DEPARTURES 8


 それから二ヶ月ほど経った、ある晴れた日のこと。
 ガンマ団の一室から空を見上げて、シンタローは窓に息を吐いた。
「今日もいい天気だよ、ナオミ」
 曇った窓を手で拭いて、振り返って見る。きれいなベッドの中にいる、恋人を。
 冬の弱い日射しの中で、ナオミは眠り続けていた。少し伸びた髪が枕に乱れているのを指先で直してやり、シンタローは椅子に腰掛ける。
 どんな夢をみているのだろう。あのときと同じ、安らかな寝顔で。
 そしていつ、夢の中から帰ってきてくれる・・・?
(待っているよ)
 毎日ここに来ては、枕元で確かめている約束だった。

「ナオミ!」
「ナオちゃーん」
 マジックとグンマ、それにキンタローがどやどやと入ってきて、小さな部屋はたちまち賑やかになる。
「あんだよ、静かにしろよ」
 二人きりを邪魔されて、少し不機嫌なシンタローだった。
 構わず、三人は我先にとナオミの顔を覗き込みに走る。
「まだ起きないの?」
「ナオミ、兄さんだぞ」
「ナオちゃん、早く起きなさい」
「・・・ったく、どいつもこいつも」
 と、シンタローはマジックたちがそれぞれに大きな箱や袋などを手にしていることに気付いた。
「何だよ、それ」
「ああ、これ?」
 少し髪を切ったグンマが身を起こした。喜々として緑色の箱を床に置き、開けて見せる。中にはこれもまた緑色の、先が細くなったもしゃもしゃした物が入っていた。
「クリスマスツリーだよ! ナオミの部屋にも飾ってあげようと思って」
「俺の部屋にも飾ったからな」
 髪を短くしたキンタローも、持っていた袋を開ける。金や銀のモールが何本も出てきた。
「ナオちゃんはクリスマスが大好きだからね」
 マジックの箱には、星や球やリボンや、その他さまざまなオーナメントがカラフルに詰め込まれている。
「さあ、飾り付けをしよう」
 もみの木を形良く整えて、せっせとオーナメントをとりつけにかかる。マジックは肩越しに、にこにこ顔で振り向いた。
「シンちゃんも一緒に、やろう!」
「・・・ったく、ガキじゃねーんだから」
 と言いながらも、仕方ないといった風情で星を手に取る。金色の星は、きらきらとして何だかファンタジック。
「確かに・・・ナオミが喜びそうだよな」
「だよね!」
「俺も結構楽しいぞ」
 もし、起きていたら。この星よりも瞳をきらきらさせて、張り切って飾り付けをしただろう。
 まるで本当に参加しているかのように、思い浮かべることが出来る。頬をピンクに染めて、はしゃいでいるナオミ。笑い声までありありと聞こえるようで。
「シンちゃん、その星は一番上に飾るんだよ」
「分かってるよ」
 シンタローもちょっと楽しくなってきた。立ち上がって、ツリーのてっぺんに星を付ける。
「ちょっと曲がったかな・・・」
 いつの間にか一生懸命になっている自分がふとおかしくなって、シンタローはひとりで笑ってしまった。ひとかけらの哀しさは、胸の奥で痛むままにして。
(一緒にツリーを飾れる日が、来るよな・・・、ナオミ)
 星の輝きの向こうに白い寝顔が見えた。お人形のように目を閉じたまま、何も答えない。
 

 ナオミのために一番綺麗にデコレーションされたツリーが、ぴかぴか光っている。ナオミのための寝室の、ナオミのための白い壁が、豆電球の明滅を幾度も反射させていた。
 透けるほど白い肌も、これもまた透けそうな金の髪も、断続的にカラフルな光を映す。
 とてもきれいだった。

(帰って、くるもんな・・・)
 この部屋に。この世界に。この腕の中に。
 帰ってくるよね。
 きっと、帰っておいで。

 そのときから始めよう。
 もう一つの、物語を!
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 

−END−

あとがき


 

おわったーーーっっ!!
終わりました、DEPARTURESシリーズ。いや長かったですね。
おっと、DEPARTURES全体よりも、この話のあとがきをまずは書かなくては。
前回ルーザーが天に召されたところでクライマックスだったので、今回は優しくラストに持って行こうと思いました。
ナオミが長い間眠っている、というのはこの後のおはなしでも何回か書いたんだけど、それはこういう理由だったのですね。癒しのために、力を使い切ったの。
前々から考えていたラストでした。
ウィローを使うことは考えていなかったんだけど、コミックスを読んだら、ウィロー、最後の最後でなんかオイシイ役もらってんのね。
そういえば彼って、ナオミが幽閉されるに至った直接の原因だったっけ、ということを思い出しました。じゃあここで皆スッキリさせちゃおう。ナオミに許してもらおう。
ちょうどメッセンジャーにもなってもらえて、うまくまとまったな、とニヤリ。

