クローン・パニック!
サービスは戸惑っていた。相変わらずの美しい無表情でいながら、これでも内心では戸惑っているのである。
「サービス、一緒にごはんを食べに行こう。何でも君の好きなものを」
右側からか細い声で、すがりつかんばかりの双子の兄・・・ハーレム(クローンその3)。白いブラウスに細身のパンツという出で立ちの体の線もまた華奢で、まるで少女マンガの王子様みたいだ。
「いやいや、この俺と是非。君はバラより美しい」
と左側から赤いバラを差し出して誘ってくるのも、ハーレム(クローンその4)。なんか宝塚な格好している。
変な兄二人にご飯誘われている。これは戸惑わずにいられないシチュエーションだ。
(・・・高松だな)
察しのいいサービスは、この間高松に渡したハーレムの髪が関係していることに気付いていた。
(まったく、ロクな実験をしないヤツだ)
別人の髪を提供した自分のことは完全に棚に上げている辺り、やはりいい性格している。
「サービスお願いだよ。僕と一緒に・・・」
「こんななよなよした奴より、俺とうまいもの食いに行こう」
兄に、しかも二人ものハーレムに誘われるなんて、滅多にないことだ。・・・というか、一生に一度あればたくさんだ。
でもここまで熱心に誘われれば、悪い気はしない。女王様気分というか。
「・・・じゃ、勝負して勝った方と付き合うよ」
大して考えもせず言ってやると、少女マンガハーレムは青ざめ、宝塚ハーレムは色めき立った。
「そんな・・・暴力反対だよ」
「よし、必ず君をゲッチュー」
ハーレムの言葉とは思えない。どちらにしても。
「スモウで勝負だ、ハニィー見てなっ!」
サービスにウインクと投げキッスをよこして、ハーレムはハーレムにかかっていった。
なかなか面白いな・・・。投げキッスを避けてから、サービスは高見の見物を決めこむべく腰をかけ、長い脚を組んだ。
あんなビラビラの衣装なのに何故スモウなのかも謎だ。
「いくぞ見ていなラヴパワー!!」
金糸の光る裾を翻してかかっていく。逃げ出そうとする気弱なその4をつかまえた。
「やめてぇ〜〜」
か細い声も裏返る、ヘンな悲鳴が笑える。
マワシがないのでそのまま腰を掴んだ宝塚ハーレム、その細さに驚き思わず手を引く。
ハッとして見ると、少女マンガ特有の星を宿した瞳は、恐怖のためかうるんでいた。
(・・・可愛いっ)
ドキッ。
クローン3号も、4号の凛々しい眉目に顔を赤らめる。
ポッ・・・。
「・・・俺はもう君に夢中さ」
宝塚はどこからか小さな花束を取り出し、手渡しつつ、さっき乱暴に掴んだ少女マンガハーレムのウエストを今度は優しく抱いてやる。
サービスはちょっと気分が悪くなって、レースのついたハンカチを口に当てた。
「今日は二人で食事に行こう。いいだろう?」
「うん・・・」
バックにバラと点描を背負い、唐突に愛(!?)を芽生えさせた二人は、もう他のものなど目に入らない様子で、サービスに背を向け行ってしまった。
金の髪の二つの後姿が遠ざかってゆくのを見守って、サービスはハンカチをしまった。
(・・・気味悪いけど、滅多に見られないものを見たな)
あれこそ究極のナルシストとでもいうのか。
ともかくショーはおしまいだ。三流の舞台よりは面白かったかもしれない。
(さて僕もごはんを食べよう)
立ち上がったそのとき、級友が必死な顔して走ってきた。
「どうした高松」
この男がこんな取り乱しているのも珍しい。今日は得なものを色々見ることのできる日だ。
「・・・サービス、ハーレムに会いませんでしたか。しかもちょっと変なハーレムに!」
ゼエゼエ言っている。
サービスは涼しい顔で答えた。
「ああ、ちょっとどころかかなり変なハーレムが、さっきまでここにいたよ。二人ほどね」
「二人っ・・・!? それでどこに!?」
「駆け落ちしたけど」
「・・・・」
高松は頭を抱えた。
そもそもこの騒ぎの元凶が誰だったかを思い出し、バッと顔を上げる。
「サービス、この間の昼食代返してくださいっ。なんでハーレムの髪なんて持ってきたんですか!?」
「そんなことより、追わなくていいの?」
詰め寄ってくるのをさらりとかわす。
「・・・・おぼえといてくださいよッ!」
