サトシさんカウンタ11110ゲット記念企画小説
6.虹を見ること
 
 走る。早く知らせたくて。虹が消えないうちに、見せたくて。
「病院内は走らないで!」
 年を取った看護婦のキンキン声なんて、無視。
「ヒトミ!」
 病室に飛び込むと、ヒトミばかりでなく同室の女性全員の注目を浴びた。それでも構わず、アキラはヒトミの腕を引く。
「ちょっと、来てみろよこっち」
「痛い、何、ちょっと待ってってば」
 ベッドを下りてスリッパをはこうとする。もどかしくてアキラはパジャマ姿のヒトミをそのまま抱き上げた。
「・・きゃっ・・」
 また、患部をいじめてしまう・・・。
 ドキドキで何も言えなくなって。こんなに近くにいることで、心臓はもう破れそう。そうなったら手術なんていらないな、なんて、笑えないことを考えてしまった。
「・・・ほら」
 すとん、と降ろされたのは、アキラ先生と最初に会った場所、エレベーター近くの窓に向いたソファだった。
「見てみろよ」
 自分も隣に座って、指さしたのは空。
「うわあ!」
 大きな七色の橋に、ヒトミも歓声を上げる。雨上がりの虹、きらきらきれいな虹・・・!
「きれい!」
「だろ!」
 並んで、しばらくは無言で見上げていた。たくさんの思いがあふれてくるのもそのままに、優しい瞳で見上げていた。
 虹は少しずつ薄れてくる。
 そんなときに、ようやくヒトミが口を開いた。
「虹は、約束のしるしって言うよね」
「じゃ、手術の成功の約束だな」
 天が約束してくれているなんて。そんなこと、普段だったら絶対言わないけど。
 今なら素直な気持ちで思える。美しい虹が、ヒトミの手術の成功を約束してくれるんだ。
「大丈夫だよな?」
「うん」
 正直に言えば、不安はすっかり解消されたわけではない。それでも、ヒトミは力強く頷いた。そして虹に微笑んでみせる。
「退院できたら、どっか遊びに行きたいな」
「一緒にどっか行くか? 映画にでも」
「・・・アキラ先生と映画に行くのは、遠慮しとくわ」
 彼が選ぶジャンルを想像できてしまった。
「じゃ、家でビデオ観賞でも・・・」
 いらんって。
「本当は遊園地なんか行きたいけど、急には無理だろうから・・・」
 絶叫マシーンも嫌いじゃないけど、心臓に負担をかける乗り物などには乗れないだろう。
「買い物ってどお? 街ぶらつくだけでもけっこー面白いんじゃねーか」
「うーん、それも・・・」
「何で?」
「だって、アキラ先生の隣にいるのがあたしだと・・・」
 中身はとってもヘンだけど、見た目がカッコイイから・・・。
「んなこと言われたら、一緒にどこにも行けないだろォ。それに誰も見てねえって。そーゆーの、自意識過剰ってんだよ」
「そうかなあ」
「そうそう」
 あまり納得できなかったが、自信のなさが一番いやなのも自分自身だ。
 心臓の手術が成功して、目が覚めたら。そのとき生まれ変われたら。
 強い想いと願いで、虹を見上げる。約束の光束はうっすらと、空に溶けようとしていた。
 
 
 

  
 
 
 

 −つづく−



 7.デート日和


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