二人で、空を見上げていた。ここは数日前に別れ話をした場所。しかし今は嬉しさでいっぱいで、空も草木も美しく輝いて見えた。
「ねえ、どうして龍のままなの?」
リュウは緑色の大きな体を長々と横たえている。モモカは首の辺りを背もたれがわりに空を見ていた。
「・・・・この前ここで、あんなこと言っちまっただろ。で、おまえを泣かせた。・・・なんか、合わせる顔がないっていうか、何っていうか・・・」
珍しく歯切れの悪い返事を返して、リュウは大きな顔を背ける。モモカは少し笑った。
「じゃあ、どうして連れてきてくれたの?」
「・・・許してくれるか?」
「許すもなにも」
振り返るように、リュウの方を見た。
「嬉しいの。だってあたし、気付いたのよ。やっぱり何があっても、あたしは」
「ストーップ」
ぽん。変身して男の姿になると、手を延べてモモカを立ち上がらせる。
「そこからはオレのセリフだ」
ひとつだけの目で、見つめる。指で髪や頬をなぞると、花人はくすぐったそうに片目を閉じた。
「・・・・」
言おうとした言葉をすっかり忘れた。それより、愛しい存在に触れたくて仕方ない。
もうためらわなかった。心のままに手を伸ばして、強く強く抱きしめる。桃の甘い香りに酔ってしまいそうになる。
「リュウ・・・」
「離さねえよ、もう二度と離さねえ」
胸の高鳴りは、自分のものか、それとも相手のか。もう区別もつけられないほど密着して、気も遠くなりそうな感覚にモモカは目を閉じた。夢中でしがみつき、めくるめくうずきに身を任せる。
「お前の一生を、オレに預けてくれるか?」
「うん。何でも、あげる。全部リュウにあげる・・・・大好きだから」
それが幸せだから。後悔なんて、絶対にしないから。
自分の選んだ人生が幸せだと、胸を張って言えるから。
「全部、くれるか」
「うん」
少し腕をゆるめて、顔を覗き込む。
「じゃあ、早速今もらっちまおう」
冗談混じりに宣言すると、素早く顔を近付けた。触れる唇からしびれが全身に伝わる。背の高いリュウはほとんど中腰になって、深くモモカを求めた。
「・・・ん」
とろんとした瞳を愛しく思い、もう一度抱きしめる。体の衝動は抑えられず、そのまま地面に横たえる。
「・・やだよ、リュウ」
「イヤか?」
髪に触れると、ピンクの巻き毛はくるんと指にからまった。
「怖がらなくても、優しくしてやるから」
「そうじゃなくて」
今にも迫ってきそうなごつい上半身を、細腕で精一杯止める。
「いいじゃねえか。全部くれるんだろ?」
もはや理性を忘れてしまったらしい。目がマジだ。モモカは首を振ってイヤイヤをした。
「そうじゃなくて、ここじゃイヤなのッ!」
クローバに襲われかけたおぞましい思い出の場所なのだ、ここは。
思い切りいやがると、リュウは起き上がって頭をかいた。
「そーだな。こんな明るい空の下じゃ、イヤだよな。場所変えるか」
ちょっと違うが、どうやら理解してくれたらしい。モモカは心底ホッとした。
「それじゃ、改めて、ということで」
部屋の中に入って、シャワーも浴びて仕切り直し。もうムードも何もあったものじゃないが、リュウは欲望に忠実になることにしたので、すぐにモモカをベッドに寝かせた。シンタローが言いたかったことが正確に伝わっているのかいないのか・・・。
それでも、モモカも嬉しかった。自分の全てをリュウにあげるのと同時に、彼の全てを欲しかったから。
肌に触れることでそれが叶うのなら、受け入れよう。体全体で受け止め、包み込もう。
たくさんの愛があふれて、そうして、ひとつになる。
「リュウにとって、あたしは一瞬でもいいの。子供もいらない。あたしが死んだ後、他の人を好きになってもいいから。だけど、それまでは、あたしだけを好きでいて。お願い、あたしだけを・・・」
あどけない寝顔を眺めていた。花のような唇から、小さな寝息が洩れている。全体に軽く汗ばみ、髪も少ししっとりとしていた。
体だけではない。精神の深い満足を得て、リュウは寝顔に微笑みかける。
一緒に年を取って、一緒に死ねたらいいのに。そう考えると、寿命が長い龍人というのも大していいものではないなと思えてくるのだった。
それでも、今こうしていられればいい。こんなにも愛している、その想いを忘れなければいい。
見つめる先で、モモカは目をゆっくりと覚ました。
「・・・リュウ」
恥ずかしそうに頬を染める様子が、初々しくかわいらしい。
「大丈夫か、モモ」
その上気した頬にてのひらで触れる。優しくするとか言いながら、途中でそれもすっかり忘れ、激しく求めてしまったことを申し訳なく思っていた。本当に男というものは・・・。
「辛かったろ」
「ううん・・・嬉しかったよ」
手を伸ばす。むき出しのすんなりとした腕が、リュウの首に巻き付いた。
「すごく、幸せ」
「うん」
もう一度、くちづけを。
そうして終わらない愛を与え合う。
空の下で、与え合う。
シュンメイさん画
あとがき
最初は別のおはなし書こうと思ってたの。でも考えがまとまらなくて、ぽっと思いついたリュウとモモカのおはなしになりました。「THUNDER BIRD」と同じ、マンガで言えば連載後の話。
「他の種族と交わってはいけない」龍人との恋。これ、深く考えるのはやめようと思っていたんだけど、結局書いてしまいました。
テーマは「欲しい物は自分で手を伸ばしてつかもう」。
やらないで後悔するより、できるだけ頑張って手に入れられるだけ手に入れて、それから後悔した方がいいよ。何事でも。
あと、体のことちょっと。
しかしさあ、竜王からして掟破ってんだから、いいじゃんって気がしないでもないね。
呪い子が産まれることが問題なら、子供作らなきゃいいし。ん? それともこの世界には避妊法がないのか?
ああ、HEROが舞台なのに、やけに生々しいことを考えてしまった。リュウはおっさんだからエッチそうで、違和感なくそういうシーンを書いてしまったけど、バードとヒヨでそーゆーのって、なんか書けないなあ。なぜか想像できない。その図を。なぜだろう。
新オリキャラは、モモの姉コウメとその娘アヤメ、母キキョウです。それとクローバか。紙に木や花の名前を思いつくまま書いていって、その中から決めた。うめももさくらというわけで、モモとサクラがいればウメもいなくては。
男の子の名前は木からつけようかと思ったけど、マツとかスギとかアスナロとか、ろくなのが浮かばなかった。クローバーならちょっと男の子っぽくていいかなと。ストーリーは書きながら頭の中で二転三転しました。まあ、いつものことだけど。
流れに任せて思うままに書いていけば、おのずとストーリーは決まっていくんです。
二人があれだけ悩んだのは一体何だったんだ、というラストになりましたが、まあハッピーエンドだし許していただきましょう。
ところでサクラに恋人ができる日は来るのかな? まあムリかな。
そうだ、シンタローにはできないのかな。
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