突発企画 高西さんリクエスト小説  第2話・MOON CHILD

 今日はナオミの誕生日。伯父のマジックからプレゼントの一つとしてもらったドレスを、ナオミは早く着てみたくて、夜のパーティーを待てずにおやつが終わるともう着せてくれとせがんでいた。
 桜の色をしたドレスはスカートがふわりと広がっており、裾はレースでふちどりがされている。ウエストは、幅広のリボンを後ろで結ぶようなデザインだ。胸の辺りにはレースとリボンがふんだんに使われていて、ナオミのかわいらしさにぴったりのドレスだった。
 金の髪は軽くカールしてもらい、同じピンクのフリルつきリボンで結ぶ。
 そうして準備をすっかり整えると、ナオミの愛らしさはまるでお人形のようだった。ガンマ団には無骨な男たちしかいないが、その団員たちですらお世辞にではなく口々に褒めそやした。

「マジックおじさま」
 姪のナオミが、ドアから走り入ってくる。小さな足でとことことマジックのもとに駆けた。
「おお、着替えたのかいナオちゃん。かわいいなァー」
 屈んで両手を伸ばし、ナオミを抱き上げる。ナオミは伯父の首に抱きつき、頬を寄せた。カールした髪がふわりとかかって、マジックはくすぐったそうに片目を閉じる。
「よく似合うよ、ナオちゃん。お姫様みたいだ」
「ありがとう、おじさま」
 大好きの気持ちをこめて、伯父のほっぺにキスをする。マジックは喜んで、小さな体を高く抱き上げた。たかいたかいをしてやると、窓から差し込む陽の光で、お姫様の髪はもっと金色に輝いた。
「ははは・・・。ほーら」
 きゃっきゃっ、とナオミもはしゃぐ。
 と、その時。
「失礼します、マジック総帥」
 硬い声がして、団員の一人が部屋に入ってきた。マジックはナオミを胸のところで抱き、にわかに表情を引き締める。それはガンマ団総帥としての顔で、ナオミは突然の伯父の変わりように少しおびえていた。
「どうした」
 声までさっきまでとは全く別人のようになっている。お仕事なのだと分かっていても、ナオミはやはり怖かった。
 ナオミには理解できない難しい言葉で総帥と部下は話し合い、じきに床の上に下ろされる。
「分かった。すぐに行くと伝えておけ」
「はっ」
 男は、敬礼をして部屋を去った。小首をかしげてナオミは伯父を見上げる。
「マジックおじさま、おしごとにいっちゃうの・・・」
 今夜は、バースディパーティーだってあるのに。
 マジックはようやく顔つきをやわらげて、しゃがみこむと姪の頭をなでてあげた。
「ごめんよ、ナオちゃん。急なお仕事でね・・・。またおみやげを買ってきてあげるから」
 こうなると、わがままは言えない。ナオミは黙ってこくんと頷いた。

 その夜はナオミのためのパーティーだった。明るい音楽と湯気の立つごちそう、そして生クリームたっぷりのケーキ。だが、やはりマジックがいないせいか、ナオミはあまり元気がないようだった。
「ナオミ」
 パーティーが終わって、おのおの部屋に引き上げる頃に、グンマがそっとナオミに耳打ちをした。
「今日は、おにいちゃんと一緒に寝よう。サンルームで」
「・・・うん!」
 花開くような笑顔を見て、グンマはほっとした。いつでも妹を喜ばせてあげたいと、そればかり考えているのだから。

