マ ー ガ レ ッ ト
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メディアの希望により、今日は型抜きクッキーを作ることにした。
材料を混ぜて生地をこね、伸ばして好きな型で抜く。アルファベットやハート型など、いろいろな型で好きに抜いては、天板に置いていった。
「これはネットちゃまにあげるクッキーでちゅ」
高い踏み台に乗ったメディアが喜々として並べてゆく文字を覗き込んで、コユキはまあ、と小さく声を上げ、笑った。
LOVE
クッキーの生地でそう綴られている。
「大胆ね、メディアちゃん」
小さな手で、ハートで抜いた生地も隣に付けた。
「うぽぽぽ・・・・アピールは常に大切でちゅわ」
実に楽しそうだ。さすがアメリカ人。大した裏付けもなくコユキは感心してしまったが、ふっと思考を記憶がかすめた。
そう、それは初恋。中学生の頃。
あのときも、こうしてお菓子を作っていた。好きな人に食べてもらいたくて、どきどきしながら一生懸命に作っていた。
ハートの型で、小さなケーキを焼いていた。
あのときの、不安いっぱい、期待ちょっぴりの気持ちを、とても久しぶりに思い出したのだ。
恋に素直なメディアの横顔が、呼び覚ましたものか・・・。じわりと苦しいほどのどもとに上がってくる思いを、コユキは持て余してしまう。
いつから、こうなってしまったんだろう。
大人になるほどに、恋には余計なものがくっついてくる。例えばそれは、打算とか、見栄とか、妥協とか、そういったもの。
あのときのように、純粋には人を好きになれなくなったのだろうか。
「どうちまちたの? コユキたん」
「ん・・」
黙りこみ、手も止まったままのコユキをいぶかしんで、メディアが顔を上げる。澄んだ鏡のような瞳が、余計にコユキを狼狽させた。
「・・・・メディアちゃんがうらやましいわ。素直で、可愛くて」
とっさに取り繕うこともできず、本音を洩らしてしまう。メディアは子供ながらに何かを感じ取ったのか、ちょこんと小首をかしげた。
「コユキたんは、レンアイで悩んでまちゅの?」
おませさんの言葉に、コユキの笑みも復活する。
「まあね・・・」
生地を並べ終えた天板をオーブンに入れ、スイッチを入れた。きっとおいしく焼き上がる。
「悩むことなんて、ありまちぇんわよ」
無邪気な調子で、背中に話しかけてくる。コユキはすぐに振り返ることができない。
「・・・大人になっちゃったの、私・・・」
少し、哀しかった。
オーブンの赤い火を見つめる。タイマーのじりじり言う音。
「メディアはね、忘れないようにしてまちゅのよ」
「忘れないように・・・?」
ようやくオーブンから離れ、小さなレディと向き合った。青い瞳をまっすぐ見ることは、やっぱり出来ないけれど。
「最初の気持ちをね、忘れないようにしまちゅの」
「・・・・」
「いつもだと、慣れてしまうでちょ。だから時々、思い出すんでちゅのよ。そして伝えるんでちゅ」
言葉やその他の方法で、まっすぐな気持ちを伝えてゆく。
忘れないように、そして特別な気持ちが、普通にならないように。
「・・・そっか・・・・」
やわらかい気持ちで、体が満たされてゆくのを感じて、コユキは立ち尽くした。
初恋の思い出が呼び水となり、蘇るのは、ヒデハルに対する恋心。
最初にヒデハルに憧れたときの気持ち・・・あの胸のドキドキ。
家政婦に決めてもらったときの喜び。
どこかに行っちゃったわけじゃない。ただちょっと、思い出すことを忘れていただけ。
「そっか・・・」
つづく
第7話・大好き!
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