで食事を進めることとなった。
 ヒヨはちょっとくすぐったそうに笑う。
「ゴメンね。だますつもりはなかったんだけど」
 本名は、「比翼」と書いてヒヨと読むという。年は23才。年よりも幼く見えるが、これはチビドリ族という種族の特徴だった。
 バードは自分の願いが思いがけない形で達成されたことで、かえって妙な居心地の悪さを感じながら、機械的に食事を口に運んでいた。あまり味は分からない。
 それに対してヒヨは全くこだわりのない様子で、実に楽しげにさえずるのだった。
「家族はみんな、あたしを早く結婚させたがっているんだけど、あたしあんまりそういうの分かんないから。お見合いって言われても、どんな人かまず見たいなって思って、それで男の子のフリして近付いたの」
「・・・・」
「怒った?」
 黙ったままのバードを心配して、身を乗り出す。バードはそっとナイフとフォークを置いて、顔を上げた。今初めて、ヒヨの姿をまともに見たような気がする。黄色の髪を編み込みにして、ピンクのきれいな服に身を包んでいた。はしっこそうな目とふっくらした頬はあのときの印象のままだが、化粧のせいか、今日はとても女の子らしく可愛かった。
「怒ってはいないよ」
 自分は、お見合いを“こういうもの”と決めつけて、関心すら持たなかったのに。自ら働きかけて確かめたヒヨの行動力には、感服こそすれ怒ったりなんて決してしない。
「・・・あのとき、ありがとう。それ、伝えたかったんだ」
「うん」
 思い出すと恥ずかしくて、ヒヨはちょっと目を伏せてしまった。

 食事が終わると、ちょっと散歩でも、という辺りもお見合いとしてはベーシックな流れで、バードはヒヨと並んで敷地内の庭を歩いていた。どうやら打ち解けて、自然な笑顔も浮かんでいる。
「アラ、いいムードじゃない・・・。お母様もきっと大喜びね」
 そばの茂みにひそんで、ミヤコは二人を観察している。仲の良さそうな様子に、ほっと胸をなで下ろした。
「これであのオテンバも、ちょっとは落ち着いてくれるかな」
 隣で、同じようにひそんでいるヒヨの兄も満足そうに頷いた。

「ああ、何か肩こっちゃったな」
 首を動かして、ヒヨは伸びをした。繊細な素材のワンピースが破れそうなのに気付き、思い切り伸びもできないで腕を下ろす。
「おいしいものは食べちゃったし。もうここにいる必要もないよね。遊びに行こうよ!」
 独り言かと思っていたが、最後に誘いかけられてバードはちょっと面食らった。あっと言う間にヒヨは小鳥に変身していて、すでに空に舞い上がっている。
「早く、バード!」
「あ、ああ」
 もうペースにはめられている。それでも悪い気はしなくて、バードもそのままで翼を広げた。
「コラ、比翼ー! このオテンバ娘、戻ってこーい!」
「アハハ。やだよーっ!」
 兄の声も遠くなる。追いついてきたバードの背に乗って、ヒヨは羽ばたきをやめた。風を切るスピードはチビドリ族ではとてもマネできない。ころころと笑い声を上げて、スリルを楽しんだ。
「なあ、ヒヨ」
「ん?」
「確かめてから、今日見合いに来たってことは、オレはおめがねにかなったってことかな?」
 冗談に紛らした口調で聞いてみる。フラれた傷もまだ新しいバードは、自分を支えるプライドを取り戻したかったのかもしれない。
 だが彼女は笑って言うのだ。
「この人、放っておけないなって思って」
「・・・あっそ」
 年下の女性に言われるセリフではないような。
「でも、気になったのは確かだよ。また会いたかった」
 同じ事を考えていた。言えないけれど。
 バードは内心嬉しくて、気付かれないように笑っていた。
 こんなのも、いいかも。ヒヨは夢に描いていたタイプの女の子じゃないけど。リリカル星羅が描く少女漫画みたいな出会いじゃないけど。
 この気持ちを大切に育ててみれば、もしかしたら実を結ぶかも知れない。ずっと憧れていた恋という形に。
 青い空には雲の影もなく、黄色い小鳥を背に乗せてバードはゆったりと羽を広げた。
 風の吹くまま、どこまでも行こう。目的なんてなくてもいい。そう、焦らず、ゆっくりと、流れに任せて。
 二人で、どこまでも行こう。
 

 

 

 

END
 
 
あとがき
きっかけは、相模さんが伝言板に書き込んでくださった一言でした。
「バードにも彼女を作ってあげて」
考えてもみなかったので、ちょっと意表をつかれたという感じでしたね。
だって、バードは彼女がいないからこそ、ああいうキャラクターで売ってきたんだもん・・・。
でも、あの戦いが終わった後しばらく経ってからなら、そんなこともあっていいのかな・・・。と思い始めたところから、この物語は形を作っていったのです。
とはいえ、ストーリー作りには少し時間がかかりました。
一見清楚な女の子が実はトンデモナイ性格で・・・というのと、オテンバな女の子が実は見合い相手だった、というのは、それぞれ昔のマンガからもらった設定です。
どんなふうにからめるか・・・。いろいろ考えて。
最初、雷に打たれて女の子の方が倒れ、それをバードが助けるという設定を考えたのですが、イマイチ煮詰まらなくて。タイミング良く、あるきっかけがあり、「助けるのはいつも男というわけではない」と気付いたのです。そして逆転させることにして、おはなしは一気に出来上がったのでした。

オリキャラのヒヨ。もともとはひらがなで「ひよ」としたんだけれど、登場人物みんなカタカナだから統一しました。
またちっちゃくてオテンバな女の子にしてしまった。私の得意なパターン。ワンパターンとも言う。好きだからいいの。
お見合いをする年頃の女性が少年に変装するなんて、ちょっとムリがあるかな、とも考えたのですが、そこは種族の特徴ということにして。ちっちゃい小鳥に変身するから、チビドリ族。単純。

実は私の恋愛に対する考え方がちょっと入ってたりする。
すなわち、失恋しても引きずっているヒマがあったら、さっさと次捜そう。ってこと。
「この世にたった一人」ってこともないと思う。ある程度どんな相手とでも、恋愛感情が生まれる可能性はあるんじゃないかと。きっかけ次第で、男と女の関係はすぐに変わる。
それともう一つ。出会いは平等ということ。
私の友達でも、「彼氏欲しい」と言いながらも、「見合いは絶対にイヤ」って言う人がいる。
私は職場で出会うも、見合いで出会うも、出会いという意味では同じだと思うんだけど。本気で彼氏が欲しかったら、いろんな方法で捜せばいいんじゃない。あれはイヤ、これはイヤって言わないでさ。
人の紹介でも合コンでも、シュミのサークルでも、インターネットでも、はたまたナンパでも逆ナンでも。
出会いは何でもいいじゃない。その後、幸せになれればね。
チャンスは自分で作ろうよ。

タイトルはTMレボリューションの、私の大好きな歌です。文字電話の着メロにも使っちゃってるもんね。
冬っぽくてドラマティックでいい曲。
西川クン、好きです。ちっちゃくて細っこくて、かわいいです。
タイトルに結びつけて、前回「罪深く愛してよ」に引き続き雷雨を使ってしまいました。
そうそう、前回は随分力を入れて書き上げたので、今回は力を抜こうと思って。だから文体に時々口語が交じっているの。
軽く軽く。しかし最初は力の抜き具合がうまくいかなくて、ちょっと戸惑ったな。

 

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