カウンタ7000突破記念 葵さんリクエスト小説  第2話・切ない片想い

 

 夕闇迫る校舎裏、腕組みをして立っているアラシヤマ。
 まるでこれから決闘でも始めるかのようなシチュエーションだが、目の前に立っているのはマフィン一人だった。
 冷たい風が二人の間を吹き抜ける。アラシヤマの髪はジャニーズ系のためあまりなびかないが、マフィンの長い髪はさらさらと揺れ、茶色のうねりが頬にもかかった。
「いきなり呼び出して、ごめん」
 その髪を手で払い、マフィンは小さくつぶやく。決闘というよりは放課後の告白の様相になってきた。
「用って、何どす」
 アラシヤマはいぶかしげな表情を崩さない。謎の女性を見てから、今日一日もずっとこんな目でマフィンの姿を追っていた。あんなにそっくりだったのだ、絶対、何らかの関係があるに違いない。しかしそれが何なのか分かるはずもなく、焦りと混乱がアラシヤマの気持ちを支配しはじめていた。
 そんなとき、当の本人から呼び出しを受けたのだ。複雑な気分で校舎の壁にもたれ、横目で相手を見る。
 マフィンの方は正面で風を受け、意を決したように口を開いた。
「昨日の昼に・・・会ったろ。あれ、俺だったんだ」
「・・・・」
 予想通りの内容とはいえ、どう解したものか。アラシヤマはやたらに髪をいじっていた。
「・・・女・・・」
 マフィンは頷く。
「俺の弟、魔法使いだから、その魔法で」
「なるほど」
 と、答えるしかない。魔法で男に変身している・・・荒唐無稽だがそれ以外納得のいく説明もないように思われた。
「そやけど、何で男に化けてまでこの学校に?」
「それは・・・」
 いきなりぽっと赤らんだ頬を両手で包むさまは、まるっきり女の子の動作になっている。
「聞いてくれる? あれはちょうど今から一年前のこと・・・」
 マフィンは立木の紅葉を遠い目で見つめ、一人少女漫画モードに入った。ついて行けないアラシヤマはぽかんとして見守るだけ。

 そのときも落ち葉の季節だった。日に日に冷たさを増す風が頬を刺し、身をこごめさせる。
 マフィンは弟の授業見学会に参加していた。本来ならば父兄のための授業参観なのだが、士官学校というものに興味を持っているマフィンが親に頼み出席することにしたのだった。と、これは表向きの理由で、実は誰かカッコイイ人でも見つけられたらという密かな期待があった。お年頃の女の子だ、周りには彼氏がいて楽しそうな友達だっているのに、そういう対象もいない毎日がつまらなかったためでもある。
 そこでマフィンは見つけた。運命の人を。
 その人は、外でサッカーの授業を受けていた。体を動かしていて暑いのか、この寒空でも半袖姿で、黒髪にハチマキを締めた姿はりりしく、きびきびとしたプレーが大勢の中でもひときわ目立っていた。よく通る声と、シュートが決まったときの笑顔にマフィンはやられてしまったのだった。
 木枯らしの中で、あっと言う間に恋に落ちたマフィンは高鳴る胸を押さえ、目を離すことも出来ずに見つめていた。
 弟に聞き、その人がガンマ団総帥の息子であるシンタローだと後から知った。

「最初はこっそり見ているだけで満足だったの。でもそのうち、もっとそばにいたい、言葉を交わしたいって思うようになって・・・・。それで、弟に頼んで・・・」
「・・・・」
 うるんだ目でどこを見ているのか、乙女ちっく路線からマフィンは帰ってこない。
 しかし、男の姿と声でキラキラされてもアラシヤマには不気味なだけだった。
「でも、かえって辛いのよね。男の姿じゃ何もできないし、このままずっと片想いは。それで・・・」
 きらん。マフィンの目があやしく光った。本能的に逃げようとしたがもう遅い。次の瞬間には、アラシヤマの両手はがっちり握り込まれていた。
「アラシヤマ、お願い! 協力して!」
「き、協力って」
 怖い。逃げたい。しかしアラシヤマの願いは聞き届けられない。マフィンの顔がドアップで近付いた。
「シンタローとうまくいくように、協力してよ!」
「う・・・」
 こわい。
 しかし精一杯の勇気で、アラシヤマは手をふりほどいた。そのままくるりと後ろを向いてしまう。
「嫌どす! なんでわてがそないなことに協力しなきゃあかんのどす」
 シンタロー、シンタローって・・・。誰も彼も。気にくわない。連敗の恨みが重なっているアラシヤマには、そんな協力は露ほどもする気にはなれなかった。
 だがしかし。
「友達だろ!」
 アラシヤマの弱点は熟知しているマフィンだ。急にクラスメートに戻って言い放つ。次の瞬間、ころりと態度を変えて今度は向こうからマフィンの手を握ってきた。
「そうどすな、友達の頼みは断れないどす」
 いやに力を込められ、マフィンは少しだけ後悔をした。何でよりにもよってこの男に見られてしまったのだろう。最大の失敗だったかも。
「で、わては何をすれば?」
「う、うん、あのね・・・」
 背に腹は変えられない。恋の成就のためには、少しくらいのことは我慢しなくては。自分で自分に言い聞かせつつ、マフィンはアラシヤマに計画を打ち明けた。

