マ ー ガ レ ッ ト

 



 土曜日は、朝からしとしと雨というあいにくの天気だったが、迎えに来たアキラは「スプラッタの舞台にはピッタリの雨だ」と上機嫌だった。コユキは舞台って何だろう、と思いつつもストライプの傘を持って玄関に降りる。
「コユキちゃん、その不良学生のシュミにつき合って大丈夫なのかい?」
 今日はヒデハルも休みだ。スエット姿でわざわざ見送りに来て、心配そうな顔をしている。コユキは底厚の靴を履いてから顔を上げた。
「私、そういう映画って見たことがないから、一度見てみたかったんですよ」
「クセになるぜえ」
「・・・・」
 ますます心配が募るヒデハルだったが、コユキの笑顔を見るとそれ以上何も言えない。
「アキラちん、レディを泣かせるようなことはいけまちぇんわよ」
「危うくなったら即、逃げろよ、コユキ」
「ウ〜サ〜た〜ん〜」
「ク〜マ〜た〜ん〜」
 みんな好き勝手なことを言っているが、
「ま、楽しんでおいで。せっかくのデートだし」
 というヒデハルの一言で、コユキの笑顔は固まってしまった。
「え? え? デートじゃ・・・」
「さあ行くか、コユキ」
「デートじゃ・・・」
 アキラに腕を引かれて玄関を出る。手を振って送り出してくれるヒデハルのにこにこ顔が哀しくまぶたに焼き付いた。
 デートじゃ、ないのに。
 弁解ができなかった。

 誤解されてしまった。一番誤解されたくない相手に、誤解されてしまった。
 普通の男の子に誘われたのだったら、コユキはためらったと思う。ヒデハルに勘違いをされると困るからだ。
 コユキは傘のすき間からアキラの横顔を盗み見て、そっとため息をついた。
(アキラって、実はホモじゃなかったのかなあ)
 ネットたちがいつもアキラのことをホモ扱いしているから、コユキもてっきりそうなんだと思い込んでいた。だから気軽に誘いに乗ったのに。
「ん? どしたァ?」
 視線に気付いたか、アキラがこちらを向いた。伸ばしかけの黒い髪と、光るピアス。細い体に流行の服が似合っている。
「いや、あの、アキラって・・・」
 ホモなの? 聞こうとして、思いとどまる。いくらなんでもぶしつけだ。
 男が好きなの? ・・・これも同じことだ。
「・・・・なかなか注目集めてるよね」
 結局、全然違うことを口にしてしまう。
「そうか?」
「うん」
 実際、そうだった。すれ違う女の子たちが、ちらちらアキラを見ていったりする。今までホモだと思っていたし、ネットの友達としてしか見ていなかったから気にしなかったが、アキラは結構イイ線いっていた。
「アキラ、おしゃれさんだしね」
「コユキもかわいいよー」
 いつもは働きやすい格好で家政婦業をしているが、今日はお出かけなのでミニのワンピース姿だった。アキラにとっては新鮮なイメージだったので、素直にほめたのだが、コユキは傘を伏せてしまった。
「・・・そんなこと・・・ないよ」
 小さな声は雨にはばまれて、消されてしまう。
 映画館の前まで来ていた。
 
 
 
 
 

 つづく 




 第4話・喫茶七ツ森


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