2月14日は、バレンタインデーと同時に、ジュエルの可愛い息子たちの誕生日でもある。
 楽しさ二倍のこの日、お家ではランチを兼ねたパーティを開くことにしていた。
「おばさま、おまねきありがとうございます」
「いらっしゃいナナちゃん。ほらハッピー、ナナちゃんよ」
「ワンワン!」
 ちぎれんほど尻尾を振って、ハッピーは少女に飛びつく。両手を広げて、ナナも嬉しそうに抱きしめた。
「ナナ!」
「ナナー!」
「ハーレム、サービス。おたんじょうび、おめでとう!」
 転がってきた双子も、子犬みたい。一緒になでくりまわしてやる。
 ナナは近所に住む小学生の女の子だ。去年12月にハッピーを拾ったことでハーレム&サービスと知り合い、家族のみんなとも仲良くなっていた。
 ハーレムたちより二つ年上で、明朗利発なナナのことをジュエルも気に入り、よくこうして家にも招待していた。女の子も欲しかったというジュエルだから、まるで実の娘のように可愛がっている。・・・いや、同性のお友達のように一緒に遊んでいる、という方が正しいだろうか。
「ナナ、よく来たね」
「外は寒かったろう」
「マジック、ルーザー。こんにちは!」
 兄さんたちのことも、呼び捨てにしている。そうして欲しいと言われたからだ。
 ガンマ団のことも青一族のこともよく知らないナナには何の抵抗もない。
「手もこんなに冷たくなって」
 長兄のマジックに両手を包み込むようにされて、ナナは赤くなった。温かい手に、熱はますます上がりそう。
「ナナ、ストーブのそばにおいでよ」
 ちょっと怒ったように、ルーザーがナナの腕を引いた。何気もなかったが、これは悪いことをしたとマジックは苦笑する。弟のナナに対する気持ちは分かっているつもりだ。
「ありがとう、ルーザー」
 本当はマジックの手を離されたことはとっても残念だったが、そんな素振りは見せずに次兄に笑顔を向けた。
 それだけでルーザーはほっとする。
「さあパーティを始めましょ!」
 パン、とジュエルがクラッカーを鳴らせば、バースディ&バレンタインパーティの始まり始まり!
 ジュエルの父ゴルドーはガンマ団の総帥として今も戦場にいる。一緒にお祝いができないのは残念だけれど、ナナも来てくれたことだしジュエルは上機嫌だった。
 実はパーティを昼にしたのも、ナナに合わせてのことだ。彼女は家にいる妹のため、決して夜まで留まってくれることはなかった。妹のエミリーちゃんは、ハーレムたちと同い年だそうだが、重い病気を患っていてほとんどベッドから起き上がる事もないのだという。
 テーブルにはそれぞれの大好物が所狭しと並べられている。昼のためにお腹を空かせていたみんなは、元気いっぱい食べ始めた。
「わーい、ぼくのすきな、おにく!」
「ハーレム、取ってやるぞ。お皿よこしなさい」
「はーい」
 今日はバレンタインなので、お皿やカップ、カトラリーなど全てハート柄でコーディネートしてあった。
「いっぱいちょうだい、マジックおにいちゃん!」
「わかったわかった」
 言われた通りたくさん載せてやると、ハーレムは大喜びで受け取り、がっつきはじめた。
 マジックは末っ子の方にも手を差し出す。
「サービスは?」
「ぼく、すこしでいい」
「じゃハーレムから分けてもらって」
 大好物を食べることに夢中のハーレムは、聞こえないフリをしている。
「ほらハーレム、サービスにもあげて」
 母に言われて、ようやく肉をニ、三きれ弟の皿に入れてやった。
「サラダあげようか、サービス」
「うん! ありがとうナナ」
 ナナは自分の目の前にあったサラダボウルから上手に取ってサービスにあげる。まだ小学一年生だが、よく気が付き、手先も器用な娘だった。
「ナナ、ぼくにもちょうだい」
「ぼくにも!」
 ルーザーに負けじとハーレムも両手を出してせがむ。
「あたしもサラダ食べたい〜」
 ジュエルまで言い出したもので、ナナは大忙しになった。
「うん。ちょっと、まってね」
「いいよナナ」
 長兄が立ち上がって、小さな手からサーバーを受け取ると、隣でサラダを取り分け始めた。
 彩りよく盛り付けられたお皿を受け取り、みんなに手渡す役をやりながらも、すぐ近くにマジックがいるというだけで密かにドキドキのナナだった。

