DEPARTURES 7


 アスの発するすさまじい波動が、島を破壊しはじめる。
(やめて!)
 青のシールドの中で、ナオミの声は届きはしない。それでも、叫んだ。魂を震わせるように、叫び続けた。
(パプワ島を傷つけるのは、もうやめて!!)
 外の青い光がゆらぎ、薄くなる。アスは急に力をおさめたのだった。願いが聞き入れられたのかと思ったが、そうではないようだ。
 ルーザーの目で見ている方向に、二人の人影が現れる。
(マジックおじ様・・・ハーレムおじ様!)
 おじたちは別々のところから、ほぼ同時に姿を見せた。一定の距離を保って立ち止まり、厳しい顔で互いの意識を探り合っているかのよう。
 マジックはナオミの受けている仕打ちに驚いた様子だったが、それ以上の動揺は見せずただアスをにらんだ。
「こちらの役者はそろいましたね!」
 ルーザーの声で、アスが言う。
「後は、あちらの登場を待つばかりですね」
 シンタローたちのことだ。
「けッ・・・! 下で待機させてる特戦部隊にやられなきゃいいがな」
 他人事のように突き放すハーレムに、マジックは釘を刺す。
「ハーレム、サービスの力をあなどるな!」
「・・・・二人のシンタローもな」
 ハーレムももちろん分かっているのだった。
 そんなやり取りの中で、ナオミはアスの様子に注目していた。シールド越しの青い世界で、父の姿をしたアスは何故か苦しそうに頭に手を添えている。よく見ると、冷や汗が額を伝っていた。
 どこか具合でも悪いのだろうか。
「・・・!?」
 微妙に感じ取った変化に、ナオミはぴくんと身を反らす。何と言ったらいいのだろう。アスの気配が、今までと違うような・・・?
 もっと深く探りたい気持ちはあったが、複数の足音を聞いてそちらに首をめぐらす。
 来た。シンタローたちだ! サービスとジャン、キンタロー、高松、グンマ。それから、チャッピーの背に乗ったパプワ。
 みんなが一緒に、やってきた。
 ナオミは何故か泣きたくなってしまう。あふれてくる感情は、嬉しさとほっとした気持ちと、それとは相反する心配と不安と・・・。
「来たか、シンタロー」
 父の手前で立ち止まる。
「ああ・・・仲間のおかげでな」
「特戦部隊はどうした」
「俺の仲間達が戦ってくれてるぜ。命懸けでな!」
 ハーレムに答えた、ちょうどそのとき、島は再び揺れた。すさまじいほどの爆音と閃光が崖下でひらめいている。一瞬の後、炎なのだと理解した。燃えている。すごい勢いで!
 島が・・・人が。
 また傷つく・・・!
「どうやら決着が着いたようだな」
 ハーレムの冷たい言葉に、ガケ先まで走って呆然と見下ろしていたシンタローはキッと振り向く。しかし視線の先は叔父ではなかった。
「親父・・・最後の忠告だ。この島から出て行け!」
「私はおまえの父ではない」
 強い声を赤いブレザーの背で聞き、マジックは感情なく息子に返す。
「・・・ガンマ団の総帥だ!」
 シンタローはぎりっと歯がみをして、右手を胸の前に上げた。
「じゃあ、俺の敵だ!」
(やめて! 戦わないで!)
 大好きなシンタローとマジックとが死闘を演じるなんて。そんな光景、見たくはないのに!
 ナオミの叫びは青のシールド内で消えてゆく。
「眼魔砲!」
 シンタローの手の先から、力が青白い光となってスパークする。
「秘石眼も持たぬおまえが私に勝てると思うか!!」 
 マジックの両の眼が光った。シンタローのそれを凌ぐ眼魔砲が、襲いかかる! 力に押されて、シンタローは苦悶の表情を浮かべた。
(シンタロー!)
 ここで、こんなことをしている場合ではないのに。どうして必要なときに限って、力は現れてくれないのだろう。今この青い球体をうち破ってシンタローのもとへ駆けることが出来るのなら、青でも赤でもどちらでも構わない。秘石眼の力が出現してくれればいいのに!
 ナオミがどうにか力を呼び起こそうと試みているとき、ドクター高松が皆の中から歩み出ていた。
「何故だ」
 アスに・・・いや、ルーザーの体に視線は固定されている。信じられないといったように。
「何故あなたがそこにいるのですか・・・ルーザー様!」
(違うわ!)
「違う高松! そいつはルーザーではないッツ!!」
 飛び出したのは、ジャンだ。
「そいつの身体はアスに占領されている!」
 しかし、間に合わない。ルーザーの金の髪がふわりと宙に舞う。周りを青に染め変えて、アスは周りの岩石を浮かび上がらせた。青くぼんやり光る硬い石たちは、まるで自ら意志を持っているかのように高松をめがけて飛んでゆく。それはすごいスピードで。
 中でも最も鋭い切っ先が、高松の体に突き刺さった。ナオミの青い視界の中に、びっくりするほど鮮やかに赤い血が飛び散る。
「高松ッ!」
 前のめりに倒れたドクターのそばに、グンマやサービスがひざまづいた。キンタローも一歩下がったところに蒼白な顔をして突っ立っている。
「しっかりして、ねぇ高松ッ! 高松ッツ!!」
 グンマの必死に呼びかけに、高松は薄く目を開く。
「・・・グンマ様・・・」
 血で汚れた顔を、グンマに向けた。
