サトシさんカウンタ11110ゲット記念企画小説
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4.笑顔と自信とちょっとの努力
空にはようやく夕方の色がにじみ始め、あちこちのお家から夕げのにおいがただよってくる。
五味家でももちろん、コユキの手による夕飯の支度が始まっていた。
家長であるヒデハルは土曜日だというのにまだ会社から帰ってきていないが、来る頃にぴったり合うように出来上がればしめたもの。メニューはクリームシチューだ。
「・・・だからさぁ、せっかくコユキが作ってくれたクッキーも、そのまま置いてきちまったよ」
椅子の背もたれをまたぐように逆に座って、アキラは先日の出来事を報告している。今日は一日中ネットの家で遊んでいたが、夕方だとというのに帰る素振りも見せない。また晩ご飯をたかろうという魂胆か。
ネットとメディアちゃんは隣の部屋にて、買ったばかりのプレイステーション2でカーレースのゲームに興じていた。二人の楽しそうに遊ぶ声がひっきりなしに聞こえてくる。
「一緒に食べてくればよかったのに」
じゃがいもの皮を器用にむきながら、コユキはちらっと目を上げる。キッチンのカウンター越しに、こっちに向かって座っているアキラは前髪をいじっていた。
「彼女の手作りだって勘違いされてよー」
「アキラの彼女にされちゃったかあ・・・。やっぱり旦那さまの方がいいわあたし」
最近はアキラの前でだけはこういうことを冗談っぽく言えるようになった。以前は例え軽口でも決して口にはできなかったことなのに。
一方アキラも、コユキには何でも話せる。いつの間にか二人は友達だった。
「んなこと聞いてねえよ。勝手にくっつけばいいだろォ、あのおっさんと」
「や、やだ、くっつくなんて・・・」
急にボッと赤くなる。想像力たくましいコユキは頭の中にどんな光景を思い描いているのだろう。
「くっつくなんてェ・・・」
「どこまで皮むく気だよ」
呆れた声で言われてハッと手元を見れば、じゃがいもは最初の半分くらいの大きさになっている。まな板の上にはリボン状にむかれた白いじゃがいもが積み上がっていた。
「ありゃ・・・」
失敗。指でつまみ上げるとぶらーんとぶら下がった。もったいないから適当に切って一緒に入れちゃえ。
「とにかくさあ、なーんか、おどおどしてるってゆーか、自信なさげってゆーか」
それがカンに触る。あの態度を思い出して、口をとがらせた。
コユキは二個目のじゃがいもに取りかかる。
「あのねーアキラ、あなたもお医者さんを目指しているんだったら、患者さんにはもっとおおらかに接しないとダメなんじゃない。病気で入院してるんだから、気弱になっていて当然じゃないの」
コユキって母さんみたいだな。今度はじゃがいもから目を離さないコユキの髪の分け目をぼんやり見やる。
「・・・それに、そのヒトミちゃんの気持ち、あたし分かるような気がするわ」
「え?」
次ににんじんに移って、だいだい色の皮をしゅるしゅるむき始めている。
「“そんなこと、ないよ”って言って欲しいのよ。あたしもそうだったから分かる。きれいじゃないから、って自分で言って、相手に“そんなことないよ”って言って欲しいの」
トントントン。まな板で切る音はリズミカルで耳に心地よい。
「・・・女って、めんどくせえ」
やっぱりゾンビギャルの方が気楽でいいや。
くすっ、と笑って、コユキは再び目を上げた。
「アキラもタチ悪いことに、カッコイイ顔してるからねえ。猟奇シュミだしホモ疑惑だっていうのに」
ほめているのかけなしているのか分からないようなことを言う。アキラも口を曲げてへんな顔をした。
「ま、誰でも自分の容姿を選べるわけじゃないからね」
コユキは以前アキラに誘われて二人で映画に行ったときのことを思い出していた。アキラの外見に女の子たちの視線が集まって、隣にいる自分は何となく肩身の狭い思いを味わったっけ。
「ヒトミちゃんはコンプレックスとうまく付き合う方法をまだ知らないのかも」
「何? その方法って」
にーっこり。笑って。コユキはことさら明るく、秘訣を告げた。
「笑顔と自信と、ちょっとの努力、よ」
どうせ自分は・・なんて言って下を向いていたら、表情は暗くなるばかり。顔かたちが整っていることより、笑顔がかわいい方がいい。そして一つでも自信が持てるものが自分にあれば鬼に金棒だ。
「へーっ。コユキの自信って?」
「あたしはお菓子づくりとお料理・・・まあ、家事全般ね。これだけは誰にも負けない、ってのがあればいいと思うわ」
「なるほどね」
さしずめ自分なら猟奇か。(猟奇に自信って何?)
やけに感心するアキラに、野菜を炒めながらコユキは続ける。あとの一つ、努力について。
見た目だけ飾りたててもしょうがないけれど、服や化粧や髪形に多少の気を遣うことは大切だ。それによって印象はガラッと変わるから。
「って、偉そうに言ってても、あたしもまだまだだけどね」
ぺろっと舌を出した。
「そりゃコユキは毎日仕事してっからな。おっさんとガキどもの面倒見るのに、着飾ってられねーもんな」
言葉を切って、頭をかく。
「・・・ヒトミも、入院中だからそういうのに気を配ってられねーし」
笑顔は確かにかわいい。あと彼女に足りないのは、自信だけということだろうか?
そういえば知らない。ヒトミが何に興味を持っているのか。何が得意なのか。
知りたい。もっと話をして・・・。
「ただいまー」
ヒデハルが帰ってきたようだ。コユキは手が離せないし、誰も出迎えないので自分でダイニングキッチンに入ってくる。眼鏡を手でずり上げてアキラを見た。
「何だ、またいたのか不良学生。そんなんで単位は大丈夫なのか」
「うっせーな。今日は休みだよ」
「おかえりなさい、旦那さま。ごめんなさい手が離せなくて」
「あー、いいんだよコユキちゃん。・・・ふー、今日も労働した。いいニオイだ・・・」
ネクタイを外しながらふらふらーっとしている。こんな男でも恋愛し一度は結婚もしたんだし、今もコユキに好かれているという事実が今まで不思議でしょうがなかったが、今のコユキの話にあてはめると何となく分かるような気がしてきた。
ヒデハルはコンプレックスに無縁の男なのに違いない(そういえば自信過剰)。
「さあ、出来たわ! ネットくんメディアちゃん、ごはんよー」
「おお、できたかー」
「シチューでちゅわー!」
「ウ〜サ〜た〜ん」
「ク〜マ〜た〜ん」
さあ勢揃い。賑やかに夕食を食べよう。あったかいシチューはみんなのお腹にぽっかぽか。
「それで、ヒトミちゃんにあげたゲームってどんなのなの?」
食後のお茶をすすりながら、リラックスタイム。
「ああ、「どこでもいっしょ」をマネして作った、その名も「臓器といっしょ」だー!」
ザザッ・・・。皆がひいてしまった音である。
「そーゆーのしか作れんのか」
「仕方ありまちぇんわ。ホモでちゅもの」
「オイオイ、それ、カンケーあるのかよ」
全く。
−つづく−
5.好きなもの
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