サトシさんカウンタ17000ゲットリクエスト小説 「あ、雨」
 突然だった。二人の頭上にぱらぱらと雨粒が落ちてくる。
「やべえ」
 とうとう天気にまで見放されたらしい。アラシは慌てて雨宿りの先を探すが、隣の乙姫は雨を避けようとするそぶりさえなかった。
「わあ、雨!」
 嬉しそうな顔で天を仰ぎ、水を肌に受けてはしゃいでいる。
「すごい。初めてだわ!」
「・・・・」
 雨足はどんどん強くなる。
 それでも化粧も服も気にせず、全身で雨を感じ、ついにはたまらず駆け出した。
「シャワーみたい!」
 ずーっと海の底に住んでいたから、雨に降られたのも初めてで。天然のシャワーは彼女に新しい歓喜を降り注ぎ続ける。乾いていた地面に激しく叩き付ける雨音にリズムを見つけ、ステップを刻んだ。
(そーだよな、普通だったら色々遊びたい盛りだもんな)
 踊るように雨の中を駆ける姿に、アラシは珍しくも哀れみに似た気持ちを抱いた。あの年頃なら、合コンやったり夜遊びしたり飲み明かしたり男遊びしたり、一番楽しい時期に違いないのに。あんなに美しいのにもかかわらず、誰も訪れないような海の底でたった一人、暮らしているんだ。
 デートや空や、雨に憧れながら。
「気持ちいいわ!」
 水の珠をいっぱい滴らせ、こちらに向けた笑顔はズルイくらいの不意打ちで。つい、くらっと・・・。

「すげえ、びしょ濡れだな」
「いいの!」
「でも気持ち悪いだろ。本物のシャワー浴びに行くか?」
「え?」
 急に優しいそぶりを見せるアラシの方が余程気持ち悪い。しかし乙姫は嬉しい気持ちで一杯だったので、疑いもせずついていった。

「ここにでも入るか」
 乙姫も見てみると、壁についた看板には「ホテル龍宮」とある。宿泊7,500円、休憩3,800円。
「ここって・・・」
 地上にあまり出ない乙姫だって、ちゃんと知っている。ここっていわゆる、ラブホテル。
「何考えてんのよ!」
 しもべのクセに! キッと見上げると、アラシは片手をひらひらさせて違う違う、と否定した。
「ここならシャワーもあるし、服かけておけば乾くだろうしゆっくりできるだろ」
「でも」
「何もしねェって」
 逡巡している乙姫の手首をつかみ、ずんずんと中へ進み入った。

「おお・・・」
「デートの締めくくりに早くも突入か」
「あーあ、つまんねーの。帰るか」
 どーしていつも隊長ばっかりいい目を見るんだろう。

「イヤーッ!! バカ放してよ!」
 個室に入るなり力任せに押し倒され、乙姫様大ピンチ! 大きなベッドの上、もがいて逃れようとするが力の差は歴然としている。叫ぶのが精一杯の抵抗だった。
「何もしないって言ったじゃない!」
「ンなわけねーだろ。信じんなよ」
 男の「何もしないから」ほど信じられないセリフはない。乙姫様、勉強不足だったようです。
「さんざん引っ張り回してくれたよな。今日のお礼、たっぷりさせてもらうぜ」
「やだーっ!」
 暴れる両手首をつかみ上げて、びしょぬれの服に手をかける。襟元をぐい、と引っ張られて、乙姫は更に声を張り上げた。
「やめてよ! 破れるじゃない。高かったんだからこれ!」
「払ったのは誰だと思ってんだテメ!」
 それでも本当に高かったことを思い出し、とりあえずワンピースを破り取るのはやめておいた。服の上から、胸の膨らみに手を当てる。
「こんなことして、タダで済むと思っているの!?」
「黙れ、その口きけなくしてやる。おめー、玉手箱も何も持ってねーじゃねえか。何か出来るもんならしてみろってんだよ!」
 今まで、老人にされたあのときのことだけが頭にあって仕方なく小娘の言うことを聞いていたが、よく考えれば今彼女は何も持っていない。どんな狼藉を働いたところで、報復の手だてはないだろう。
「形勢逆転ってとこだな」
 スカートをまくり上げ、中に手を滑り込ませる。耳元に口を寄せた。
「今度は俺の番だ。言うこと何でも聞くように、この体に仕込んでやる」
 低く、ドスの効いた囁き。本物の迫力は戦士特有のもので、乙姫を体の芯から震え上がらせる。陵辱というよりはまるで屠ろうとでもするような、この目。
 殺される。
 恐怖にはしかし、密のような甘さがにじむ。この強い力に絡め取られ、身動きできなくなるなら、もう身を任せてしまおうか・・・。一瞬浮かんだ諦観が、全身を甘くしびれさせる。
「ようやく観念したか」
 おとなしくなった体に、更なる愛撫を加える。ホントはもっと抵抗して欲しい。いやがればいやがるほど、燃えるから。
「邪魔な服、脱いじまえよ」
「・・・わかったから」
 やっと自由にされた両手で相手の肩に触れ、目を上げた。
「そんなに乱暴にしないで。・・・シャワー浴びてもいいでしょう?」

