どこに行ったんだろう?あのバカは
・
3.愛に自由を身につけて「おにいちゃん、これでいいかなあ」
真夜中12時−。
どうにか起きていると頑張っていたマジックもルーザーも、他愛なく寝込んでしまっている。子供なのだから、仕方ない。ジュエルは静かにそれぞれのベッドへ運んであげた。
ベビーベッドの中で、双子たちもすうすう眠っている。
持っている中で一番魔女っぽい感じの、黒いワンピースを身につけて、ジュエルは窓を全開にした。今宵はちょうど満月、魔法を実行するには都合が良い。
「さあ、シルバー、帰ってきて!」
持っていた瓶の中身を部屋の四隅に垂らす。異様な臭いがするこの液体は、子供たちに集めてもらった材料を煮詰めて作った魔法のアイテムだった。
「えーと」
本を開いて、たどたどしく呪文をとなえる。
「ホジャマカ、オンソワカ・・・シルバーーーッツッ!!」
ごお・・・!
窓から吹き込む突風に、腕を上げ顔をかばう。風は渦を巻き、部屋の中央に人の姿を浮かび上げた。
月を背にして、金の髪が光る。すらりとした長身の男は、ジュエルを見て甘く笑った。
「・・ジュエル」
「シルバー!!」
シルバーだ。魔法は成功したんだ!
「帰ってきてくれたのね!!」
胸に飛び込む。久し振りの夫のにおいがした。
ひざをついてしゃがみ、小さな体を強く抱きしめながら、シルバーは言った。
「君が心配で、成仏できないでいるんだよ」
「成仏なんてしなくていいから、ずっとあたしのそばにいて」
ムチャを平気で言う妻を、至近距離で見つめる。
「そうはいかないよ。君だって、本当は分かっているはずだよね」
「・・・・」
言わないで。必死の思いを受け止めながら、それでもあえて、シルバーは口にした。
「ぼくはね、死んだんだよ。もうあの世に行かなくちゃいけないんだ」
「・・・・いやよ、バカ、シルバーのバカ」
胸をドンドンと叩く。叩かれるままにして、シルバーは優しく優しく髪を撫でた。
「バカ・・・どうして? どこに? もう帰ってこないなんて・・・赤ちゃんももっと欲しいのに。シルバーのことが大好きなのに。ずっと、一緒にいたいのに!!」
次第に力を失ってゆく。とうとう腕を下げて、ジュエルは涙をいっぱいためた瞳で夫を見上げた。震える唇から洩れる声は、もう言葉にならない。
「・・・ねえ、ジュエル」
視線を更に下げて、正座のような格好になり、シルバーは妻の涙を指先でぬぐってやる。ただ月明かりの中で、涙は透明に光り、これ以上清いものはないように思われた。
「いずれみんな来る場所だよ。そこでぼくは待ってるんだよ。花嫁さんが、やってくるのをね・・・」
永遠の、花嫁を。
「そのときまで、君は生きて」
「そんな、でも、シルバーがいないのに!」
とてもとても大好きな人がいなくなった、こんな世界で生きろなんて、どうして言うの? どうして、一緒に生きてはくれないの?
「・・・かあさん」
かすれた子供の声に振り向くと、長男のマジックが起き上がろうとしていた。
「マジック、起きたの・・・」
パジャマ姿でベッドを抜け出して、母のもとへ近寄る。そして、母と父をゆっくり交互に見た。まるで夢遊病のような動作だとジュエルは思った。その顔にも表情はなく、どことなく夢の中のようで。
「かあさん、とうさんをねむらせてあげようよ・・・」
「マジックまで、そんなこと」
パパがどこかに行っちゃうよ。
マジックは小さな手を伸ばし、黒い魔女ワンピースの端をつかんだ。青の瞳でいちずに見上げる。
「ぼくが、いるから」
「・・・・マジック」
「ぼくも、ルーザーも、ハーレムも、サービスも・・・。ずっと、そばにいるから」
「・・・・」
「いい子だ、マジック」
シルバーが優しい手をかざす。ぽわっとした光に包まれて、長男は母の腕ですうっと眠りに入っていった。
「ジュエル、君の宝物は、ここにこんなにたくさんあるんだよ」
丸くなって眠っている小さな体を抱きしめる。あたたかい。
ずっとそばにいてくれるって。この子は約束してくれた。
「ねえ、子供たちと、生きてくれるよね?」
こくり、ジュエルは頷いた。涙をこぼしながら、頷いた。
「約束だよ・・・ぼくの一部は、君になったんだから、大丈夫だよ」
意味は分からなかった。だけど再び抱きしめられ、口づけをされると、なんだか限りない優しさにくるまれて、ジュエルはたちまち眠たくなってしまった。
ほどなく可愛らしい寝息を立て始めた妻と子とを、そっとベッドに寝かせてあげる。金の髪をかき分けて、額に軽くキスをした。
「・・ああ、この子たちがハーレムとサービスか・・・」
ベビーベッドを覗き込む。生まれたばかりの赤ん坊が、二人並んで眠っていた。
「ぼくも生きていたかった・・・。子供たちの成長を見守りながら、君と一緒にいたかったよ・・・」
シルバーの青い眼からも、透明なものが落ちた。涙は双子の頬にそれぞれこぼれかかる。
「さようなら、ジュエル。マジック、ルーザー、ハーレム、サービス。どうか、強く生きておくれ。必ずまた会えるから、その日までは・・・」
シルバーの姿は、音もなく消えゆく。静かに融けるように。
開け放された窓から忍び込む月明かりが、皆の寝顔を照らしていた。
「・・・シルバー・・・」
昨夜のことは夢だったのか、それとも現実のものか・・・。
分からない。
だがジュエルは、初めて事実をその胸に受け止めた。
シルバーは死んでしまった。もう帰ってくることはない。
この世の中には、自分の思い通りにならないことだってある。『死』は、その最たるものだった。
「シルバー! ああ・・・シルバー!!」
ジュエルは、泣いた。辺り構わず、涙も涸れよとばかりに、泣いた。ずっとずっと、泣いていた。
「パパ・・・」
「パパぁ・・・」
マジックも、ルーザーも、大声でおいおい泣き出した。
母のために今まで泣けなかった分、タガがはずれたように、泣いた。それぞれが、自分だけの想いの中で涙を流した。
「オギャア!」
「オギャア!」
双子たちも声を合わせる。
部屋の中で、みんなで、泣き続けていた。
どこまでも流れる涙は、広い河になって。流れてゆく、流されてゆく。
心にぽっかりあいた穴を、誰がふさいでくれるの?
