「ねーママ、これ、あけて」
 一番下の子にせがまれて、丁寧にバレンタインチョコの包みを開けてあげた。ふたを取ると、アルファベットの一口チョコが二列にきれいに並んでいる。
 上の段のはピンクのいちごチョコとミルクチョコを互い違いに使って『LOVE』、下のは同じくホワイトとミルクの二種類で『SERVICE』と読める。
「わあすごい」
 愛いっぱい手作りチョコの出来映えの良さに大感激のジュエル。しつこいようだが、愛を込め作ったのはガナッシュとダクワーズの世話役二人組である。
「すごーい。ちゃんと、なまえになってるのね!」
「やったー」
 みんなもはしゃいでいた。
「え・・・、てことは」
 箱をサービスの手に渡してあげてから、ジュエルは腕組みの仕草で、徐々に険しい顔つきになっていった。
「どうしたの母さん」
「マジックぅ〜」
 うるんだ青い瞳をマジックに向けて、今にも泣き出しそうだ。
「あたしのは、サービスよりも二個も少ない・・・」
『JEWEL』のスペルは、五文字で終了だ。
「父様ったら、どうしてあたしにもっと長い名前を付けてくれなかったのかしら!」
「・・・母さんってば」
 ルーザーも、もう笑うしかない。
「ぼくも兄さんも、おんなじ五文字なんだから、泣かないでよ」
「そうよ。あたしなんて4もじだもの」
「キャンキャン」
 ナナやハッピーにまで慰められている。
「ほら母さんも開けてみたら」
「うん・・・」
 それでも気が乗らない様子で包装紙を取るが、ふたを開けた瞬間にジュエルの機嫌は180度ひっくり返った。
「わーいっ!」
 JEWEL、の文字を両側からはさむように、ハート型のチョコレートが詰め合わせてあったのだ。一つはピンク、ひとつは白のハートだ。
「かわいい!」
「よかったね母さん」
 さすがガナッシュたちは、不公平にならないようちゃんとやってくれていた。まあ、そうじゃないと後が怖いし。
「いいなー、ハート」
 今度はサービスが羨ましがっている。
 ジュエルはそんな末っ子を抱き寄せると、ピンクのハートチョコを口に入れてあげた。
「ハーレムにもあげる」
 とてとて寄って来た双子の兄には、ホワイトハートを。
 甘い指から、甘いハートのチョコレート。
 ぎゅーっと抱いてもらえば、チョコだけじゃない、ママの甘い匂いがした。

 次は五才になった子供たちにバースディプレゼントが贈られた。
 ジュエルや総帥のゴルドー、兄たちを始め、親しい人から届けられたたくさんのプレゼントに埋もれ、ハーレムとサービスは大喜びで包みをあけている。
 ほとんどが高価なおもちゃや洋服などで、そのひとつひとつに双子だけじゃなくママの歓声も重なっていた。
 そんな中でナナは、持ってきた紙袋を手に少し不安そうに立っている。いつもナナのことを見ているルーザーが最初に気付いた。
「どうしたのナナ。ナナもプレゼント持ってきてくれたんだろう?」
「でっでも、あたしのは・・・」
 赤くなって、袋を胸に抱きこんでしまった。
「ナナ?」
「だって・・・あんなすごいプレゼント・・・。あたしのなんて、はずかしいもん・・・」
 いつもの快活さとは裏腹に、歯切れが悪い。
 ナナが今どんな気持ちでいるのかルーザーには分からなかったし、また、理解しようなんて思いもよらないことだった。
 ただ、ほんとうにきれいな笑顔を見せながら、髪を少しだけなでてあげた。
「どうしてそんな顔するの? いつもみたいに笑ってよ。ハーレム、サービス。ナナがプレゼントくれるって!」
 後半は弟たちに向けた言葉だ。
 ハーレムとサービスは新しいおもちゃたちに夢中だったが、兄の声を聞いたとたん、はずむボールみたいにナナの前に駆けて来た。
 期待でいっぱいの四つの青い瞳、また取り巻くように見守っているルーザーとジュエル、マジックの前で、ますます出しにくくなってナナは更に小さくなった。
「ナナ、なに?」
「はやくちょうだいー」
「・・・あの・・・・」
 ちらっと見ると、きらびやかで大きなおもちゃの山。また目を伏せてしまう。
「ナナからのプレゼントが、一番うれしいと思うよ」
 優しさあふれる声に、そっと顔を上げた。
 マジックが、勇気付けるように笑ってくれている。
 いつも心を揺さぶり、いつも心から離れない、力強い笑顔で。
「・・・うん」
 心苦しさがすっかりなくなったわけではないが、ナナは紙袋を開いた。
「これ・・・」
 中から出てきたのは、黄色と緑の細長いもの。太い毛糸で編まれたマフラーだ。
「わあ!」
「・・・へただけど、あたしが、あんだの」
 二人の反応の良さに、ようやく表情を柔らかくして、ナナは一人ずつの首に手編みのマフラーを巻いてあげた。
 ハーレムのは緑ので、先の方に「H」とイニシャルまでついている。
 サービスのも色違いのお揃いで、黄色の毛糸で編まれた先に「S」と青でイニシャルをつけてあった。
「あったかーい」
「ありがとうナナ!」
 双子はもうお気に入り。そこいら辺をぴょんぴょん跳ね回って笑っている。マフラーも一緒に跳ねた。
「ほらね、ナナ」
 マジックが軽くくれたウインクで、ナナも心からほっとした。
「よかった」
 こんなに喜んでもらえて。
 母に習って、初めてだったけれど頑張って編んだ甲斐もあったというものだ。
「やっぱり、大好きな人には手作りよね。すごいわナナちゃん」
「えへ・・・」
「あたしも、欲しいなー」
「母さん」
 また始まった。すぐ人のを欲しがるんだから。
「いいですよ、おばさま。つくってあげる!」
「本当っ!?」
 ナナはこっくり頷く。編物のコツはだいぶつかんだし、こんなに喜んでもらえるなら張り切って編んであげよう。
「ちゃんと『ジュエル』の『J』を入れてね」
「もちろん!」
「やったー」
 バンザーイ! 両手を上げたまま、双子たちの仲間に入る。
「わーい」
「わーい」
「キャンキャン」
 ハッピーも交えて、踊るように飛び跳ねている。三人を見ていると、こっちまで声あげて笑いたくなっちゃう。
 ひとしきり笑ってから、ナナは言った。
「マジックにもルーザーにも、つくってあげようか」
「本当?」
「いいの、ナナ」
「うん」
「楽しみだな!」
 喜んでもらいたいから。笑顔を、見たいから。
「ねぇナナちゃん、ハッピーにもね!」
「はーい!」
 大好きを、伝えたいから。