しかしアレだね、今の犯罪とか見ていると、赤い玉の嘆きが分かるよね。ヒトを創っちゃいけなかったんだ、って。
パプワの「変だな、仲良くできないなんて。ケンカするよりよっぽど簡単なことじゃないか」ってセリフも身にしみます。
でも、でもね、私もパプワくんやナオミと同じで、創ってもらってよかったと思う。
確かに生きていれば辛いこともあるけれど、それよりも楽しいことの方が絶対に多いから!
同じように、哀しい犯罪を犯してしまう人もいるけれど、それよりもいい人の方が絶対に多いから!
信じていたいんですよ、何があっても。
少年犯罪のこともよく言われるけれど、その年頃の子だって、いい子の方が多いと思う。一部の人がそうだからといって、みんなそうだってんじゃないでしょ。
確かに何かが狂っている、ような気はするけど・・・。私だってもしかしたら見知らぬ人に刺し殺されてしまうのかもしれない、そんな世の中かもしれないけど。
でも信じる心と愛する心は、ずっと持ち続けていたいな、と。

「癒し」はこのおはなしのキーワードでした。
包み込んで、癒して欲しかった。しかも、決して自己犠牲の気持ちじゃなくて。
ナオミには、愛する人のために生きて欲しいから。
私のこんなたくさんのワガママに応えてくれるだけ、ナオミは強くなりました。私も嬉しいです。なんか母親の気持ち・・・(笑)。

DEPARTURESシリーズのことについて。
もう何年も前になりますね、最初の「ALONE」を書いたのは。その後私、ちょっとパプワくんから離れていた時期があったもんで、もう二度と書けるとは思っていなかった。
「マンガの原作に沿って、ナオミというオリキャラを主人公に自分なりのパプワくんを書きたい」
という夢を、こうして叶えられる日が来るなんて。本当に嬉しいです。
長編って飽きるからね。一つ一つにタイトルをつけて、分けて書いていったのが功を奏したのかも。

オリキャラの視点で原作のストーリーを書く、というのは、昔「風魔の小次郎」でやったことがあります。しかも、コミックス一巻からラストの10巻まで、全部書き上げた。タイトルは「SHOUT」。オリキャラのくノ一「梨菜」の一人称で、何年もかけて。これもラストにたどり着いた時には、感無量だったなー。
今回はコミックスの途中からだったし、他人称だったから「SHOUT」ほど大変じゃなかったね。

HP作らなかったら、なし得なかったことだろうなあ。絶対。
今まで自分のためにしか書いたことがなかったけれど、読んでくださる方がいたからこそ、ここまでこれたんだと思う。
わがままな私だけど、感謝です!

他の小説よりも、随分手間暇かけました、DEPARTURESは。
他の小説は手を抜いているとか、そういうわけじゃないよ! いつだって私は私のベストの文章を書き付けているからね。
だって原作があるんだもんね。ノートの左半分に原作の実際の流れを書いて、右半分にナオミをどうからめるかを書いて、ストーリーづくりには悩んだよ。
だから瞬間移動を多用している(笑)。ダメすか? 私的にはおっけー。ご都合主義、万歳。
だって主人公のナオミを、あっちこっちのシーンに引っ張り出す必要があったんだもの。シンタローが刺されて倒れているところには絶対にいて欲しかったし。颯華と話をした後は、アスと二人きりにならなきゃいけなかったし。
秘石の力はスゴイから、テレポートくらい余裕だよね。
前のあとがきに書いたけど、文章も凝ったね。お陰で肩も凝ったってばよ。

ある程度最初から決めていた設定と、途中からぽっと入ってきた設定と、ミックスして出来上がるものですね、長編は。私あんまり長いおはなし書いたことないから、楽しかったよ。

シリーズ全体に「DEPARTURES」というタイトルを付けたのは、ただ単にglobeのこの歌が好きだったからなんだけど、最後の「出発」にかけたら何かうまくまとまったなあ。良かったなあ。

ナオミはこの後数ヶ月眠ってますが、皆様ご承知の通り、ちゃんと目覚めます。
だから、ナオミの話はまた書きますよ!
「現在」であるDEPARTURESを書き上げることは、私の大切な目標でした。今終わって、本当にホッとしています。
後は「過去」や「未来」の話を、またたくさん書いていきたいです!
 
 



 
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H12.6.12
今日はルーザーのバースディ!