マ ー ガ レ ッ ト

 
 雨は夜中降り続き、次の日の日曜日になってもまだ糸のように降り注いでいた。
 コユキは、雨であることだし、また特に予定もないことから、今日は五味邸で過ごすことに決めた。
 住み込みの家政婦として雇ってもらっているので、一階の隅に自分の部屋を与えられている。休みの日は好きに過ごしていいことになっているので、思い切り寝過ごすことにして再びベッドに戻った。
 静かに降り続く雨の音は、部屋の中にいると聞こえない。ベッドの中で丸くなって、目を閉じた。休日の午前中はけだるくて大好きだ。
(アキラとのことを誤解されてたら・・・)
(“デートなんだから”というあの言葉が、冗談だったらいいのだけれど)
 つらつら考えることは、軽い眠気に混じって空回りするけれど、それすらも心地よく感じる。平穏な朝寝は、コユキの好きな時間だった。
 願うのは、保証された平穏。俗に言う、永久就職・・・・。

 水の、音がする。
 いつの間にか眠っていたようだが、コユキはぼんやりと目覚めた。
 雨・・・? それにしては、ずいぶんと近く聞こえる。水の流れる音・・・。
「・・ん・・・・?」
 人の気配まで感じて、さすがに身を起こす。
「やっと起きたか、コユキ」
「ブランチいかがでちゅか」
 お子さまたちが箸を持ってこっちを見ている。竹を半分に切った物が、部屋を横切って斜めにセットされており、そこに水が注ぎ込まれていた。これは、どう見ても、流しそうめん。
「・・・・」
 頭を抱える。なぜ人の部屋で流しそうめんなのか。
「ネット・・メディアちゃん・・・今日は私、お休みなんだけど」
「若い者が、休日に寝て過ごすとは何事だ。赤子と健全に遊ぼうとは思わないのか」
「コユキたん、おそうめん流してくだちゃいな」
「ウ〜サ〜た〜ん」
「ク〜マ〜た〜ん」
「・・・・」
 旦那さまの毎朝の苦悩が分かる気がした。

 もはや寝てはいられなかったので、きっぱり諦めてコユキは起き上がった。流しそうめんでブランチをとり、ネットたちと遊ぶ。コユキよりも先に起こされたらしいヒデハルも交えてみんなでゲームをした。
「今日は、アキラは来ないのね」
「ずいぶん気にするねー、コユキちゃん」
 笑いながらヒデハルに言われて、慌ててしまう。
「旦那さま、わ、私はそんな・・・ホモ・・い、いや、アキラとは何も・・・」
 何を言っているのか分からない。
「コユキ、来たぞ」
「あっ」
 慌てて目を画面に戻す。コユキに出来そうな、簡単な落ちものゲームをやっているのだった。
(誤解しないで・・・。私の好きなのは・・・)
 思ったことは口にできない。ブロックが上まで積み上がって、コユキはあっさりと負けてしまった。

「何かおやつでも作りましょうか」
 おやつの時間が近かった。立ち上がりかけるコユキを、ヒデハルが見上げる。
「いいよコユキちゃん。今日は休みなんだから」
「あ、お菓子作りは趣味ですから」
 背中に垂らしたままだった髪を一つにまとめながら、にっこりする。
「何を作ろうか」
 子供たちに問うと、二人は顔を見合わせてから同時に答えた。
「クッキー!」
 コユキの作るものは何でもおいしかったが、クッキーはその中でも格別の味で、二人の大好物だった。
「クッキーね。分かったわ」
 コユキにとっても、得意のお菓子だ。リクエストはとても嬉しかった。
 キッチンに向かうコユキに、メディアがてこてことついて行く。
「コユキたん、あたちにも作り方教えてくだちゃい」
 意外な申し出に、一瞬首をかしげたが、すぐに微笑みを返した。
「いいわよ。一緒に作りましょう」
 今日もおいしいクッキーを作ろう。
 
 
 
 

 つづく 




 第6話・忘れないように


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