葵さんカウンタ14008ゲット記念小説

 
 
 
 
前奏曲−海のプレリュード
 巨きな海を、ただ眺めていた。
 繰り返す波の響きと、空を映して変わりゆく色・・・。海は飽きない。気が付けばもうどのくらい、ここでこうしていただろう。ただひとりきりで。
 潮の風に金髪をさらして、クラーケンは大きく息をついた。口に広がるしょっぱさは懐かしい味だ。
 ここは海の国、自分が生まれ育った海人界。

 確かに生い立ちは不幸だった。他種族と交わってはならない龍人と、海人との間に生まれた呪い子。それがために母ビーナスは命を落とした。
 最愛のビーナスを失った祖母は、憎しみの矛先をクラーケンに向け、牢に幽閉したまま育てた。
 愛情など注がれたことがない。優しい抱擁の代わりにあったのはただ冷たく硬い鎖で、夜な夜な聞かされるのは子守歌ではなく、父竜王への呪詛の言葉だけだった。
 自分の居場所なんて、この世界のどこにもないんだと思っていた。

 ザザ・・・ザザザ・・・。
 寄せては返す波の音・・・繰り返す響きは、辛かったこと全てを過去に押し流してくれようとしているかのよう。
 ヒーローとの闘いを通して知った。
 父と母は確かに愛してくれていたのだと。
 生きる理由も居場所も、みんなここにあったのだと。
 そして今は、父である竜王のもとで暮らしている。
 とはいえ親子ゲンカは絶えない。主な理由は父が自分のことを『クーちゃん』なんて呼んだり、幼い頃何もしてやれなかった罪滅ぼしのつもりか何なのか知らないが、必要以上に子供扱いすることだ。
 今日もそんなことでケンカになって、家出して海人界に来ていたのだ、実は。
 イライラしながらぶらついていたらアラシと特戦部隊の面々に出会った。以前から特別仲良くしていた覚えはないが、アラシの方も近頃の平和にはストレスがたまりまくっていたと見え、早速仕掛けてきたので相手をしてやった。
 一汗かいてお互いすっきりしたものだが、端からは死闘を繰り広げているようにしか見えなかっただろう。ほとんど命がけだ、こんな遊びは。しかし本音を言えば楽しかった。
 ひときわ大きな波が岩にぶつかり、そこから生まれたしぶきが顔に少しかかる。潮が満ちて来たようだ。そういえば太陽も西に大きく傾きはじめている。
 ずっと腰掛けていた場所から立ち上がって、軽く伸びをする。きらきらと目を刺す乱反射は、割れた鏡の破片を水面にばらまいたみたいだ。
 まるい海と広い空。いい思い出の一つもなかったはずだが、悪くはないのかも、この故郷も。
 そんなふうにクラーケンは思い始めていた。

 
 
 
 
 
 
−つづく−

 


 

1.円舞曲−誘いのワルツ
 
 


 
  
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