 あったかアイテムを手に入れたとたん、もう双子たちは外に出たがってぱたぱたし始めた。
 外を見れば昨日までで降り積もった雪が、午後の光にきらきらしている。遊び道具は充分だ。
「行こうハッピー!」
「キャンキャン!」
 ドアを開けると、犬のハッピーは早速大喜びで駆け回り始めた。
「わあーい!」
 ジュエルも駆け出す。ちょっと前までは寒いのが苦手で、外に出るなんてとんでもない! と嫌がっていたジュエルだけれど、ハッピーがやってきてからはすっかり外遊びがお気に入りになっていた。
「ゆきがっせんやろう、サービス」
「ゆきだるま、つくるのがいいよ」
 双子たちももつれんばかりに雪の世界へと飛びこんでくる。色違いのマフラーが、目にも鮮やかだ。
「ナナもおいでよ!」
「ええ!」
 寒くなんかない。雪の中で、みんなと一緒なら。
 それにしても、みんなの髪の何てまばゆいこと。
 雪は弱い太陽を反射して、全てのものを明るく輝かせる。
 ジュエルの豊かに波打つ髪も、兄弟たちのそれぞれ微妙に異なる金の髪も。白い世界の中で、ほんとうにきれいだ。
 ナナには眩しいくらいに。
「ナナ、はやく」
「ナナー!」
「うん!」
 それでもためらわず、その光の輪に入っていく。
 冷たい雪を勢いよくすくい上げると、銀色の粒が光りながら舞った。
「うふふ! この雪がぜーんぶ、甘いお菓子だったらいいのにね!」
 ケーキとチョコだけでは足りないのか、ママはそんなことを言っている。
 パウダースノーが、パウダーシュガーだったら。全身まみれて、スウィートの海を泳いでみたい。
 ジュエルママは楽しい想像に、ずーっと甘ーく、笑ってた。
 