「何があろうと、あなたは生きのびてください」
 荒い息の下で、それでもしっかりと高松は願いを告げた。そして、笑っていた。
「もう一人のシンタロー様とも、仲良くしてくださいね・・・グンマ様。その方も、あなたの大切なイトコなのですよ」
 グンマの頬に涙が伝う。力を失い、目を閉じる高松にその涙はこぼれかかった。
「高松ぅう!」
 震えるグンマの肩を、キンタローは棒立ちのままで見ていた。その肩越しには、ドクター高松の傷だらけになった顔が見える。一見無表情のキンタローに、このときどんな感情の波が立ったのか。
「・・・・」
 高松のそばからゆらり立ち上がり、サービスは残されている左の眼でアスをにらんだ。
「貴様がその姿でいることは許されない」
 これ以上ないほどの憎悪に、秘石眼ではないはずの片目すら激しい光を帯びる。
「やさしかった兄の口から、言葉を語ることは許さない」
 しかし何がおかしいのか、アスは笑った。必死のサービスを見下すように、笑いをやめない。
「くくくくくく・・・やさしい兄ですか・・・」
 そしてはたと止めて。
「いいえサービス、間違いありませんよ」
 胸に、手を当てる。何を言おうとしているのか、ナオミには分かりすぎるほど分かっていた。
(ダメ!)
 それを言っては・・・言ってはいけない!
 だが届かない。よしんば届いていたとしても、ナオミの切なる願いはアスをますます満足させる一助になるだけだったろう。
 彼はいともたやすく、その事実を口にした。
「私があなたの親友を殺した、ルーザーですよ!」
 ナオミは叔父の顔を見ることができず、目をそらした。悔し涙に頬は濡れる。サービスにとって、これ以上残酷な告白はないのに。
「お気の毒ですねぇ。何も知らずに、兄弟の子供をすり替えて」
 お気の毒、だって? そんなこと、露ほども思ってはいないくせに。
「なぁに、気にすることはありせんよ。あなたたち青の一族は、青い秘石が作り出した玩具にすぎませんから」
 完璧なほどの笑顔・・・ルーザーの笑顔は、やはり綺麗なもので、それがナオミには何より悔しく、哀しい。
「ゲームを楽しくするためのキャラクターですよ」
「ふざけるなよ」
 わずか震えを含んだ声に、ナオミは耳を疑った。
 高松のもとから立ち上がって、グンマがまっすぐ、アスに対峙していたのだ。
「何がゲームだよ。ぼくらの運命がすり替えられたのも、ゲームだったと言うのか!」
 こんな兄は初めて見る。
「ぼくらは石コロのオモチャじゃないんだぞ!」
 こんなにしっかりと、大地を踏みしめ物言う兄は。
(お兄ちゃん!)
「石コロだと・・・青い秘石を石コロ扱いするのか、クズが!」
 アスにとっても意外だったのか、焦りが見て取れる。
 ナオミは嬉しかった。
「そのとーりだぜ・・・グンマ!」
 口の端から血を流しながら、シンタローも立ち上がった。
「俺達ァ、石コロなんぞに操られりゃしねぇぜ!」
 アスにではなく、マジックに向けて。
「俺が今までしてきたことは、俺自身のものだ!」
 シンタローはますます声を強くした。
「石コロに縛りつけられて、家族を犠牲にしてきた奴とは違うんだよッ!!」
「・・・おまえにはわからんだろう」
 押し殺すように、マジックは肩を落とした。
−兄さん、ぼくは裁かれますか?−
 あの日の、弟の声が。耳元で蘇る。
「青の一族として生きなければならぬ者の気持ちが」
−兄さん、ぼくは罰せられるのでしょうか−
 弟の涙が、脳裏に焼き付いたまま・・・・。
「秘石眼を持つ者の哀しみが!」
 絶大なる力の裏にあって、常に一族の者たちを暗く覆い尽くしていた、影の部分を。
「・・・わかんねぇよ俺には!」
 わかりたくもない。少なくとも、今は。
 シンタローはナオミの方を見た。
「両眼が秘石眼だったというだけで、ナオミを閉じ込めたあんたの気持ちなんか」
(シンタロー・・・)
「ナオミやパプワや、そして仲間達のために、俺はあんたを倒す!」
 戦いたいんじゃない。終わらせたいんだ。
 そして、その気持ちはみんな同じなんだ。
 ナオミはシンタローの言葉を思い出していた。
−どーしてこうなっちまったんだろうって後ろふり返るより、これからどうするかを考えようぜ!−
 欲しいのは、勇気。どんなことであろうと、現実を真っ直ぐ見据えて、立ち向かえる強い心が欲しい。何かのせいにしないで、そのまま受け止められるように。
 この青いシールドは、自分の気持ちと同じだ。ただ願い、祈るだけで、何もしようとしない自分と。
 撃たれながら最後までグンマの心配をしていたドクター高松。アスに自分の怒りをそのままぶつけたグンマ。そして、青の呪縛を断ち切るために、愛する父と戦うことすら辞さないシンタロー。
(私も・・・)
 ぎゅっと目をつぶり、また開く。
(外に!)
 青く透明な壁が、はじけ飛んだ。

 

 
 
 
 
 

−つづく−


 第3話・Sons and Daughters



 
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