サトシさんカウンタ11110ゲット記念企画小説
3.雹さまラブ
 
 3月に入ったら、急に春らしくなったみたい。日差しも強くなったし、何といっても昼の長いこと。
 木曜日、アキラはバイトが休みだった。何故こんなに足が向くのか自分でも分からないまま病院へ向かう。
(要するにヒマなんだな、オレって)
 手にお見舞いの品を二つぶらさげて、気軽く病室へ入った。
「よぉ」
 ヒトミは雑誌を読んでいたが、顔を上げると妙な表情になる。何やら複雑な気持ちを抱えてそうなったのだが、アキラは気付いているのかいないのか、委細構わず枕元に寄ってきた。
「何読んでんの?」
「な、何でもないよ」
 まるでヤバイものでも見ていたかのように、慌てて隠そうとする。
「なんだ、ブロスじゃん」
 アキラもたまに立ち読みをするゲーム系マンガ雑誌だ。
「今月号? ちょっと見せて」
「うん・・・」
 手渡された雑誌をぱらぱらとめくる。お目当てのページだけざっと目を通して返した。
「ゲームやらないって割には、ブロス読んでんだ」
「お見舞いにもらったのよ・・・」
 何故かどぎまぎしている様子にようやく違和感を覚えた。こっちを見てもくれない。
「元気なさそうだな。あ、入院してるのにこう言うのもヘンか」
「あ、あのね、アキラ先生・・・」
 目をそらしたまま、今にも消え入りそうな声を出す。
「先生はやめろって。アキラでいいぜ」
「でも先生って呼びたいんだもん・・・」
「あっそう」
 それならそれでも、まあいいか。
 ヒトミはようやく顔を上げた。それでも目だけは合わせてくれない。
「この間のあたしの友達が、アキラ先生紹介してくれってうるさいの。だから今度、会ってくれるかな」
「げ、知らない人といきなり会えって言われてもなあ」
 ヒトミともつい一週間ほど前までは知らない人同士だったという事実はすっかり忘れているらしい。
「だけど、あたしの友達みんな美人だよ。この間ちらっと見たでしょ?」
「美人?」
 そうだっけ? うるさいだけだったような気がするが。
「うん。あたしと違ってね」
 自嘲の笑みを混ぜた投げやりな調子に、アキラはリアクションを決めかねる。
 間が持てなくなったとき、手の中にある二つの物に思い至った。
「そうだ、これお見舞い」
 きれいな箱と、ゲームボーイのソフトを差し出すと、ヒトミの表情がとたんに明るくなる。
「わあ、また新しいゲーム?」
 やっとでこだわりのない笑顔を見せてくれたので、アキラは心からほっとした。そして、この笑顔が見たかったんだと気付く。そのために自分はここに来たのかも。
 ゲームで喜んでくれるヒトミの笑顔が見たいから・・・。
「テトリスもすごく面白いよ。ハマってるもん」
「そっかー」
 目玉ゲームはやはりプレイしてくれてないのか。残念。
「今度のはまたオレが作ったヤツだぜ」
「ア、アキラ先生が作ったの・・・」
 ちょっとイヤな予感。
「じゃあ、あとでやってみるね・・・。こっちのは?」
 ピンクの可愛らしい箱を指す。
「クッキーだってさ」
「へえー」
 箱を開けると、中に可愛らしいクッキーがきれいに詰められている。何を思ったか、ヒトミの笑顔は瞬間、凍りついた。
「手作りだね、これ」
「ああ。オレが作ったわけじゃないけどな」
 それはそうだろう。
「・・・彼女?」
 うかがうように、見上げて。ひきつった笑みを浮かべた。
「そうだよねー。アキラ先生、カッコイイもんね。彼女いて当然だよね」
 ふいとクッキーに目を落とす。
「・・・どうして、あたしなんかのお見舞いに来るの・・・」
「・・・・・」
 黙ってしまったのは、心のうちに涌いてきたイライラをどうにか表に出さないためだった。
 なんで人の話も聞かず勝手に思い込んでしまうんだろう。それに、さっきから見える自分への自信のなさが気になった。友達は自分と違ってみんな美人だと言ったり、『あたしなんかの』なんて口にしたり。
「・・・迷惑ならもう来ねえよ」
 押し黙るのも限界で、立ち上がる。ドアから出る前に、肩ごしに振り向いた。
「ゲームで遊んでもらいたかったんだよ。喜ぶ顔、見たかっただけ。それとオレ、彼女なんていねーからな」
 吐き捨るようにして、さっさと出ていった。
 残されてヒトミは重いため息をつく。クッキーの匂いがふんわりと鼻をくすぐった。逆らえず一枚つまんでみる。かなりおいしい。もう一枚。
 手作りのクッキーをくれる人はいるらしいが、彼女はいないと言っていた。友達に伝えれば大喜びすることだろう。もっとも、もう彼が来てくれることはないんだろうけど。
 ヒトミは手鏡を取り出して、自分の顔を覗き込んだ。丸い顔、ついでに鼻も丸い。はれぼったい感じのまぶた・・・。お世辞にも美人とは言えない。客観的に見ればカッコイイ(らしい)、あのアキラ先生とはまともに話ができない。
 我ながらひどい劣等感だった。
 もう一度ため息をつきながら手鏡を元の位置に戻そうとして、大好きなマンガのコミックスをそこに置いていたのに気付いた。手を伸ばして、その本を取る。「ジバクくん」の4巻だ。表紙にはバラを背負った細身の少年が描かれている。
(雹さま・・・)
 すでに目がハート。
 そう、ヒトミは「ジバクくん」のキャラ、雹さまの怪しい・・もとい、妖しい魅力にラリ〜ンと参ってしまっている一人だった。
 他の友達のように、街行く男の人を見てカッコイイとかカッコ良くないとか瞬時に判断ができない。ヒトミにとっては友達が騒ぐアキラよりも雹さまの方が数倍良い男だった。
 会ったばかりなのに色々よくしてくれるアキラの真意が分からないし、みんながキャーキャー言うほどのカッコイイ男だという事実が輪をかけて謎を深めている。友達は「なんでアンタなんかにあんなステキな人が」っていうような目で見るし・・・。もはや恐怖に等しい。
(これで、良かったんだ・・・)
 そのはずだけど。
 どうしてこんなふうに胸が痛むんだろう・・・?
 
 
 
 
 −つづく−



 4.笑顔と自信とちょっとの努力


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