「ひどい目に遭うたにゃ、ねーちゃん」
「全くだよ・・・」
相変わらず、ウィローの部屋で兄弟・・もとい姉弟はくつろいでいる。マフィンは特別に成績優秀ではないため、個室をもらっていないのだ。
「でも今回のことで反省した。やっぱり、こんなことしちゃいけなかったんだ」
ひざに顔を埋めて、マフィンは深い深いため息をついた。
「魔法をこんなことに使っちゃ、いけなかったんだ・・・」
学校のみんなをだまし、アラシヤマに迷惑をかけ、あげくコージは全校生徒にホモだと思われてしまった。みんな、自分のわがままの結果なのだ。
重い後悔におしつぶされそうで、涙があふれる。
「ねーちゃん」
かける言葉が見つからない。ただ黙って見守ることしか・・・。
ひらめいて、ウィローは右手を出した。握っていたこぶしを手のひらを上にぱっと開くと、そこに紙で出来た黄色い花が現れる。もう一度握って開くと、花は生きているヒヨコに変わった。ピヨピヨ鳴くかわいいヒヨコを、マフィンの両手に移してあげる。
「ほらほら、魔法だぎゃ」
立ち上がり、掲げた左手から紙吹雪や万国旗が出てきた。尽きることなくウィローの手からあふれ出す楽しい色たちが、たちまち部屋中をいっぱいにする。
見上げて、マフィンは泣き笑いの表情になる。
「これって、魔法じゃなくて、手品じゃん」
「魔法だぎゃ。ねーちゃんが元気になる、とっておきの魔法!」
「ウィロー・・・」
違う涙がこぼれそうになって、息ごと呑み込む。
気遣ってくれる弟の笑顔が、本当の魔法なのかも。
数日後、マフィンとアラシヤマは裏庭にいた。ちょっとした手違いで女の子に戻ってしまったマフィンが、その姿をアラシヤマに目撃されたあの場所だ。
「学校、辞めるんどすか」
「ああ」
頷くマフィンは、穏やかな笑みを浮かべている。
「悪いことしちゃったから、もうここにはいられないし、どっちにしろそろそろ限界だろうし」
あんなことになって、それでも居続けられるほどマフィンは図太くはなかった。この数日間だって罪悪感に痛む胸が苦しかった。当のコージが周りにからかわれるのもどこ吹く風で、変わらずマイペースだったのは救いだったが。
「黙って行く気どすか? せめて気持ちだけでもシンタローはんに・・・」
伝えたら、いいのに。それほどの、持て余すほどの想いなら。
しかしマフィンは首を左右に振る。笑顔に少しだけ悲しげな色がにじんだ。
「だめだよ、今の私にはそんな資格がないの。修行が足りないから」
いつか、最高の魔法を使えるようになるまで。それまでこの想いは心に秘めておこうと決めた。切ない想いだけど・・・。
「さよなら、アラシヤマ」
冷たい風が吹くと、秋色の葉っぱが舞い飛ぶ。赤や黄色や茶色の交錯する中、思わず目を閉じた。一瞬。
次に目を開けたとき、そこには女の子に戻ったマフィンの姿があった。木枯らしに抱かれて、笑っている。焼きたてマフィン色の豊かな髪が枯れ葉と一緒に踊っていた。
「また、会えるかな」
「友達やろ・・・」
「フフッ。そうだね」
軽く手を振り、そのまま去りゆく。まるで木枯らしそのもののようにさり気なく。
アラシヤマ自身もいつしか木枯らしに抱かれて、秋風の中に友達の名残りを捜していた。
忘れない。一層風が冷たくなり、この景色が雪に白く覆われても。やがて花が咲き、大地にさまざまな生命が芽吹いて緑が濃くなり、また季節は巡って行く。
幾度繰り返せば、再び会える?
目を細めると、見えるような気がする。一番の魔法を身につけた女の子の姿が。
そう、いつかきっと会える。こんな木枯らしの中で。
イメージとしては少女漫画。特にラストのマフィンが女の子に戻る画面なんかは少女漫画を意識しました。
魔法を使って、好きな人のそばに近付くというのが少女漫画的発想でしょ?
最初はいろいろ迷ったんだけど、ウィローを使わせてもらおうと思ったらもう簡単にできちゃいました。魔法って便利。
姉思いのかわいいウィローでしたが、将来ナオミを閉じ込める直接の原因になってしまい、更にパプワ島でコウモリになってしまうなんてことはこの時点では知る由もない。
学園モノはあまり書かない私だけど、肩の力を抜いて楽しく書けました。
ふと考えたけど、柴田先生のマンガほど「ホモ」って言葉が堂々と出ているものはないね。私も何の気もなく使ってしまったよ。
コージがホモだと知って(誤解だけど)、それでも平然としているクラスメートがすごい(笑)。
「木枯らしに抱かれて」は昔のキョンキョンの歌で、私大好きなんです。当時から好きな歌で、今でもよくカラオケで歌ったりします。
メロディーラインがすごく好き。
今の季節にぴったりなので、使ってみました。
H11.11.17