捨てゼリフを投げつけ、高松は再び走る。さっきからのハーレム回収作業で疲れきっていたが、走らないわけにはいかなかった。
もう忘れたよ、と呟いて、サービスは今度こそ食事に行った。
「おい、てめえ誰だよ」
不愉快そうに口をへの字に曲げ、ハーレムは目の前の男をにらみつけた。
「俺はハーレムだよ」
同じ姿で同じ声で。薄笑いを浮かべているのが気に食わない。
ハーレムクローンその5は、特攻服を着こんだ、目にあやしい光を宿した男・・・そう、さっき高松に一撃を食らわせた奴だ。
「ンだと、勝手に人の名語りやがって・・・後悔させてやるぜ!」
オリジナルのハーレムは、早速身構えた。自分にそっくりの男も同じような構え方をする。どこまでマネする気だ。ムカつく。
「フザケやがって! 行くぜ!」
「・・・どうした? ハーレム」
赤いブレザーのマジックは、総帥の椅子から鷹揚に声をかけた。
目の前にはレザー服の上下に身を固めた三男坊が立っている。腹でも空かせているのか、飢えた獣みたいに目がらんらんと光っていた。
「・・・総帥の座、もらうぜ!」
いきなり宣言し、ハーレムクローンその6はバズーカを肩に担いだ。
「フン・・・大したことないな。もっと骨のある奴いねえのか?」
地に伏したオリジナルを見下ろして、5号は鼻で笑っている。
「あーウズウズする。戦いたくてしょーがねえよ」
ボキボキ指鳴らして、その場を去ろうとした。
「・・・待て、てめえ・・・」
本気の怒りのこもった声に、特攻服を翻して振り返る。
「まだやんのか?」
5号の余裕も、長くは続かなかった。背筋も凍りつくような青い眼に、息も止まりそうになる。
「・・・俺を本気にさせたらどうなるか、見てろ・・・」
立ち上がり、本物のハーレムは手の中に青の力をためこんでいった。
「・・・少しいたずらが過ぎるようだな、ハーレム」
バズーカを遠慮なくぶっ放されたせいで、既に総帥室は見る影もなくなっている。
マジックはこめかみをピクピクさせながら、弟の正面に立った。
6号は、さすがに冷や汗をかきながらも、再び武器を構える。
「おしおきだ」
マジックの両眼に青の光が満ちていった。外にいるハーレムの両手の中と、総帥室にいるマジックの瞳の中で青のエネルギーはぐんぐん膨らんでゆく。
そして、それは同時に爆発した。「眼魔砲!!」
ちゅどーん!! ガラガラガラ・・・・!!
「・・・ん?」
いきなりの爆音と揺れに、サービスはナイフとフォークを持った手を止めた。誰も来ないから一人で先に食事をしていたのだが、一体何をやっているんだろう。
「まあいいか。さめないうちに食べよう」
「ただいま、サービス」
「あ、おかえりなさいルーザー兄さん。ごはんは?」
「ハーレムと食べてきたよ」
何かいいことでもあったのか、兄は上機嫌のようだ。
「それにしても、何を騒いでいるんだろうね」
「さあ・・・。あ、ルーザー兄さん、デザート一緒に食べようよ」
「うん」
とても優雅且つ平和な次男と末っ子だった。ところが長男は殺気立っていた。見事に瓦礫の山と化した総帥室から起き上がり、辺りを見まわす。
「・・・ハーレムっ!!」
「? マジック兄貴」
さっきのエセハーレムを捜していたハーレム(もちろんオリジナル)は、緊迫感あふれる兄の声に思わず足を止めた。見れば顔も怖い。
「どーしたんだよ、建物こんなに壊して」
マジックの中で何かがプチッと切れた。
「ハーレム!! おまえという奴はッツッ!!」
「え、何だよ。えっ?」
わけが分からないまま追い回されるハーレムには、これしかかける言葉はない。
(・・・ご愁傷様です、ハーレム)
物陰からそっと見て、高松は両手を合わせ祈っていた。
全身を怒りで燃やした、鬼のようなマジックから逃げ切れはしないだろう・・・きっと。
(まァ、今の騒ぎに乗じてクローンは全て回収しましたから・・・とりあえずは一件落着ですかね)
「待て、ハーレム!! 今日という今日は許さんぞッツッ!!」
「ひえ〜〜、なんでだよー!!?」
どこが一件落着なんだ、マッドサイエンティスト。
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H13.5.13