 次の日は、良く晴れた秋空の下、戦術の実践授業が行われていた。皆は迷彩服に身を包み、銃を手にして茂みに身を隠す。戦場に見立てた裏山を、敵味方に別れたクラスメートたちが走り回っていた。
 マフィンはシンタローやアラシヤマとは敵同士のグループに入っている。ほふく前進で木の陰に入り、こっそり盗み見ると敵方の大将であるシンタローの横顔がちらっと見えた。そして、アラシヤマも。
(しっかりやってよ、アラシヤマ・・・)
 どきどきした胸を押さえて、もう授業どころではなくなっていた。
「よーし、休憩!」
 教官の声が響く。あちこちからわらわらと人が出てきて、広場になっている場所に集まった。めいめい座ったり木にもたれかかったりすると、さっきまでの緊張は解けて、敵も味方も混じり合い、笑顔で冗談を言い合ったりする。
 アラシヤマは大将にさりげなく近付いた。
「シンタローはん、お疲れどした」
「ああ、ノドかわいたなー」
 ヘルメットを脱ぎ捨てて、手を後ろにつく。額の汗をぬぐうシンタローは、アラシヤマが傍らでマフィンと合図を送り合っているのには気付かない。
(今や・・・)
 あらかじめマフィンから手渡されていたジュースの缶を取り出す。実はこれは強力な媚薬入りで、飲んだ者はマフィンのことをどうしようもなく好きになってしまうというウィロー特製のジュースだった。
「シンタローはん、よかったらこれ・・・」
 飲んでおくれやす、と言う前に手の中が空になって、?の顔で見上げると、目の前に大きな影があった。
「うまそうじゃのォ。アラシヤマ、これもらうけんのォ」
 コージがジュースを奪い取り、もうプルトップを上げていた。
「あ、あかんどす。返しておくれやす!」
 慌てて取り返そうとするが、既に遅い。コージはジュースを一気に飲み下してしまった。
「ああ・・・」
 青ざめるアラシヤマの前で、コージの様子が変わってゆく。全身が脱力、目はぽわんとうるみ始めた。
「・・・何じゃあ、こん気持ちは・・・。なんかこう、切ない・・・」
 この男からこんなセリフを聞くことがあろうとは。
 コージはぽわんとしたまま辺りを見回し、視線を一点に固定するやその目の中には星がはじけた。
「おお、愛しのハニィー!」
 もちろん、視線の先にはマフィンの姿がある。止めようとするアラシヤマをいともたやすく振り切って、コージは突進した。
 驚いたのはマフィン。いきなりコージが両手を広げて走ってきたものだから・・・。
「うわあ!」
 何が起こったのか、考える暇すらなかった。逃げることもできず、すぐに腕に捕らえられる。
「マフィン! もう離さんけんのォ!!」
「やめてェー!」
「照れることはないじゃろ!」
「ひえー!」
 今にも押し倒されそうな勢いに、精一杯抵抗する。
「たすけてー」
 皆は最初ぽかんとしていたが、結局は笑いのネタにされるだけだった。誰一人マジメには取らず、助けようとする者もない。
「コージって、ホモだったんだべな」
「でも大胆だっちゃ。みんなが見てる前で」
 コージの胸板に押さえつけられてもがきながら、マフィンは深く反省を覚えた。
 魔法に頼ろうとした自分が、間違っていた・・・。
 
 

 
 

 つづく
 
 
 第3話・木枯らしに抱かれて

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