コンコン。ノックの音はどこか乱暴だが、マジックには親しみ慣れたぞんざいさだった。
「何か用かよ、親父」
顔を見せるなりこれもまた面倒そうに急かす息子に、無防備な笑顔をこぼしそうになって、辛うじてこらえる。
「そこに座りなさい」
シンタローは無言で進み入り、レザー張りのソファに腰を下ろす。マジックの私室は調度品から全て最高級品でまとめられており、天井から下がるシャンデリアなども見事なものだった。しかしまだ年若いシンタローには、どことなく居心地が悪い。
口もとを引き締めて、マジックも斜交いに座った。ガンマ団の総帥は、座り方ひとつとっても貫禄がある。
「シンタロー、おまえ、ナオミのところに毎日のように行っているそうだな」
両手を体の前で組むと、前置きのない話に入った。
「それがどうかしたのかよ」
息子は、憮然とした面もちを崩さない。
シンタローはガンマ団士官学校の2年生。そろそろ反抗期と呼ばれる年頃で、最近扱いが難しくなってきたな、とマジックも困惑しはじめていた。小さいときは、本当にかわいかった。ずっとあの頃のままでいてくれたらと思うのだが。
「ナオミのところに行くのは控えなさい」
「何で・・ナオちゃんは学校にも行ってないんだぜ」
本来なら小学校5年生の歳だが、ナオミはマジックの考えで学校には行かされていなかった。代わりに優秀な家庭教師がついてはいるけれど、シンタローは友達のいないイトコを心配してよく部屋を訪れては話し相手になっていたのだった。
士官学校のこと、勉強やクラスメートや、その他他愛もない話を、ナオミは瞳をきらきらさせて本当に嬉しそうに聞いてくれる。あの笑顔を見たくて、シンタローは二日とあけずナオミのもとへ通っていた。それなのに。
「かわいそうだ、ナオちゃんが」
「・・・・」
マジックは唇を歪める。イトコのことを思いやるなら、なぜ父の気持ちを察してくれないのか。口には出せないもどかしさに耐えきれず、立ち上がった。
「シンちゃん」
もう、取り繕う余裕もない。ガンマ団総帥ではなく、父親の顔になって寵児のそばに立った。シンタローにおおいかぶさるように身をかがめ、右手で髪に触れる。黒い髪はつややかだが硬い質で、マジックにはちっとも似ていない。
「シンちゃんはナオちゃんのことばっかりで、パパのこと考えてくれないんだね」
耳元に息がかかる。くすぐったいのが嫌で、シンタローは顔をしかめた。それでもはねのけることはできない・・・青い瞳に捕らえられてしまうと。
「ナオミは、いずれサービスの妻となる身だ。お前が必要以上に近付いてはいけない」
静かだが低い声。それは、シンタローにもはっきり分かるほどの、たてまえの言葉だった。
本当はもっとシンプルな理由がある。そう、マジックはナオミに嫉妬しているだけ。姪のことはもちろんかわいいが、溺愛している息子のシンタローを取られると思うといても立ってもいられない。
「分かったかい、シンちゃん」
「・・・分かんねーよ!」
視線が外れた隙に、シンタローも立ち上がった。吐き捨てるように言って父に背を向ける。
「アンタのすることなんて、理解できねえ!」
ナオミはまだ小学生。妻とか何とか言っても、ピンと来ないくらいの子供なのに。自分勝手な理由で全てを制限するなんて、あまりにもひどいやり方だった。
「シンちゃん」
振り返って、秘石眼を持つ父をにらみつけることまでは、できなかった。シンタローは真っ直ぐにドアから廊下に出ていった。
一人残されて、マジックはどさりとふらつくようにソファに座り込む。片手を額に当て、目を閉じた。
ナオミが、早く大きくなればいい。そしてサービスと結婚し、子供を産んで・・・。
ナオミ自身のためにも、それが一番いいことに違いない。
(何故・・・シンタローは分かってくれない・・)
ため息をひとつ。
マジックは手を伸ばし、作りかけのヌイグルミと針を手にした。
「シンちゃん・・・」
鼻血を流しながらシンちゃんヌイグルミを手作りする父だった。
H11.5.19