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「青の一族の男なのに、しかももう死んでしまった人なのに、私はルーザーを好きになったの」
人を愛することに条件や理屈はない。
「本能的に、子供を作りたかった。理由は後からつけただけかも」
それは女の性。
「ジャンが殺されたときね、私、最初は頭に血がのぼって・・・まあジャンの言葉を借りればヤケになったのね、確かに。彼を殺した青の一族に復讐しようと、島を出たのよ」
母が子に話してあげる物語にしては血なまぐさい単語ばかり並ぶが、ナオミは黙って聞いていた。
「たどり着いたのは戦場だった。そこで私は、あの人を見つけた」
横になった位置から見上げて、ナオミはハッとする。黒い髪、朱い唇の艶やかに美しいこと。記憶の中に自分とルーザーの姿を見ているのだろう、颯華は瞬間母であることを忘れ、女の貌になっていた。
「もう死ぬ間際だったわ。青のあの人を、私の赤の力では助けられるわけもない」
サービスが語ってくれたことを思い出す。ルーザーは自ら戦場へ出向いて戦死した。それをしっかり止めてくれなかったマジックを恨む気持ちが、シンタローとグンマをすり替えるという事件に発展したのだった。
「とっさにルーザーをパプワ島に連れてきて、・・・あとはさっき話した通りよ」
娘の髪を撫でる手がふと止まる。
「私はちゃんとルーザーの遺体を返したつもりだった。だけど、青の秘石が彼の体を横取りしたんだわ」
「ママ?」
何を言っているのだろう?
「ルーザーは、この島にいる。青の秘石に保存されて・・・」
「えっ」
あまりのことに、ナオミは思わず起き上がった。聞き違いではない。ルーザーが、父がこのパプワ島にいるって?
「きっと近いうちに彼は目覚めさせられるわ。どんな形でかは分からないけれど」
「ママ・・・。お父様にお会いしなくていいの・・・?」
そんなにも愛したのなら。
颯華は笑う。諦めたように、または哀しそうに。
「あの人は、私のことなど知らないわ。史上最大の片思いよ。私は、あなたに会えたからいいの。あなたにママって呼んでもらえたから」
「・・・・」
「さあ、もう一度抱かせてちょうだい」
「・・・ママ・・・」
ナオミも感じ取っていた。赤の守り人が消え去るときが近付いている。強く強く抱きしめる。母の存在を細胞の奥深くまで刻みつけるように。
「ナオミ」
姿を、声を、匂いを、感触を。
「私が望んだの。この世界にあなたが生まれてくることを。青とか赤とか、本当は関係ない。あなたという子を、望んだの」
「私・・・」
一番聞きたかった言葉に、新たな涙がとめどもなく溢れる。
「嬉しい・・・」
望まれて生まれてきたこと。大事にされて育ってきたこと。
それ以上の幸せがあるだろうか。
「ナオミ・・・私の愛しい娘。あなたを、愛しているわ」
語尾はもはやかすかなものとなって。腕の中の感触が、存在が、消えてゆく。止める手だてはなく、ナオミは泣きながら空気をかきいだいた。ほんの少しでもいい、ぬくもりの名残を求めて。
「ママ・・・ありがとう」
命を、愛を。
「ありがとう・・・」
遠い昔、一隻の舟がパプワ島にたどり着いた。
舟には多くのつがいの動物と、一組の人の家族が乗っていた。
その舟の名を、誰しも一度は耳にしたことがあるはず。
そう・・・、ノアの方舟という名を。
「気にすることねえよッツ! マジック兄貴。この島ごと赤の一族もふっ飛ばしてやろうぜ!」
ヒステリックなハーレムの声が飛行船内に響き渡る。
「シンタローもグンマも・・・・サービスも! アイツら全員裏切り者だ」
一瞬の迷いの末に弟の名も加えたハーレムに背を向け、マジックは一言も発しない。
そのとき、部屋の入り口に人影が現れた。
「変わらんなぁ、いくつになっても。ハーレム」
この声・・・!