 ガラス張りのサンルームに持ち込んでもらったベッドに、ナオミはグンマと一緒にもぐりこむ。
「高松には、ナイショだよ」
「うん」
 くすくす。笑い合った。
「ほら、ナオミ」
 ナイトキャップを頭にかぶせてあげる。自分もおそろいのものをかぶった。パジャマも兄妹で色違いだ。
「おにいちゃん、どうしたの」
 ナオミはふと気付いて、グンマの手もとを覗き込んだ。左の指先に、いっぱいカットバンがはってある。血がにじんだりして、見るからに痛々しかった。
「かわいそう・・・」
「へ、平気だよ。何でもないんだ」
 本当は大泣きしたんだけど。グンマはお兄さんぶって笑ってみせる。
「それより、ちょっと目をつぶって。お誕生日のプレゼントをあげるから」
「うん」
 素直に目を閉じる。ごそごそ、と何かを取り出す音が、ナオミの期待を高めた。手にやわらかい感触があって、耳にはメロディが届く。「ハッピーバースディ」の曲だ。
「お誕生日おめでとう、ナオミ」
 目を開けた。手の中には、ピンクのうさぎ。
「わあ、かわいい!」
 ほっぺをくっつけて、ぎゅっと抱いてみる。パイル地のぬいぐるみは肌に優しく、ふわふわしていた。音楽は、うさぎのお腹の中から聞こえてくる。
「だっこして寝てもいいし、枕にもできるよ。いろんな曲が入ってるんだ」
「かわいい」
「気に入った?」
「うん! ありがとう、おにいちゃん」
 ピンクのうさぎを抱いたまま、目を上げて極上の笑顔を見せる。グンマはそれだけで嬉しくなった。
 ナオミに、子守歌を聞かせてくれるやわらかなぬいぐるみを作ってあげたくて、ここ数日頑張ったかいがあったと思う。中の機械を作るのはお手のものだった。枕にしたときでも大丈夫なように、機械はごく小さいものでなくてはならなかったけれど、それだってグンマにしてみればちっとも難しいことではない。問題は、外側を縫うことだけ。
 グンマは、ぬいぐるみ作りが上手なマジック伯父に習って、一生懸命に作り上げたのだった。その結果が、指のカットバンだ。もともと手先は器用なので、仕上がりは上手にできたが、慣れない針仕事で何度か指を刺し、泣いてしまった。泣き声を聞きつけてドクター高松が駆けつけてきたときは、それでも急いで作りかけのうさぎを隠したものだった。
 今、そんな苦労も全て報われた。かわいいナオミの笑顔によって。
「大事にしてね」
「うん。おにいちゃんがくれたんだもん」
 毎晩一緒に寝ることに決めた。ぬいぐるみはたくさん持っているけれど、このうさぎは一番のお気に入りになりそう。
「じゃあ、寝ようか」
 ふとんを肩までかけてあげて、リモコンで照明をオフにする。サンルームはほとんどガラス張りのため、照明は足元にしかないが、それが消えると夜空がすっと浮かび上がった。
「きれい!」
「きれいだね」
 はしゃいだままの声を上げる。グンマも声を揃えた。
 空はよく晴れていて、今夜は特に月がきれい。半月に近い月が天頂近くまで昇ってきていて、その黄色い光でふたりをやさしく包んでくれる。
「ナオミ」
 最上級の優しさで呼びかける声は、夜空に吸い込まれてゆきそうだった。
「ボクは、いつでもいっしょにいるから。ナオミのそばに、いるからね」
 ひとり置き去りにして、哀しい思いなんて絶対にさせない。小さな心に、グンマは誓っていた。
「おにいちゃん・・・」
 月と星の光によって眠りへといざなわれ、ナオミはほどなく安らかな寝息を立て始めた。グンマはカットバンだらけの手を伸ばし、そっと妹の髪に触れた。ピンクのぬいぐるみ越しに、ナオミの寝顔が見える。ふんわりとした月のヴェールをまとって、それはそれはかわいらしかった。
(ずっとそばにいるから・・・大きくなっても、ずっとそばに・・・)
 繰り返す、呪文のように。やがてそれはグンマ自身を眠りへと引き込んでゆく。

 MOON CHILD。無垢な兄妹は、月の光注ぐ中で、一体どんな夢を見るのだろう。 

 
 

 

 
 

 おわり
 
 
あとがき
「Still for your love」に続く、突発リクエスト小説です。いつも伝言板にも来てくださる高西さんからリクエストをいただきました。
リクエストは、「小さいころのナオミとグンマ、ちょっと甘めのショート」ということでいただいたので、何かグンマがナオミにプレゼントするおはなしにでもしようか、ということで練っていたところ、ちょうど高西さんからもそのように言ってもらったので、びっくりしてしまいました。

だから第1話「想いの深さに」は、リクエストの部分からは外れるんですけどね。オマケみたいなものです。
しばらくドクターを書いていないなぁ・・・と思ったので、軽い気持ちでやってみました。
着せ替えグンちゃん人形。ちょっと欲しい(笑)。

第2話「MOON CHILD」は少しロマンチックにまとめてみました。
サンルームにベッドを持ち込んで寝る、というのは「20面相にお願い!!」というCLAMPのマンガからもらった設定なんだけど。
私も月や星の下で眠ってみたいなー。いい夢を見そうですね。

グンマは、私の設定では兄なので、少ししっかりしているような気がします。
ナオミのことを本当に大切に思っている。
けど、大きくなってから、ナオミが閉じ込められてもシンタローのようには行動を起こせなかったんだね。
そういえばグンマとナオミは本当の兄妹じゃないんだった。

タイトルはICEの歌からもらいました。
かわいらしい曲で、大好き。カラオケでもしょっちゅう歌ってしまう。
最近ICEのベストアルバムを買ったのもあって、タイトルに使わせてもらいました。

グンマとナオミ、小さい頃のかわいらしさが伝わればいいな。

 
 

          MOON CHILD トップへ    南国少年パプワくんのページへ戻る      ホームへ戻る


H11.5.29