 堂々とお目見えしたスウィート・シュガー特製の豪華三段重ねケーキに5本と5本で10本のロウソクを立て、火をつける。
 昼間なので電気を消して、とはいかないが、可愛い双子がせーの、で息を吹きかける姿を見れば、ママも大喜びだ。
「かわいいーっ! ハーレム、サービスっ!」
 究極の親ばかというよりは、お人形を愛でる女の子の気持ちで後ろに駆け寄ると、二人をいっぺんに抱き寄せる。
 抱え込むようにされて面食らうが、いつものことなのでハーレムもサービスも声を上げて笑っていた。
「ハーレム、お誕生日おめでとう!」
 ちゅっ。
「サービス、お誕生日おめでとう!」
 ちゅっ!
 ほっぺにキスを。
 母の言葉といつもの甘いにおいに包まれる瞬間が、坊やたちは何より好きだった。
「さあ、ケーキを切るよ」
 ここでもやはりマジックがナイフを持つ。ルーザーも立ちあがって、お皿を用意し始めた。
 母のジュエルが何もしない分、兄たちは何でも一通りのことはこなせるようになっていた。
「あっそうだ、チョコレートもあるの!」
 部屋の隅に置いていた紙袋から、赤と金のペーパーで包まれた箱をいくつか取り出す。
「今日はバレンタインデーでしょ。愛情こめた手作りチョコよ!」
「わあ、てづくりなの? すごい」
 感心しているナナだが、手作りしたのはガナッシュとダクワーズである。
「うふふ。ナナちゃんの分もあるわ。ナナちゃんは女の子だけど、特別よ」
「うれしい! おばさま、ありがとう!」
 平たいチョコレートの箱をもらって、小躍りしている。
「キャンキャン」
 ハッピーもそんなナナの足元にじゃれた。
 ガナッシュたちがレシピ片手に、チョコをテンパリングして型に流して、という慣れない作業をこなしていたことなど、知るよしもない。
 所詮世話係の苦労など、誰にも分かっちゃもらえないのだ。
「ケーキとチョコレート、どっちを先に食べようかしら」
 楽しく悩むジュエルの手にも、しっかりとみんなと同じ箱が握られている。
 スウィート・シュガーのデコレーションケーキと、愛情たっぷり手作りチョコ。どちらも極上の甘さに違いない。
「ほらハーレム、サービス」
 今日の主役たちに最初にケーキを分けてあげると、双子たちは歓声を上げた。たっぷりの生クリームと切り口のふわふわスポンジ、それに間にはさまれたイチゴや他のフルーツ。何より上に飾られたきらきらイチゴとチョコのプレートが、とってもおいしそう!
 ハーレムは嬉しくて、弟のほっぺにほっぺがくっつくくらい近寄った。間近で目が合うと、サービスもくすくすくす、笑い出す。
「はい、ナナ。大きいのあげる」
 お客さんのナナに渡るケーキを、ジュエルが指をくわえてじーっと見ている。
「・・・いいな大きいの」
「あ、どうぞ、これ」
 本気で譲ろうとするのを、ルーザーがやんわり止めた。
「いいんだよナナ」
 いつもの母のワガママだ。もちろんマジックも分かっている。
「母さんにも大きいのあげるから」
 本当はもちろん、均等にカットしたんだけど。
「うわあー、おいしそう!」
 ハーレムたちに負けないくらい瞳を輝かせ、ジュエルはケーキとチョコを並べて置いた。『どちらにしようかな』と指差し始める。
「もうたべていい?」
「いい?」
「ああ、いいよ」
 ルーザーのと自分のと、最後にハッピーにも分けてやると、マジックはようやく椅子に戻った。
「やったー。いただきまーす」
「いただきまーす」
 双子たちは早速ハート柄のフォーク片手に、ケーキに取りかかる。たちまち口の周りはクリームだらけで、少し遅いサンタさんみたいな顔になった。
「あたしも、いただきまーす」
『どちらにしようかな』の結果、ケーキに決定したらしい。ジュエルもぱくっと口に入れた。
「おいしい!」
「おいしい! さすがはキャラのケーキだわ!」
「うん」
 ナナもルーザーも、マジックもハッピーも。みんなふっくらほっぺになって。
 甘いケーキはみんなを幸せ顔にする。
 今日はバースディ&バレンタイン。年に一度の、ダブルスウィートの日だ。
 

 つづく
      
 
 


 
 

Sweet 3
 
 
 


 
 

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H13.2.13