記憶の底に沈み込んでいた声を再び聞いた驚きに、はじかれたように振り返る。
死んだはずの男が、この島に来てから密かにずっと気配を感じていた次兄が、そこに立っていた。25年前と全く変わらぬ姿と声で。
「おまえの小鳥は見つかったかい?」
おお、長くなりましたね。こんなに長くなる予定はなかったんだけど・・・。ルーザーが登場したところで切るのは決めていたので、こうなりました。
DEPARTURESの6でした。
今回はナオミの正体が明らかになる、という大切なおはなしでしたので、気合い入れましたよー。熟語などをわざと多用して少しかための文章に仕上げてみました。
ナオミは青と赤の子。「ALONE」をHP用に書き直したとき、勢い余って「ナオミは拾われっ子」という設定を追加してしまった私はその後必死でナオミの正体を考えました。その結果青と赤のハーフというのを考えついたの。
そのころはまだ「自由人HERO」は連載中で、ヒーローが青と赤両方の力を持った子だというのは出ていなかったので簡単にナオミの設定を考えたんだけど、後からHEROにおいて青と赤の力を両方とも手に入れるというのはかなり難しいという内容が出ていたので、ちょっと焦りました。
でもそのまま考えたのを使っちゃった。
母は颯華、父はルーザー。
颯華はHEROの方で出ているオリキャラですが、リキッドがパプワにもHEROにも出ているってのと同じような感覚で、軽い気持ちで出してみました。
南国美女が颯華で、しかもナオミの母だった、というちょっとした仕掛けだったのね。
「遠い河」というおはなしはヒントみたいなものだったんだよ。「遠い河」の中で最初颯華に「争いをやめさせたくて、私は青と赤の子を作った」というセリフを言わせていたんだけど、結局それは削ってしまいました。
「WHITE LOVE」ではキンタローとナオミが本当の兄妹、というふうに書いたんだけど、それもヒントだったの。父親はルーザーなんだよ、っていう。
これ書いている途中までは颯華にはルーザーに対する恋愛感情なんて全然ないものだと思っていたんだけど、でもそうなると青と赤の子を作った理由が弱くて、ちょっと無理があるかな、と思って急遽恋愛感情を入れてしまいました。片思いだけどね。片思いじゃなきゃ、ルーザー天国でナナに合わす顔がなくなっちゃうから(笑)。
しかしどうやって子供を作ったのだろう。二年もかけて、命かけて・・・。謎だ。
でも、ナオミがずっと心配していた「自分は祝福された子供だったんだろうか?」というのに答えてもらえたから良かったんじゃないかな。抱きしめてもらって。
アスも登場してきました。
この人ってよく分からないけどさ・・・。
ナオミの青の力を目覚めさせる方法を、私はアス自身に委ねて書いたんですが、そしたらアスいきなりナオミを抱きしめたからびっくりした。おい、そんなことすんなよッ。ナオミはシンタローのものなんだから!
マンガの中で、ジャンに刺され倒れたシンタローの体に鳥の影が映っているシーンが、私大好きなんですよ。きれいで。だからそのシーンは私もきれいに書きたかった。うまく表現できたかなあ?
ジャンはちょっとギャグっぽいので、そのままギャグっぽく描いてみたよ。ジャンと颯華のパプワ島での生活は、単なるシュミで書いたシーンです。ジャンも働かされていたらしい(笑)。そして颯華に子供を産んで欲しかったらしい。
しかし男と女、二人きりだったら何もない方がおかしいような気もするが・・・。
それはともかく、きっと楽しい毎日だったんだろうなあ。南の楽園でのんびりと・・・私もそんな暮らしがしてみたいよ。
そして私の大好きなルーザーが登場してきてラストです。
次回はいよいよルーザーを書けるのね。今からドキドキです。
タイトルはイエモンの歌。
私の夫がイエモンのファンで、車の中でこればっかり繰り返しかかっていた時期がありました。
私は彼とつき合う前はイエモンなんて聴いたことなかったんだけど・・・。ちょっと懐かしい感じの曲、嫌いじゃないです。
「聖なる海とサンシャイン」はタイトルもカッコイイし、歌も男っぽくていい感じ。夫にCDを借りて、小タイトルも歌詞からもらいました。
DEPARTURESはあと2話で完結にする予定です。今期中に書ければいいなって思ってます。
H12.3.23