 楽しかった一日の終わる直前、ジュエルはシルバーと一緒にいた。
 シルバーというのは、ジュエルの旦那さんだ。つまり四兄弟のパパということだけれど、本当はハーレムとサービスが生まれてまもなく戦死してしまっている。
 シルバーが生前愛用していたものや、たくさんのアルバムなどを集めた、ここはシルバーの部屋だった。
 息子たちにすら出入り禁止を言い渡している、自分だけの空間に、ジュエルは時々お泊りをしていた。
 別に毎日来る部屋ではない。何かあったときに、ここでジュエルは大好きな夫のことを想うのだった。
 哀しむのでなく、空想に浸るでもなく、ただ、優しく想うのだった。
 そうしているとき、シルバーは確かに生きている。妻の胸の中で、生きている。
「シルバー、チョコレート食べよう。何と今年は、愛をいっぱいこめた手作りチョコなのよ!」
 シルバーの箱だけは、他のみんなのものよりも少しだけ大きかった。開けてみると、文字は三行に渡って並んでいる。
 LOVE
 SWEET
 SILVER
「・・・うふふふっ」
 ジュエルは声をたてて笑った。
 さすがはガナッシュにダクワーズ。ちゃんと分かってくれている。
「シルバーは、一番特別よ!」
 ソファに座ってチョコレートをつまむ。文字の他に、あのハートのチョコもたくさん詰め合わせてあるのが楽しい。
 シルバーと一緒に食べるチョコは、とろけそうなほど甘かった。
「いつ、そばに行けるかしら。早く二度目の花嫁さんになりたいわ」
 目の前に広げたアルバムの、昔の写真にそっと語りかける。
 スナップと想い出の中で、シルバーはいつも穏やかに優しく笑いかけてくれていた。
 さらさらの金髪も、湖みたいな碧眼も。背が高くバランスの完璧なスタイルも。いつも見とれるほどに素敵な夫だ。
 いつか必ず彼のもとに行ける。そうしたら、まっさらなウエディングドレスを身にまとい、もう一度花嫁さんになろう。いつだってそれが、ジュエルの一番の夢だった。
「・・・でも、ルーザーがもう少し大きくなったら、ルーザーのお嫁さんになるっていうのも捨てがたいなあ」
 こんなことを言ってても、やっぱり最愛の夫は笑ってくれていた。綺麗な笑顔は、最近とみにルーザーとダブる。
「でもやっぱり早くシルバーのところに行こうかな。でもやっぱりルーザーのお嫁さんになろうかな。どうしよう」
 生と死、なんて観念は全くない。ジュエルにとっては、そのどちらともが同じ意味と重みを持っていた。
 愛する人が、いるのだから。
「やっぱりシルバーが、大好きよ!」
 ハートのチョコを、もう一つ食べよう。
 まるでキスみたいに、甘いよね。

 一年中で一番スウィートな夜が、愛の心いっぱいで眠りに入ったジュエルのために、これまたスウィートな夢を送り込んでくれるのだろう。
 こんぺいとうの星が散りばめられた水あめの夜空に、生クリームいっぱいオムレットの半月が、ぷかり浮かんでいた。
 
 
 
 

 おわり
      
 
 


 

あとがき

思えばバレンタイン話は、毎年書いてますね。
今年もやっぱり書きたくなって。
そしてバレンタインといえば、ハーレムとサービスのバースディ!
しばらくぶりに幼い頃を書こうかな。ジュエルママと、ナナも出して・・・。なんて考えて組み立てました。
別に山場とか事件とかあるわけじゃなくて、何気もないんだけど。こういうの好きなんです。
テーマはとにかく甘く、スウィート。何回も何回も「甘い」「スウィート」って言葉使ってます。
ただただ、甘いだけのおはなし。ダメ? 私は大好き。
だって甘いの好きなんです。そしてチョコレートはかづなの、この世で一番好きな食べ物。

手作りチョコについては私は疑問を持っていました。
手作りクッキーとかケーキなら、小麦粉や砂糖、卵などから作りますよね。
でも、手作りチョコはただチョコを溶かして型に入れて固めるだけじゃないの。何故誰もカカオの実からチョコを手作りしないの!? ってね。
どうしても「手作りクッキー」と「手作りチョコ」を同じようには扱えない私でした。
その思いをそのままジュエルに反映させてみたの。
でも、HPで検索してみたけど、やはりカカオの実からチョコレートを作るのは家庭では無理っぽい。
手作りチョコも、ただ溶かして固めるだけじゃなくて工夫しているものもあるしね。
少し認識を改めました。
ちなみに私は、手作りチョコを作ったことはありません。
バレンタインにチョコレートケーキを作って、その当時付き合っていた彼氏にプレゼントしたことはあるなあ、そういえば。
そして手作りチョコをイトコからもらったことはあるなあ・・・。やはり嬉しかった。
チョコが好きだから、バレンタインも大好きな私です。男だったら良かったかも。義理でもチョコもらえるし(笑)。
ちなみにこれ書いている今日、バレンタインデーでした。職場で女子一同のチョコレートを男の人に配る役をやったよ。
「これ、本命チョコだろ。こっそり渡してくれって言ったのに」とか「今夜は空いてるよ」とか色々言われて(オジサンたちに(笑))、楽しかった。こういうのが職場のコミュニケーション。
バカバカしい、なんて言わないで、イベントはめいっぱい楽しみたいよね。

気持ち的に、主役はジュエル。好きなんだもんママ。
幼い兄弟たちのカワイイところも書きたかった。ナナもね。
こういうの、久しぶりだね。しばらくパプワ系オリジナルばっかりだったから。
これからはちょくちょく、こういう過去話も書ければいいなって思ってます。昔からあたためているネタもいくつかあることだし。

タイトルはCHARAの歌タイトルから。ファーストアルバムも「Sweet」っていう名前なんだよね。
初期の歌なので、可愛らしくも元気な曲です。
 






 
 

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H13.2.14