「おやつですよー」
焼きたてのマドレーヌとミルクティーを持っていけば、ゲームに夢中の子供たちの手も止まる。
「ひと休みすっかァ」
いつの間にか、大きい子供も一人混じっていたようだ。伸びをして立ち上がり、黒岩アキラはお菓子が並べられたテーブルに身を屈めた。
「うまそー」
伸ばした手はすかさずバシッ、と払い落とされる。
「ちゃんと洗ってから!」
アキラは大学生だが、コユキにはあんまり学校に行っていないように見える。こうして日中ちょくちょく訪れては、ネットやメディアたちとゲームをして遊んでばかりいるからだ。
「ハイハイ。洗ってくるよ」
ファッションは今風で、ピアスなんかもしているが、結構かわいいところもある。コユキにとっては弟のような感じだった。
「おいしいでちゅわ」
「コユキのお菓子はプロ級だな」
「ゲームは赤ん坊以下だけどな」
「・・・ほっといてよ」
超一流ゲームプロデューサーの家政婦の割に、コユキはゲームができなかった。家事以外は不器用らしい。たまにネットたちがするゲームに混ぜてもらっても、レベルが違いすぎて結局すぐ諦めてしまうのが常だった。
家政婦とはいえ子守も兼ねているので、一緒に遊んだりおやつを食べたりするのもコユキの仕事のうちだ。まあ、仕事とは意識せず、楽しんでやっているが。
「ところで、コユキ」
アキラは年下なのに、コユキのことを呼び捨てで呼んでくる。最初からこだわらなかったので、コユキはなあに、と目を上げた。
「今度の土曜日さあ、ヒマ? 映画見に行かねえ?」
家政婦の仕事は週休二日だった。地方から出てきて住み込みで働いているコユキには休日に遊ぶ相手がいるわけでもなく、スケジュールを思い出す必要もない。
「まあ、デートのお誘いでちゅわね」
「やるなあ、アキラ」
「バカ、そーゆーんじゃねえよ。たまたま見たいのがあるんだよ」
赤子のからかいに本気で言い返している。そんな反応はコユキにも面白かった。笑いながらカップを置く。
「いいわよ。どうせヒマだし」
「気を付けろよコユキ。猟奇変態男の選ぶ映画だ、血を見るぞ」
ネットが真顔で言うことは、冗談ではないらしい。
「いーじゃねーか。鮮やかな血を見に行こうぜー」
猟奇男はハイな声を出して、しかし暗く笑っていたので、コユキは少し後悔した。
H11.4.15