「気持ちがいいわね」
はしゃいだ声を出して、ナオミはシンタローに肩越しの笑顔を見せた。シンタローも、笑い返す。
昨夜マジックに言いつけられたことに反抗するかのように、今日は早速ナオミを外に連れ出した。といっても、そんなに遠くに行けるわけでもない。ガンマ団の敷地にほど近い原っぱに歩いてきただけだったが、ナオミはピクニック気分で上機嫌だった。
二人の影は短く、みずみずしい草木は強いくらいの眩しさだ。空を見上げ、シンタローは手をかざした。
「暑いね」
「うん。でも、すてきだわ。何もかも、きらきらしてる」
まだ日焼けを気にする年頃でもない。屈託ない仕草で両手を広げた。
「夏は大好きよ」
金の髪が揺れるのを、シンタローは目を細めて見ていた。
「そうだ、ナオちゃん、靴を脱いでごらんよ」
「え? 靴を?」
きょとんと、首をかしげた。外にいるのに、靴を脱ぐなんて。
「裸足は気持ちいいよ」
言って、シンタローは自分で先に裸足になった。靴を片手に持って歩き出す。小さい頃からやんちゃだったシンタローにとって、こんなことは普通だった。
「ほら、早く」
軽く駆けて手招きをすると、笑って頷き、そっと白いサンダルを脱いだ。イトコのまねをして片手にまとめて持ち、最初はゆっくり足を踏み出す。
素足の下に、太陽に温められた草と土をしっとりと感じることができる。こんな自然の息吹をじかに感じるのは、初めての体験だ。楽しくなって、ついにナオミも駆け出した。大地をけると、そのたびに立ちのぼる匂いで胸が満たされた。
笑い声の追いかけっこが、大空の下こだまする。それはすがすがしく、どこまでも響き渡っていた。
ヴォロロロロロ・・・・・
この風景にそぐわない人工的な音に、二人はにわかに不快感を覚えて立ち止まる。音のする方向に目を向けたときには、すでに近付いてきていた。金属的なかたまりが、鏡のようにひどく光を反射して、目を刺す。一台のバイクだ。
生い茂る草をなぎ倒し、遠慮ないエンジン音をまき散らしてバイクはあっと言う間に二人の目の前に止まった。レザーのパンツに包まれた脚が大地につく。ヘルメットもしていない。金の長い髪を一つに束ねた男。
シンタローが、何か言う暇もなかった。男はニヤリと不敵な笑みを浮かべると、たくましい腕を伸ばし、ナオミの細い手首を引き寄せたのだった。
「・・・・」
声も出なかった。あっと言う間に抱え込まれ、乱暴にバイクに乗せられたと思うと、もう走り出している。状況の把握にかなり時間を要し、驚くことすら忘れてしまった。
「・・・シンちゃん・・・」
無意識のつぶやきが、突破口になった。とたんにナオミはパニックに陥る。風を切るスピード。耳に遠慮なく突き刺さる爆音。気が遠くなりそうだ。
「シンちゃーん!!」
叫びは、もはや届くはずもなかった。
だがシンタローも、応えるようにイトコの名を呼んでいた。
「ナオちゃん!!」
靴を投げ捨て、走る。バイクは砂煙を引き連れて、みるみる小さくなってゆく。追いつくはずもない。それでも全速力でシンタローは走った。走りながら、頭にはごちゃごちゃととりとめない考えが浮かんできた。
何故ナオミがあんなふうに連れ去られたのか。マジックはこのことを知ったら、どう思うだろう。
金の髪の男。
焼き付いて離れない、強烈な目の光を持った男。
あの男のことは、知っている。
「ナオちゃん・・・!」
H11.5.20