ずっと消えない愛の記憶を、抱きしめて。いつか二度目の花嫁さんになれるまで。
シルバーの遺した言葉を自分なりに理解し、哀しみを乗り越えるまでにかかった時間は決して短くはなかった。
だが、ジュエルは確実にそれを果たしたのだ。
三年後・・・。
シルバーのお墓の前に、ジュエルは銀色に輝く変わった花を供えた。モンブランに頼んで、シルバーのために作ってもらった花だった。
「さあ、手を合わせるのよ」
子供たちを促す。いつもはやんちゃな末の子たちも、今日は神妙に言われたとおりにしていた。
(シルバー、ハーレムたちも三つになったわ・・・。あなたが遺してくれたこの子たちといるから、あたし、幸せよ)
そばに行ける日までは、子供たちと歩んでいこう。
「ママ、パパにいつあえるの?」
「いつあえるの?」
まんまるな瞳で見上げる双子たちの頭を、順になでてやる。
「いつか必ず会えるわ。いい子にしてたらね!」
「ふーん。・・・ぼく、おなかすいた!」
「ぼくもー」
「じゃあ帰ろう。昼ご飯にしよう」
「うん!」
みんなで手をつないで、お墓を後にする。
良い風が吹き、新緑の香りを流していた−。
愛に自由を身につけてさ
どこにいくんだろう・・・?あのバカは!
青い鳥をはなしちゃったの
どこにいるんだろう・・・おいかける?歩いた荒野をいつものいとしさで
だまって咲いてる・・・
『あたし死んじゃうかも・・・』愛に自由を身につけてさ
どこにいくんだろう・・・?あのバカは!愛は死ぬんだよ
わかってないんだね
空とぶネコを
かわいがったり届かない心はいつでもため息で
あしたの夢よおいで風にのって『あなたなんかねぇ・・・』と、いいかけて
うそはどっかで涙にかわるわ
つかれた小鳥だいて清い嘆きは広い河になって
もやし続ける罪人をとめて『あなたなんかねぇ・・・』と、いいかけて
あいてない窓を自由にできたら
つかれた小鳥だいてうそのせいだ
あとがき
charaの「どこに行ったんだろう?あのバカは」という歌のタイトルと結びついたのが、シルバーを亡くしたときのジュエル、でした。
それで書いてみたおはなしです。
最後に書いたのが歌詞ですが、こりゃ浮気者の男がどっかに行っちゃったって歌詞かあ?(笑)
メロディーラインがとても好きな歌。最初の「愛に自由を・・・」ってとこが「I need you」みたいに聞こえるところも面白い。
現実逃避するところと、シルバー本人と話をし、ようやく事実と向き合うジュエルを書きたかった。
死人を生き返らせることが出来ると、本気で信じていたり、魔法まで使っちゃうあたり、24才とは思えぬジュエル。後のパプワ島に行った頃のシンタローと同い年とは思えませんな。
で、話を書くにあたって、年齢を考えました。こういうのってすっごい面倒なんだよね・・・。
そしたらどうしてもルーザーとマジックの年の差が合わなくて、ルーザー本当は享年23才なんだけど、22才にせざるを得なくなりました。
だって・・・そうしないと、マジックが生後半年でルーザーが生まれることになってしまうんだもん・・・。そんなん、異母兄弟でもなきゃムリだもん。・・・はっ、もしかして異母兄弟っていう設定だったのか!?
まあともかく、ジュエル24才で、シルバーは本文では出さなかったけど36才で死亡、ゴルドーは45才という設定にしました。
もしかして「Yellow Yellow Happy」のときと違っていたらゴメンナサイ。あんまり深く考えてないもんで・・・。
ジュエルも実は若くして亡くなってしまいます。31才でシルバーのもとへ行くことになるんだ。
その話も、機会があったら書きたいですね。
H12.5.27