DEPARTURES 5
 南の果て、絶海の孤島パプワ島−その西南。
 穏やかに波の行き来する海岸近くには、いくつかの洞窟が口を開けている。中でも最も奥、草や木々に隠されひっそりと存在する洞窟に彼は眠っていた。
 青い光に包まれ、20数年もの間、誰の目にも触れることなく眠っていた。

 青の光で満ちる洞窟に、ぽつりと赤い光が点る。それはぼんやりとにじみながら大きくなり、人の姿を縁取った。丸みを帯びた体つきと、長い髪。いつしかそこには一人の女性が立っていたのだった。
 彼女は赤の光を薄くまとったまま、豊かな黒髪をかき上げる。そっと歩み寄り、青い光の中心部に男の姿を認めると、その瞳に哀しげな色が浮かんだ。
「ここに、ずっといたの・・・?」
 哀れみの声はしっとりと洞窟内に響く。
 尚も近付き、彼女は両膝をついた。目を閉じて身じろぎもしない男に手を伸ばす。金の髪、繊細といっていいほど白い肌と整った顔立ち。長いまつ毛が血の気のない頬に影を落としている。
「あのときと少しも変わらない・・・そのままで、眠っているのね」
 彼女にはそうすることができないが、もしその体に触れたならきっと恐ろしく冷たいことだろう。
 さまざまな思いは混ざって、あふれた。彼女は男の名をそっと呼ぶ。
「ルーザー・・・」

 青の一族の男は、青の秘石によってこの地に保存されていた。今、島で起こっていることを考えれば、目覚めさせられるときも近いのかもしれない。ただしそのときはルーザーとしてではなく、青の秘石の手駒として。
「あなたの息子たちもいるのよ」
 辺りの光はルーザーの青と彼女の赤とが混じることにより、幻想的な紫色へと変化している。ルーザーの髪にも頬にもうっすら紫色が映った。
「ただの道具になんか、ならないで」
 伸ばした手から放出された彼女の力は赤い光となり、ルーザーの身体へと照射される。紫の中に赤の色味が強くなり、力はルーザーの中へと吸収された。
 同時に女性の姿は徐々に光の中に溶け込んでゆく。赤くにじみ、やがてすうっと消え入った。あとには何も残らない。
 赤紫は紫から青紫へと変化し、ついに青の光へと戻ると、何事もなかったように洞窟内には静寂が広がった。

 
 

 

 すみれ 【田舎の幸福】

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