 バスルームでシャワーを頭から浴びながら、乙姫はひとつの決心を固めていた。顔を上げ、ぬるめのお湯を受ける。どうにか体のほてりは鎮めておく必要があった。

「お待たせ」
 バスタオルを巻いただけの姿で出てくると、髪を手でなでつけながらベッドのふちに腰をかけた。黒い瞳を向け、誘うように微笑みかける。
 すっかりほどかれた黒髪は、濡れて肩にかかっている。シャワーの熱をまとった乙姫の、悩ましくも美しいこと。
「なンか拍子抜けするな」
 口調とは裏腹に、嬉しそうなアラシだった。
「待ってよ」
 早速組み敷こうとする腕をとどめ、欲望の塊のような男に至近距離で熱い眼差しを注ぎ込む。
「お願い・・・最初に、キスをして」
 しっとりとした声に、思わずアラシも力を弱めた。
 すっかり化粧っ気はなくなった、でも艶やかな唇を軽くすぼめてみせている。
「優しく、キスしてよ」
 キスとか前戯だとか本来は面倒でキライなのだが、この声でこの唇で求められると拒めない。しもべの反応が板についているというのもある。
「仕方ねェな」
 同じように脇に腰を下ろし、片腕で女を抱き寄せる。濡れた髪をかきやってやり、唇で相手のそれに触れた。柔らかい。
 ぐっ・・・! 乙姫の方から、いきなり強く唇を押しつけてきた。
 甘い・・・!?
「!?」
 液体が口の中へ押し寄せてきた。ぬるくて変に甘ったるい・・・。
 アラシは相手を突き放した。はずみで口に満たされた液体をごくんと飲み込んでしまう。
「てめ、何飲ませやが・・・」
 叫びは最後まで続かない。
 勝ち誇ったような乙姫の顔も、ベッドも、周りのものがことごとく大きくなってゆく。ぐんぐん、ぐんぐん。
 いや、自分が小さくなっている!
「おーっほっほっ!」
 高笑いの乙姫様が見下ろす先には、ベッドの上で焦りまくっている一匹のサンショウウオ・・・そう、特戦部隊隊長アラシのなれの果ての姿があった。
『よくもやりやがったな! バカヤロー戻せ!!』
 と、叫んでいるつもりなのは本人だけで、実際はもう声すら出せない。
「しもべのクセに、私に触れようなんてするからよ!」
 床に膝を付くようにして、ベッド上のサンショウウオと目線を合わせる。指でつんつん、とつついてみた。嫌がって顔を逸らすアラシを面白がって、何度もつついてやる。
「こっちの方がずっと可愛いわ。安全だし」
『るせえ! 早く戻せって!』
「安心しなさい、私のペットにしてあげるから!」
『オイ! 俺ずっとこのままかよ!!?』
「一緒に海底で暮らしましょうねー」
『ペットとしてなんて、冗談じゃねー!!』
 やっぱり、乙姫様の勝ちみたい。

「なんでオレ、こんなことしてんだろ・・・」
 正体がバレた一日乙姫は、小さなタイやヒラメに囲まれて、涙をはらはらこぼしていた。
「いてて・・・つつくなって!」
 責められている。
「乙姫様ー、早く帰ってきて〜」
 ナギの叫びは、海の底でただ泡となって消えていったとさ・・・。

 めでたし、めでたし。
 
 
 
 
 

−END−


 

あとがき

だから、めでたいのか?(笑)

乙姫様は、裏ページの方ごらんになっている方ならご存じのキャラだと思いますが、今回サトシさんのリクエストにより表にも引っ張り出されてきました。
強いよ乙姫様。あのアラッチをしもべにしてるし。
アラシも乙姫様のこと好きみたいよ。でもうまくカップルとしてまとまらないあたりが、面白いよね。

サトシさんは乙姫様の本名と、何故一人で海底に住んでいるのかがかなり気になっていたようですが、その謎は残念ながら何一つ解明されませんでした。ゴメンナサイ(笑)。
「ホテル龍宮」は、我が家の近くにあるラブホです。うちの近くにはラブホが二件もある。近くに小中学校もあるというのに、いいのかしら。

最初はどんなストーリーにしようかすごく悩んでいたけれど、モチーフとして今回は6月ということで、雨を使おうと決めたらできちゃった。とはいえこちら東北北部は、まだ梅雨にすら入っていないんだけどね。沖縄はもう梅雨明けしたんだってね。
この、ストーリーがすらすら出てくる瞬間っていうのが好き。それまでああでもない、こうでもない、ああ、ストーリー出来上がるのかな、って頭抱えているのに、あるきっかけですらすらすらって組み上がる、そのとき。
最高気分いいよ! 小説書いていて楽しいのはやっぱり一つ書き上げたときだと思うけど、ストーリー出来上がる瞬間っていうのも匹敵するくらいイイよ! だって今まで影も形もなかったのに、あっという間に生まれるんだもの!

アラシと特戦部隊の面々も好きになりました。自分で書くまでは、好きでも嫌いでもない、いわゆる「興味ナシ」の対象だったんだけどね。
もともとアーミンキャラで嫌いな人なんていませんよ。自分で書くことによって、大して眼中になかった人に愛着が湧く。私はこれを「ハーレム現象」と勝手に呼んでおります。
こうやってもっともっとたくさんのキャラを好きになっていけたらいいね。
だって、好きな人がたくさんって、すっごく幸せなことだから。

タイトルは今回も遊佐未森から。
雨の中、楽しくスキップするイメージ。

遊佐未森の歌のタイトルを、全部私の小説のタイトルにするのを、生涯の一つの目標にしようかなと思ってる。
とりあえず今まで使ったのを並べておこう。

瞳水晶・花ざんげ・桜・水夢・花一杯君を待つ・カナリヤ・空耳の丘・窓を開けた時・夢のひと・Run in the Rain・Holiday Of Planet Earth・午前10時午後3時・夏草の線路・野の花・Language of Flowers・水色・Island of Hope and Tears・一粒の予感・Floria・太陽とアイスクリーム・海・虹を見ること・たしかな偶然・roka・ミラクル・ONE・たったひとつの・GRACE・Silent Bells

うーん、まだまだだね。
でも一生かかればきっと出来るさ。
 
 
 
 
 



 
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